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EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
CEO調査 2026年1月期
世界的な不確実性が続く中、収益性は、原材料費や人件費の上昇により短期的には圧迫されているものの、日本企業のCEOの約70%が収益性の向上を見込んでいます。国内市場の成長制約を背景に、多くの企業が海外展開を進めており、為替効果や海外市場における価格戦略を通じて収益力を高めていることが、こうした前向きな見通しを支えています。
また、2026年に重視する変革の成果として、「トップライン成長の加速」は前提としつつ、「ビジネスモデルの抜本的な再構築」と「オペレーションの最適化・生産性向上」が上位に挙げられています。これは、製造業を中心に、単なる効率化やコスト削減だけでは成長に限界があるとの認識が広がり、垂直統合・水平統合などを通じて事業構造そのものを変革する必要性が高まっていることを示しています。加えて、人材不足が慢性化する中、AIやロボティクスを活用したオペレーション改革が、ビジネスモデル再構築の前提条件となりつつあります。
「今後2年間で、AIが自社のビジネスモデルまたはオペレーションにどのような影響を与えると予想していますか」という質問に対し、AIが自社の価値創出や業務の在り方を良くも悪くも根本から変革すると回答した企業は55%、大幅な改善をもたらし、成功の鍵になると回答した企業は33%でした。いずれにせよ、AIが自社に大きな影響をもたらすと認識している企業は8割強に上っています。特に日本企業では、前者の「根本的な変革」を想定する回答が相対的に多い結果となりました。AIの影響は広く認識されている一方で、AI活用は現場での試行段階にとどまるケースも多く、経営レベルでの理解や意思決定の迅速化が喫緊の課題です。
また、グローバル同様、日本企業でもJVやアライアンス活用への関心が高まっている背景には、収益性と資本効率に対する市場の目線が一段と厳格化していることがあります。成長のために資本を投下するだけでは評価されず、限られた資本をどこに、どのように配分するかが、経営の質として問われる時代に入っています。こうした環境下で、企業は自社の強みに資本を集中させつつ、リスクと投資負担を適切に分散できるJV・アライアンスを、戦略的な成長手段として選択し始めています。収益性と資本効率を軸に、事業ポートフォリオと投資判断を見直すことが、変革の実行力を高め、競争環境の変化に対してスピードで優位に立つための鍵となるでしょう。
川口 宏
EY Japan マネージング・パートナー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役 EY-Parthenonリーダー
CEOが2026年を展望するにあたり、2025年から一貫して変わらないのは、絶えず変化する不安定な環境を乗り越えるためには、適応と継続的な変革が不可欠であるという点です。
地政学的な不確実性が続き、経済の回復ペースにも国・地域間でばらつきが見られる中、企業には、これまで以上に迅速かつ抜本的に自社の在り方を再構築することが求められています。中でも、組織の適応力を高めるため、人工知能(AI)の導入・活用を加速させ、その成熟度を引き上げていくことが重要になっています。CEOは、世界情勢や経済の先行きに対して慎重な姿勢を示しつつも、自社がスピード感を持ってトランスフォーメーションを推進し、持続可能な競争優位を生み出せるという点については、引き続き強い自信を示しています。
こうした自信の背景には、依然として不安定な状況が2026年にかけても続くと見込まれる中で、多くの企業が、AIを活用したトランスフォーメーションとデジタルレジリエンスのための基盤はすでに構築できていると認識していることがあります。その基盤を土台にこれまで進められてきたポートフォリオの再構築や戦略的なM&A、効率化の取り組み(多くの場合、AIと自動化により推進される)は、CEOが自信を持って混乱を乗り切るための強固な足掛かりとなっています。
