英国政府、「ミニ」予算と成長計画を発表

英国政府は2022年9月23日、財政声明(英国政府の「ミニ」予算であり、政府の「成長計画(Growth Plan)」と公式に呼ばれる)を発表しました。本アラートでは、財政声明に盛り込まれた主な発表内容の要約をお伝えします。このトピックに関してEY UKが同日に開催したウェブキャストは、こちらからご登録の上オンデマンドでご視聴いただけます。

日本の企業グループにとっての重要なハイライト

この成長計画の基本的な目標は、英国経済のトレンド成長率2.5%を達成することです。このことを念頭に置いた今回の財政声明には、さまざまな税目の税率引下げや新規投資の優遇措置に関する発表内容が盛り込まれました。これらすべてにより、外国人投資家の投資先としての英国の魅力が著しく高まるとともに、すでに英国で活動を行っている企業や個人にさらなる節税がもたらされることが期待されます。

  • 法人税率は19%に据え置かれる。この税率は他のG7諸国や欧州の主要国すべてと比べて大幅に低く、G20諸国の中でも最低である。ただし、日本のCFC税制(外国子会社合算税制)のトリガー税率を引き続き下回っている。銀行サーチャージも8%に据え置かれるため、銀行および住宅金融組合に係る合計税率は引き続き27%となる。この税率引上げ中止は、今後発表される財政法案の中で確認される予定である。すなわち、この税率引上げ中止は英国GAAPおよびIFRSの目的上まだ実質的に成立していない(従ってまだ財務諸表に反映されるべきではない)
  • 100万ポンドの「年間投資控除(Annual Investment Allowance)」(資本的支出に係る即時損金算入)が2023年4月から恒久化され、設備投資のさらなるインセンティブをもたらす
  • 約40の新たなインベストメントゾーンが導入される。これらは既存の英国フリーポートと類似する税務上の恩典に加えて、計画立案上の規制の緩和を受けることができる。インベストメントゾーンおよびフリーポートは、英国に新たな投資や雇用をもたらすとともに、当該活動を英国全土に広めることを目的としている
  • 政府はEUの規則を2023年12月までに廃止する。これにあたって各省庁は、維持されたEU法をレビュー、置換または廃止することにより、英国の成長の妨げとなっている不必要な事務手続きを排除することが要求される
  • 国民保険料の1.25%引上げ(雇用主と従業員の双方)が、2022年11月6日より撤回される。また所得税の基本税率が2023年4月より20%から19%に引き下げられる(これに伴い、租税条約非適用の場合における利子およびロイヤルティの源泉徴収税率も引き下げられる)
  • 銀行員の賞与上限が廃止される。これにより、金融サービス業の拠点としての英国の魅力がさらに高まることが期待される
  • イングランドおよび北アイルランドの居住用不動産に係る印紙税課税の基準取引金額(超過した場合に納税義務が生じる)が、2023年9月23日より、12万5千ポンドから25万ポンドに引き上げられた
  • 海外からの訪問者を対象とするVAT免税ショッピングが再導入される
 

発表内容の詳細

法人税

英国財務相は、2023年4月1日から予定されていた法人税率の19%から25%への引上げを中止することを確認しました。この19%の税率については、今後発表される財政法案の中で確認される予定です。暫定税金徴収法に基づく動議(成立した場合、当該措置に直ちに(ただし暫定的な)効力を生じさせる)は提出されていないようです。すなわち、この改正は英国GAAPおよびIFRSの目的上まだ実質的に成立しておらず、従ってまだ財務諸表に反映されるべきではありません。次の財政法案について、議会の第三読会が12月31日より前に実施された場合、12月決算の企業は引上げ中止後の税率に基づいて財務報告を行うことが必要になると思われますが、同法案の審議をめぐるタイミングはまだ明らかになっておらず、同法案は来年初めまで当該段階に到達しない可能性があります。

また財務相は、銀行サーチャージが8%に据え置かれること、およびサーチャージ控除の1億ポンドへの増額は予定どおり実施されることを確認しました。迂回利益税は、2023年4月より25%から31%に引き上げられることが法律で定められていましたが、これも25%に据え置かれることになりました。さらに、法人税率の19%据置きの結果として、スーパー控除ルールに関するいくつかの改正が行われると思われます。

加えて、年間投資控除の基準金額は、2023年4月に20万ポンドに戻る代わりに、100万ポンドのまま恒久化されました。また政府が研究開発費控除のレビューを継続し、さらなる改革がある場合は財政イベントにおいて通常どおり発表することが、成長計画の中で確認されています。

法人税率の改正に関するファクトシートはこちらに掲載されています。
 

国民保険および医療・介護負担金

2021年医療・介護負担金(HSCL)法を廃止する医療・介護負担金廃止法案が議会に提出されています。議会における同法案の残る審議過程は、議会休会明けの10月11日に実施される予定です。

加えて財務相は、今年4月に実施された国民保険料(NIC)の1.25%引上げが、2022年11月6日より撤回されることを確認しました。プレスリリースはこちら、HSCL廃止法案はこちらを参照してください。同法案に従い、2022年4月に効力が生じた国民保険料の1.25%引上げは2022年11月6日より後に稼得された収入について効力を有しないこととなりますが、同日より前に稼得された収入については依然として効力を有します。収入が2022年11月6日より後に先送りされることに対処する具体的な回避防止規定は設けられていないものの、この法律は収入が支払われた日ではなく稼得された日を基準としています。