一方、今後は、これまで以上に規律ある選択が求められます。成長のペースが鈍く、回復力も乏しい経済環境下では、経営陣は投資をどこに、どのように配分するかについて、より的確な判断を迫られるでしょう。AIの活用に関しても、広範な試行の段階から、AIによって生産性の向上や意思決定の高度化、差別化された顧客価値の創出が見込める領域に的を絞った、重点的な規模拡大への移行が進みつつあります。こうした状況を踏まえると、2026年の最大の課題は、短期的なコスト圧力と長期的な競争力のバランスをいかに取るかにあります。
企業を取り巻く環境は、地政学的な分断の進行により、複雑さと切迫感を一段と増しています。貿易同盟やサプライチェーンが新たな形へと変化する中で、CEOはどの市場で成長を追求し、どの市場では柔軟性の確保とリスク管理を重視すべきかについて、戦略的な選択を行う必要があります。多くの場合、それは一部の市場から撤退し、他の市場には一層注力するといった判断を伴うものです。こうした複雑な環境下にあっても、2026年は企業にとって重要な転換点となるでしょう。地理的な視点を軸に、資本配分、トランスフォーメーションの優先課題、AI導入の拡大を整合的に進めることができる企業こそが、環境が好転した局面で競合を上回る成果を上げることができます。2026年は決して平穏な年にはなりそうもありません。しかし、進むべき方向性はこれまで以上に明確になっています。それは、不確実性を前提に練り上げられた、より研ぎ澄まされたポートフォリオを通じて柔軟性を高めること、そしてインテリジェントテクノロジーによって再形成されつつある世界において、変革的イノベーションへのコミットメントを一層強化していくことです。
本レポートの内容
第1章
2026年1月期のCEO Outlook調査で、成長鈍化とコスト上昇に直面するCEOは、自社内のケイパビリティを基盤に成長力と回復力を強化するため、人材とAIによる生産性向上にこれまで以上に注力していることが明らかになりました。
1,200人のCEOを対象にEY-Parthenonが実施したこの最新調査で、CEOの自信がやや後退していることが示されています。全体的なセンチメントは83.0から78.5へと低下し、現在の事業環境を形作るさまざまな圧力に対する懸念の高まりが浮き彫りになりました。最も大きな懸念として挙げられたのは世界の経済成長であり、地政学的緊張、サプライチェーンの再編、景気減速といった要因が重なる環境下で、CEOが自社の需要見通しの見直しを迫られていることが、その背景にあります。こうした認識はEY-Parthenonの世界経済見通し(英語のみ)とも一致しています。実際、同見通しでは、2026年の世界の実質GDP成長率が前年の3.3%から3.1%に鈍化すると予測されています。
こうしたマクロ経済をめぐる不確実性に加えて、エネルギー、人件費、コンプライアンスといった事業コストの上昇を管理する能力に対するCEOの自信にも陰りが見られます。また、コスト上昇分の顧客への転嫁についても、多くの企業で楽観的見方が後退しており、消費者や企業の価値重視の姿勢が強まる中で、価格決定力が弱まりつつあることがうかがえます。
これら一連の分析結果は、インフレ動向に関するEY-Parthenonの見通しとも一致しています。EY-Parthenonでは、世界全体ではインフレ率の鈍化が続くものの、国・地域間でその動きに大きな差が生じると予想しています。関税を課す国・地域では輸入コストの上昇と物価上昇圧力の再燃が見込まれる一方、関税を課される国・地域では需要と商品価格の動向に起因するディスインフレが続くとみられます。
一方、人材とテクノロジーという2つの重要な領域では、自信は依然として強固です。CEOは引き続き、重要なスキルを備えた人材の獲得と維持に自信を示しています。こうした自信を後押ししているのは、ハイブリッドワークモデルの成熟、従業員に対する価値提案の明確化、スキルへの継続的な投資です。同様に、AI、自動化、高度な分析などの新興テクノロジーについても、生産性、顧客体験、長期的な競争力を変革する可能性を秘めていることから、CEOは引き続き強い自信を維持しています。
現下の不確実性の高い状況を乗り切るために、CEOは次の3つの事項に重点的に取り組む必要があります。第1に、AI導入など、生産性向上をもたらす投資を通じて、コスト規律を厳格化すること、第2に、顧客インサイトに基づく、より精緻な価格設定によって利益率を確保すること、そして第3に、新技術の導入を拡大し、地政学的・マクロ経済的な変動にも対応できるチームを擁する、スキルを基盤とする組織への移行を加速させることです。
本調査結果が示しているメッセージは明確です。コストと成長への圧力に正面から向き合いながら、人材とテクノロジーへの投資を強化するCEOは、先行き厳しい1年においても、主体的に成長の流れをつくり出すことができるでしょう。
CEOは、自社の見通しについて楽観的でありながらも、世界経済の見通しには慎重な見方を崩せないという、矛盾した認識を抱えながら2026年を迎えています。地政学的緊張、世界経済の成長鈍化、サプライチェーンの不安定化といった環境に置かれながらも、CEOの大半(約90%)は、2026年に売上高、収益性、生産性が改善に向かうと見込んでいます。このようなギャップは、外部からの圧力がある中でも、企業は決然と行動することで、自らの力で業績を強化し、外部環境の課題も乗り越えられるというCEOの考え方を反映しています。
しかし、CEOのこうした楽観的な姿勢は、コスト圧力の高まりによって、一定の抑制を受けています。2026年の事業コストについて、CEOの61%が上昇を見込む一方、低下を見込むCEOは16%にとどまっています。これは、コスト上昇が一時的なインフレの影響によるものではなく、構造的な変化によるものだとCEOが認識していることを示しています。労働力、エネルギー、技術、規制順守、資金調達といった投入コストは依然として高い水準で推移しており、こうしたコスト圧力の多くは今後も継続する可能性が高いとみられます。
EY-Parthenonができること
EY-Parthenonは、戦略の立案から実行まで、長期的価値を創造するCEOを⽀援します。
続きを読むこうした環境において、CEOはこれまで以上に積極的かつ介入的な姿勢を求められています。その背景には、売上高や収益性にいて、CEOが強い自信を持っていることがあります。CEOは、価格戦略、顧客差別化、ポートフォリオの最適化、デジタルトランスフォーメーションへの投資といった施策を通じて、成長を引き出せると考えています。こうした見方は、生産性向上が見込めるとの認識によってさらに裏付けられています。その結果、テクノロジー、特にAIや自動化、データを活用した業務プロセスの再設計は、コスト上昇を相殺する重要な手段と位置付けられています。
2026年の見通しとして、CEOは自社の自律的な成長や業務運営管理に自信を示す一方で、地政学的な分断や地域間での景気回復のばらつき、貿易摩擦などを背景に、グローバル環境の先行きには高い不確実性を指摘しています。こうした内外環境に対する楽観度のギャップがある中で重要になるのは、その内在する自信をどこまで的確な行動として具現化できるかという点です。CEOには、効率化の取り組みを一段と強化し、実際に生産性向上につながるテクノロジーの導入を拡大し、より高い収益性が見込める領域へポートフォリオを再配分するとともに、俊敏性を高めるためにオペレーティングモデルを再設計することが求められます。マクロ経済環境が厳しい中であっても、社内で培った自信を具体的な業績へと転換できる企業こそが、成功を手にするでしょう。
地政学、経済、テクノロジーをめぐる不確実性が高まるこの状況下で、競争力とレジリエンスの維持を目指す企業にとってトランスフォーメーションは不可欠なものとなっています。本調査によると、CEOの大半は、全社規模の重要なトランスフォーメーションの取り組みを現在進めている(52%)、または、2026年に開始する予定である(45%)と回答しています。