また財務相は、NICと同様に今年4月に1.25%引き上げられていた配当税が、2023年4月から従来の水準に戻ることを確認しました。これは次の財政法案を通じて法制化されます。

これらの改正に関するファクトシートはこちらに掲載されています。また、2022年11月6日以降の新たなNIC率(および年次で適用されるNIC率に係る移行の取決め)を含む、より詳細な歳入関税庁ポリシーペーパーもご参照ください。
 

インベストメントゾーン

財務相は、イングランド地域内を皮切りとして新たなインベストメントゾーンが導入されることを確認しました。これには、指定された区域での事業運営に関する、計画立案上の規制の緩和および税務上の恩典が含まれます。

  • インベストメントゾーン内の事業者は、新たに占有および拡張した敷地について、ビジネスレート(事業用不動産に対する課税)の100%免除の恩典を受けることができる。インベストメントゾーンを受け入れる地元当局は、指定された用地において合意済み基準額を上回る額のビジネスレートの100%を25年間にわたり受け取る
  • 加えて事業者は、商業用または居住用不動産の開発のために購入した土地に係る土地印紙税(SDLT)の100%免除、および新規従業員の収入(年間5万270ポンドを上限とする)に対する雇用主のNICに係るゼロ拠出率の適用を受ける
  • また、指定された用地内で使用される工場および機械に係る初年度における100%のキャピタルアローワンス(税務上の減価償却)、ならびに年間20%の構築物・建物に関する加速されたアローワンスが設けられる

新たなインベストメントゾーンに関するファクトシートはこちらに掲載されています。
 

所得税

財務相は、所得税の基本税率が2023年4月から19%に引き下げられることを確認しました。

ギフトエイドリリーフには4年間の移行期間が設けられ、20%の所得税基本税率における免税が2027年4月まで維持されます。また年金の源泉優遇(RAS)制度には1年間の移行期間が設けられ、20%の税率における免税を引き続き受けることができます。

これらの改正は次の財政法案を通じて法制化されます。所得税の改正に関するファクトシートはこちらに掲載されています。スコットランドにおいて税率の決定権が移譲されている場合には、合意された財政上の枠組みを通じてスコットランド政府が財源を受け取ることになります。
 

土地印紙税(SDLT)

財務相は居住用不動産市場を刺激するため、居住用不動産に係るSDLTの恒久的な引下げを発表し、これは直ちに効力を生じました。政府はSDLTの納税義務が生じる基準取引金額を12万5千ポンドから2倍の25万ポンドに引き上げました。スコットランドおよびウェールズは土地税に関する決定権を移譲しているため、上記の水準はイングランドおよび北アイルランドにのみ適用されます。

加えて、初回購入者に対して印紙税の納税義務が生じる基準取引金額は30万ポンドから42万5千ポンドに引き上げられました。また初回購入者が不動産購入時の印紙税のリリーフが適用できる不動産の取引金額は、現行の50万ポンド未満に代えて62万5千ポンド未満となります。

ファクトシートはこちらに掲載されています。また歳入関税庁ポリシーペーパーにはより詳細な情報が記載されています。この法律は土地印紙税(減税)法案として提出される予定であり、また暫定税金徴収法に基づく動議が提出されています。これにより当該改正は直ちに暫定的な効力を生じますが、議会の再開時に正式に法制化される必要があります。
 

税関連のその他の改正

  • VAT:政府は観光、ホスピタリティおよび小売セクターを支援するため、海外からの訪問者を対象とするVAT免税ショッピングを導入する。これには北アイルランドで現在運営されているスキームの現代化、およびグレートブリテン(イングランド、スコットランド、ウェールズ)における新たなデジタル制度の導入が含まれる。可能な限り早期の実施を目指し、制度のアプローチや設計に関する意見を募集するコンサルテーションが予定されている
  • 酒税:政府は酒税に関する制度のコンサルテーションに回答済みであり、さらなる詳細な技術的コンサルテーションが実施される予定である(詳細についてはこちらを参照のこと)。ドラフトリリーフの改正、小規模生産者に対するリリーフに関するさらなる詳細、およびワイン業界に係る移行上の緩和の詳細が示されている。これらの改革は2023年8月1日から実施される。また政府は2023年2月1日からすべてのアルコール税率を凍結すると発表した
  • 光熱費におけるグリーン税:政府はエネルギー価格保証の一環として、家庭の光熱費に現在含まれているグリーン税を含む環境および社会コストを、2年間にわたり一時的に補填する
  • 維持されたEU法:財務相は、政府がEUの規則を2023年12月までに廃止すること、これにあたって各省庁は維持されたEU法のレビュー、置換または廃止を要求されることを確認した。維持されたEU法(撤回・改革)法案は9月22日に議会に提出された。プレスリリースはこちらに掲載されている
  • 租税簡素化室(OTS):財務相は、OTSを縮小し、代わりに歳入関税庁および財務省に租税簡素化のための検討および取組みを任せると発表した

お問い合わせ先

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo

Richard Johnston アソシエートパートナー

Rebecca McKavanagh シニアマネージャー



Ernst & Young LLP (United Kingdom), London

Jo Stobbs パートナー

工藤 保浩 シニアマネージャー