CEOが挙げる優先課題は、必要とされる変化の規模と深さを浮き彫りにしています。世界全体では、CEOの43%が、最も期待する成果として業務の最適化と生産性の向上(デジタル化を含む)を挙げており、コスト構造の再構築と効率性の向上が喫緊の課題であることがうかがえます。一方、消費者の行動が急速に変化する中、40%が需要の安定化に向けた顧客エンゲージメントの強化と顧客維持を優先課題に挙げています。
イノベーションは依然として重要な優先課題であり、CEOの37%が製品やプロセスの高度化に注力し、36%が、マクロ経済の追い風が弱い中でもトップライン成長の加速を目指しています。さらに、コスト削減、従業員エンゲージメント、従業員の定着、サステナビリティ、ビジネスモデルの再構築も挙げられています。これらの優先課題は、企業の再構築が、オペレーションや企業文化にとどまらず、戦略や成長の在り方を含むあらゆる領域に及んでいることを示しています。
こうした野心的な目標の実現には、一度きりの変革ではなく、継続的な再創造を前提とした「変革マインド」が不可欠です。構造的に不確実な環境下において、先進的なCEOは、不完全な情報のもとでも意思決定を行い、試行を重ねながら成果を迅速に拡大し、資本と人材を機動的に再配分します。そして、確実性が得られるのを待つのではなく、反復を通じて学び続けます。
変革マインドとは、防御的な対応にとどまらず、価値を主体的に見いだし、統合し、実現していく姿勢を持つことです。
新たな能力の構築、差別化の強化、自律的な成長はいずれも、価値創出の中核を成す要素です。この価値創出には、生産性向上を加速させるAIやデジタルツールの全社的な導入、スピード感のあるイノベーションの推進、そして俊敏性と協調性の向上を目的とした組織構造の再設計が含まれます。
CEOが検討すべき主要な問いと考慮事項
第2章
CEOは、AI活用を、試行段階から、成果を見極めつつ戦略的に本格展開(規律ある選択に基づくスケール化)する段階へと移行しつつあり、生成AI・自動化・データを組織全体に組み込むことで、適応力と競争優位性の強化を図っています。
CEOは元来、他の経営層に比べ、楽観的な姿勢を取りがちですが、それを踏まえても、その見通しには明らかな変化が見られます。AI投資が過熱しているとの見方もありますが、今回調査対象となったCEOの経験が示しているのは、そうした見解とは異なる現実です。AIはすでに期待を上回る成果を生み出しており、急速に変化する世界において、組織の適応力を高める役割を果たしているとCEOは評価しています。
実際、多くのCEOが、AI導入プロジェクトが期待通り、あるいはそれを上回る成果を上げたと回答しており、目標を下回ったとする回答はごく少数にとどまりました。これは、AIが生産性向上、売上成長、カスタマーエクスペリエンス、そしてオペレーティングモデルの効率化を後押しする、信頼性の高いドライバーとして定着しつつあることを示しています。特に、AI投資がすでに期待を大きく上回る成果を生み出している上位20%の企業では、価値創出の点で最大のリターンを得られる可能性が高いと考えられます。
EY-Parthenonができること
テクノロジーコンサルティングでは、最高デジタル責任者(CDO)や最高情報責任者(CIO)など、企業で重要な役割を担うCxOにとって最も信頼のおけるパートナーであり続けることを目標に、CxO目線で中長期的な価値創出につながるコンサルティングサービスを提供します。
続きを読むAIの導入事例も数多くあり、確かな経済的有効性が確認されています。特に、単純作業の自動化、予測の迅速化・高精度化、リスク検知能力の向上、製品開発の加速、バリューチェーン全体にわたる意思決定の高度化といった領域でAI導入の効果が示されています。
2025年のAI投資は、ハイパースケーラーやデータセンター、AIの大規模展開を支えるインフラなどへの投資が中心でした。しかし、生産性の向上(英語のみ)が投資継続を正当化し、期待水準も成熟する中で、AIの活用はより規律ある選択に基づく拡大フェーズへと移行しつつあります。
戦略的プランニングの観点からすると、AI投資が次のフェーズへ移行しつつあることの意味は明らかです。AIはもはや実験的な試行にとどまるのではなく、企業競争力を左右する中核的な能力となりつつあります。従って、CEOはAIを単年度の施策ではなく、複数年にわたる戦略の柱として位置付け、人員計画、資本配分、さらにはオペレーティングモデルの設計にまで組み込んでいく必要があります。すでに初期段階から多くの成果が表れ始めていることを受け、AI活用の焦点は今後、試験的な取り組みを横断的に広げていく段階から、実効性が確認された施策を本格的に拡大させる段階へと移行していくでしょう。その際に重要となるのは、取り組みの「数」ではなく「深さ」です。全社的に生産性向上を実現するため、AIを重要なバリューチェーン全体に深く組み込み、企業全体での価値創出につなげていくことが求められます。さらに、AI施策の成果が高まるにつれて、企業間の競争は一段と激化すると考えられます。AI投資のリターンが明確になるほど、出遅れた企業は競争上一段と不利な立場に置かれ、結果として投資サイクルが加速する可能性があります。そして、AI導入の成果に対する自信は、CEOにより大胆なトランスフォーメーションを促します。AIは既存業務の最適化にとどまらず、製品やサービス、さらにはビジネスモデルそのものを再構築するための中核的な手段として活用されていくでしょう。
CEOは、今後2年間でAIが自社のビジネスモデルや業務にどのような影響を与えるかについて、すでに明確な期待を示しています。それは、実際の経験に先行するものですが、多くのCEOがAIは事業に大きなインパクトをもたらすとみています。
変革をもたらすテクノロジーとして最も多く挙げられたのは生成AIであり、その割合はCEOの過半数(54%)に及びます。これは、生成AIの活用が、コンテンツ生成、コーディング、顧客エンゲージメント、知識集約型業務などを中心に、試行段階から全社的な導入へと急速に移行しつつあることを示唆しています。
機械学習がこれに僅差で続き(45%)、予測、将来見通し、意思決定インテリジェンスを支える分析基盤としての役割を維持しています。この2つが上位に挙がっていることから、企業が新たなテクノロジーと実績のあるテクノロジーの双方をバランスよく活用していることがうかがえます。
その他のAI:
総合すると、これらの調査結果は、企業におけるAI活用が意味のある、かつ構造的な転換を遂げつつあることを示しています。企業の多くが、個別的なAIの活用から、ワークフローの再構築や意思決定の自動化、人間の能力を組織全体にわたり底上げする統合型AIシステムへと移行しつつあります。AIはもはや単なる効率化ツールではなく、トランスフォーメーション、適応力、成長を駆動する戦略的エンジンとしての位置付けを強めています。
CEOが検討すべき主要な問いと考慮事項
第3章
地政学的な分断が進む中で、企業戦略は再構築を迫られています。CEOは、分断が深まる世界において、AIの活用、パートナーシップの構築、サプライチェーンの多様化を通じて、リスクを管理し、俊敏性を高め、成長を追求しています。
不確実性が一段と高まるグローバル環境の中で、AIを戦略の中核に据え、主体的にかじを取ろうとするCEOの姿勢がより鮮明になっています。従来の事業運営が継続的な混乱に直面していることを踏まえ、安定の回復を待つのではなく、果断な意思決定を通じて行動に移しています。地政学的動向や貿易政策の変化に対応するために過去12カ月間に戦略的投資を見直したCEOは83%に上り、そのうち40%が投資の前倒しを行っています。その他にも事業資産の再配置やサプライヤーの切り替えといった対応も見られ、CEOの積極的な取り組み姿勢を裏付けています。注目すべき点としては、投資を中止または延期したと回答するCEOは少数にとどまっています。これは、グローバルな事業運営体制にレジリエンスと成長機会を組み込むため、規律ある判断のもとで投資を進める姿勢が強まっていることを示しています。
今回の調査では、分断が進むグローバル環境を乗り切り、組織の成長を加速させるためにCEOが重視する5つの重要な戦略が明らかになりました。
EY-Parthenonができること
地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group)の存在意義は、企業が、地政学的情勢が事業に与える影響や、世界的に不安定なこの情勢をうまく乗り切る方法を把握するために支援をすることにあります。
続きを読むデジタル技術の戦略的重要性が一段と高まる中、各国政府は自国のデジタル空間を統制するため、さらに多くの政策や規制を導入していくと考えられます。こうした動きへの対応として、企業は自社のデジタル依存関係を継続的に評価し、デジタル資産に対するレジリエンスと管理を強化するための戦略を策定・実行していく必要があります。その一環として、事業運営に不可欠な重要なサービスを見極め、インフラ、ソフトウェア、データ、専門知識といった領域における依存関係を評価することが重要となります。
地政学的動向を背景に、さまざまな経営上の課題が生じ、企業は事業運営の見直しを迫られています。とりわけデータは、戦略的資産であると同時に、地政学的な摩擦の要因にもなっていることから、各国・地域が新たな規制や制限を相次いで打ち出しており、情報の収集・転送・利用の在り方に大きな影響を及ぼしています。
各国・地域で進む規制措置により、デジタル経済の断片化が不可避となり、企業は業務効率の低下やコンプライアンスコストの増加に加え、シームレスなグローバル事業運営そのものが困難になるといった課題に直面しています。とりわけAI分野では、高度なモデルやクラウドコンピューティングリソースに対する輸出規制が戦略の前提を大きく変えつつあり、企業は機密性の高い知的財産を国境を超えて共有することに一層慎重になっています。その結果、デジタルエコシステムの分断が進み、企業内部においても事業コストの上昇や、イノベーションの鈍化といった影響が生じています。
より広い視点で見ると、現在の地政学的環境は、貿易の再編、規制の相違、戦略的競争が同時に進行する局面にあります。こうした動きは、市場アクセスやサプライチェーン、データガバナンスの在り方に急激な変化をもたらしかねません。このような環境下では、企業にとって、政策動向を先読みする力を高め、規制当局と主体的に関与し、貿易やテクノロジーをめぐるシナリオのストレステストを行うことが極めて重要となります。これにより混乱の影響を軽減し、新たな成長機会を見いだすことが可能になりますしかし、ここで押さえるべきもう1つの視点があります。CEOの多くは、各国・地域の政策転換の局面において、政策形成そのものにはほとんど影響力を持たず、しばしば傍観者の立場に置かれています。一方で、データとAIを活用すれば、CEOは自社としての対応について主導権を得ることができます。AIをプランニングやリスク管理、業務執行に組み込むことで、CEOは不確実性を、事業存続を脅かす脅威ではなく、戦略的に管理可能な要素として扱えるようになります。
CEOが検討すべき主要な問いと考慮事項
第4章
M&Aは、トランスフォーメーションを推進する原動力となります。CEOはM&Aを通じて、デジタル化を加速し、成長機会を引き出せるだけでなく、有機的な変革に比べ、より短期間で新たな能力を獲得・定着させることができます。
2025年のM&A活動は、規模と広がりの両面で回復が鮮明となり、活況を呈しました。とりわけ、50億米ドル超の大型案件は記録的水準に迫る件数に達し、大企業や投資家が、業界の枠組みを再定義するような変革的な取引に資本を投じる自信を取り戻していることが示されました。また、企業の堅調なバランスシートと有利な資金調達環境を背景に米国が世界のM&Aをけん引していますが、その勢いは米国に限られたものではなく、世界各国・地域に広がっています。
同様に、AIの機能やデジタルインフラ、次世代プラットフォームへの需要に支えられ、テクノロジー分野で引き続き最大かつ最も活発なM&A取引が展開されています。一方で、M&A活動の回復基調は、ヘルスケア、エネルギー、工業、消費財、金融サービスといったセクターにも広範に及んでいます。こうした多様な分野への広がりは、環境の変化に対応する中で、企業が高い成長意欲を持ち、戦略的ポジションの再構築を進めていることを示しています。
2026年を見据えると、M&A市場は引き続き堅調に推移すると見込まれます。今回の調査では、今後12カ月以内に買収を実施する意向を示すCEOの53%が、全社的な変革戦略に沿った成果を重視しており、こうした戦略志向の強さが、市場の底堅さを下支えしているとみられます。
EY-Parthenonができること
財務アドバイザー(FA)として、貴社の利益の観点からM&Aの組成からエグゼキューションまでを戦略的な助言によりバックアップ。FAとしての高い専門性発揮はもちろんのこと、グローバル・ネットワークと隣接領域の充実したサービスラインアップ(DDなど)を生かしてのシームレスな案件遂行をお約束します。
続きを読む最優先課題として、CEOの50%が、買収の主要目的に業務の最適化と生産性の向上(デジタル化を含む)を挙げています。これは、効率性を高めるという、より広義の優先事項とも一致しています。こうした整合性は、M&Aを単なる規模拡大の手段ではなく、事業運営の近代化を加速し、先進的な技術力を有機的投資よりも迅速に獲得するための重要な原動力と位置付けるCEOが増えていることを示しています。
同様に、CEOの45%は、買収を通じてトップラインの成長を加速させることを優先課題としています。これは、新市場への進出、競争上のポジショニングの強化、隣接領域における需要の取り込みを図ろうとする意図を反映しています。こうした姿勢は、効率性の追求にとどまらず、イノベーションやポートフォリオの進化を通じた成長を志向するトランスフォーメーション施策とも軌を一にしています。さらに、顧客エンゲージメントおよび顧客維持の向上、コスト削減、製品とプロセスのイノベーション強化といった優先事項も、顧客体験の再構築、コスト構造の最適化、全社的なイノベーションの実現を目指す、より広範で高次のトランスフォーメーションの方向性を映し出しています。
M&Aの最大の強みは、こうした成果を実現できるスピードにあります。社内で完結する有機的なトランスフォーメーションは不可欠である一方、目に見える成果が表れるまでには、投資、組織文化の変革、テクノロジーの導入といった取り組みを、長年にわたり積み重ねる必要があります。これに対し、戦略的に的を絞った買収であれば、能力、人材、テクノロジー、市場アクセスを短期間で獲得でき、トランスフォーメーションの効果を前倒しで享受することが可能になります。
デジタルトランスフォーメーションの加速を目的とするAIネイティブ企業の買収であれ、収益拡大を狙った高成長分野への投資であれ、優れた業務慣行を有する企業の統合であれ、M&Aは時間軸を圧縮し、社内の制約を克服するための有効な手段となります。
しかし、このようなメリットを実現できるかどうかは、ディール・ライフサイクルのごく初期段階から企業統合をどれだけ意図的に進められるかにかかっています。そして、バリュードライバーを明確に定義し、デューデリジェンスから実行段階に至るまで、一貫して厳密に追跡・管理していくことが不可欠です。初期段階で重点的に取り組むことで、効率化や相乗効果を机上の想定に終わらせることなく、実際に特定、測定し、確実に実現することが可能になります。
さらに、買収によって、CEOは実績のあるモデルをゼロから構築することなく取り込むことができ、実行リスクを低減できます。その結果、イノベーションをより迅速に進め、デジタル化を加速させ、早期にシナジーを生み出すことが可能になります。こうした背景から、買収は、機会が時間的に限られた局面において、トランスフォーメーションを実現するための戦略的な近道となります。
このように、M&Aはトランスフォーメーション・アジェンダの延長線上に位置付けられます。M&Aを活用することで、戦略的な優先事項を、より迅速かつ果断に、そしてより大きな競争上のインパクトをもって前進させることができます。
また、トランスフォーメーションを推進するための補完的な手段として、合弁事業や戦略的アライアンスを活用するCEOも増えています。今回の調査結果によれば、こうした取り組みを計画しているCEOの割合は、2025年の62%から、2026年には79%へと大きく増加しました。これは、新たな能力を取得する手段として、パートナーシップの有効性が一段と高まっていることを強く示しています。このような協業は、イノベーションを加速させつつリスクを分担できる現実的な選択肢であり、買収のような全面的な資本コミットメントを伴うことなく、戦略的優先事項を前進させることができます。そのため、アライアンスや合弁事業は、トランスフォーメーションに一刻の猶予もない状況において、スピード、柔軟性、適応力を確保するための重要な原動力として位置付けられつつあります。
国・地域間の摩擦が高まり、国境を超えるディールを行うことの戦略的な意義が見直される中、M&A全体に占めるクロスボーダーM&Aの割合は、2016年以降、低下傾向が続いてきました。とりわけ、地政学的動向はディールの成否を左右する重要な要因となっています。米中間の緊張、制裁制度、サプライチェーンのリスク低減に向けた動きなどを背景に、海外からの買収者は、政治的な反発や取引完了までの期間の長期化、実行リスクの増大などに直面する可能性が高まっています。
多くの国・地域で、国家安全保障および外国投資審査の枠組みが拡張され、義務的審査の対象となる取引が増加しています。また、データ、半導体、AI、重要インフラといった分野を含む「センシティブ」な資産の定義が広がり、ガバナンス統制、現地化要件、強制的な事業売却などの是正措置も強化されています。さらに、コロナ禍後の景気回復が国・地域によってばらつきがあることや金利の上昇を背景に、国内での統合が選好されるようになり、複数の規制当局への対応を要する複雑なプロセスに取り組む意欲は低下しています。加えて、一部の主要な国・地域では反トラスト規制の執行がより介入主義的となっており、クロスボーダーディールでは複数法域での並行申告が求められるケースが増加し、取引スケジュールに影響を及ぼしています。
驚くべきことに、このような地政学的圧力にもかかわらず、2025年のクロスボーダーM&Aは底堅さを保ちました。米国は引き続き、取引額(クロスボーダーディール全体の30%)および取引件数(同17%)の双方で最も魅力的な投資先となっています。もっとも、これらの指標はいずれも2024年比では低下しており、特に取引額ベースのシェアは2016年(38%)から大きく縮小しています。
投資先として検討している国・地域に関するCEOの回答からも、こうした傾向が今後も続くことがうかがえます。
米国は引き続き最有力の投資先であるものの、かつてのような「一強」としての位置付けは弱まりつつあります。米国は、アジアを本拠とするCEOの投資対象国の上位5カ国にはもはや含まれていません。欧州を含む他の国・地域においても同様に投資先としての順位が低下しています。
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政府による監視体制の強化や、注目度の高い政治的介入が相次ぐ中、国際的な取引の推進に対して慎重な姿勢を示すCEOが一部見られます。こうした変化を背景に、2025年9月の調査で示された「現地化」および「地域化」を重視する動きは、今後、クロスボーダーディールの戦略や実行の在り方にも影響を及ぼしていく可能性が高いと考えられます。
CEOが検討すべき主要な問いと考慮事項
2026年1月期のCEO Outlook調査において、以下の点が明確なメッセージとして示されました。不確実性の高いグローバル環境において、トランスフォーメーションを持続的に推進できるかどうかが、先進企業となるか、それとも後れを取る企業となるかの分かれ道となります。地政学とテクノロジーは、世界経済と事業環境をかつてないスピードで再構築しています。明確な意図のもとで投資を行い、オペレーティングモデルを再考し、AIとM&Aを活用して変革を加速させる企業は、安定した環境の到来を待つことなく自ら追い風を生み出し、競合他社に先んじて成長を遂げていくでしょう。
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