オーストラリア国民経済計算(2023年12月):景気減速から抜け出せるか

オーストラリア国民経済計算(2023年12月):景気減速から抜け出せるか


パンデミックとその余波が引き続き経済に影響を与えているため、景気減速の終焉を迎えているとはまだ言えない状況です。しかし、不測の事態が起こらなければ、終わりに近づくでしょう。


要点

  • オーストラリアの2023年12月期GDP成長率は0.2%、2022年12月期比では1.5%増加し、予想通りとなった。
  • 消費者は、物価、金利、税金の高騰に引き続き苦しめられ、住宅の建設や改築を先送りにした。企業は、景気減速を予想して受注を控えた。
  • しかし、今回の国民経済計算の発表は不安を与えるものではない。実際、GDP成長率が穏やかでなければ、オーストラリアの家計はさらなる金利上昇に直面しなければならなかっただろう。むしろ、オーストラリア準備銀行(RBA)が現在の「据え置き」ポジションを変える理由にはならなかった。
  • オーストラリア経済は6月の年度末に向けて好転する条件が整っている。

チーフエコノミストより

 

オーストラリア経済の12月期のGDP成長率が0.2%という低成長を記録したことは予想外のことではありません。

 

消費者は依然としてインフレ、金利、税金の直撃を受け、住宅の建設や改築を先送りにしました。企業は需要の減少を見込んで受注を控えました。非鉱業部門の利益は減少し、農業部門は年初ほど天候に恵まれませんでした。

 

しかし、もし成長率が穏やかでなかったら、家計はまたしてもRBAによるインフレ対応策に耐えなければならなかったでしょう。12月期のGDP成長率は前年比1.5%増となり、RBAの最新予想と一致しました。したがって、今回の国民経済計算の発表で、RBAが現在の「据え置き」の立場を変えることはないでしょう。

 

失業率が4%を下回り、インフレ率が低下する中、民間企業投資の伸びがプラスを維持したことは良いニュースでした。その前週に発表された設備投資のデータでは、2024-25年の企業投資への期待が上方修正されました。

 

オーストラリア統計局(ABS)は、再生可能エネルギーのインフラとデータセンターへの投資が増加していることと、企業がさらなる支出を計画していることを指摘しました。鉱業部門は引き続き非常に好調な業績に終わり、オーストラリアの輸出コモディティ価格が当四半期に上昇し、対米ドルの豪ドル為替レートは当期の大半を通じて低水準で安定しました。国際需要(特に鉄鉱石と石炭)は好調で、需要には生産量の増加および在庫で対応したことにより、鉱業利益は 9.2%増加しました。

 

国内では、西オーストラリア州とクイーンズランド州が州内での事業において好調で、州内最終需要はそれぞれ 0.8%、0.6%増となりました。一方、ニュー・サウス・ウェールズ州の最終需要は0.4%減で、ビクトリア州はゼロ成長となりました。これら両州では、公共部門の投資は減少しましたが、これは大規模な輸送プロジェクトが続いているためで、非常に堅調な事業活動に伴うものです。このような事業活動は今後2、3年続くと思われ、EYが今後の経済情勢を楽観視している理由の1つです。

 

当期のサービス輸出は、オーストラリアへの旅行者と留学生の増加が続き、0.5%増加しました。ABSによると、オーストラリアへの旅行者による消費は、パンデミック以前の水準を上回っています。これは、パンデミックによる景気減速から、経済が回復する最終段階の1つといえます。

 

連邦政府も州政府も、ここ数四半期、家賃、育児、医薬品、電気代などの経済的支援を行うことで、家計が高インフレの大きな痛手を受けることを積極的に防いできました。こうした支援は、2024年を乗り切る上で家計にゆとりをもたらすとともに、経済へのダメージを回避するのに役立っています。

 

当期の家計の可処分所得は、家計が支払った税金が3.3%減少したため、わずかに増加しました。名目可処分所得は2年ぶりに増加し、貯蓄率も若干上昇しました。3.2%と、これまでの水準から見ればまだ低いですが、家計の貯蓄率が上昇したのは2021年半ば以降で初めてです。

 

年度末にかけては、7月1日に予定されている減税によって家計に可処分所得が増えるため、明るいニュースもありそうです。実質賃金の上昇も家計部門を助け、金融市場が現在期待しているような実質賃金の上昇が実現すれば、12月期の利下げも実現するでしょう。

 

企業部門の継続的な投資は、生産性向上が徐々に始まっていることを示しています。

 

パンデミックとその余波が引き続き経済に影響を与えているため、景気減速の終焉を迎えているとはまだ言えない状況です。しかし、不測の事態が起こらなければ、終わりに近づくでしょう。

2023年12月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る(英語版のみ)

生活費の圧迫で非必需品の支出を控える家計

家計消費は、金利上昇と継続する生活費圧迫が依然として経済に影響を与えているため、低調に推移しました。12月期の消費は0.1%増となり、これは9月期の0.2%減に続くものです。通年では、消費はほぼ横ばいとなっています。

オーストラリア国民は、食料品や光熱費などの必需品への支出を増やし、外食、衣料品、自動車などの非必需品への出費を抑えました。全体として、非必需品への支出は前期比で0.9%減少し、必需品への支出は0.7%増加しました。

家計は引き続き生活費の上昇に苦しめられていますが、負担はやや軽減されました。所得税は、前期に過去最高だった可処分所得の14.3%から当期12%強に低下しました。固定金利の住宅ローン解約が増えたため、住宅ローンの支払利子は可処分所得の7.3%にわずかに上昇しました。消費者の貯蓄率は、賃金の上昇と社会扶助給付金によって押し上げられ、わずかに上昇しました。貯蓄率は8四半期ぶりに上昇し、3.2%となりました。しかし、コロナ禍以前の5年間の平均である約6.5%を下回っています。


人口急増にもかかわらず住宅投資は低調

住宅建設・改築による経済成長への影響は、2021年第2四半期以降横ばいかマイナスとなっており、この傾向は12月期も継続し、住宅投資は3.8%減少しました。

増築・改築の4.2%減は、パンデミックが始まって以来、四半期ベースで最大の落ち込みであり、家計が生活費の上昇に悩まされていることを明らかに示しています。

住宅と集合住宅の建築許可件数は、2012年以来の低水準に近づいています。同時に、新築住宅建設のための新規持ち家ローン契約件数は、12月までの1年間で6.3%減少しました。許可件数の低水準と持ち家向け建設資金面での現状は根本的な弱みであり、新規住宅投資を引き続き低迷させるでしょう。こうした状況は、人口増加と相まって、住宅市場と値ごろ感を圧迫し続けるでしょう。

一方、投資家は、空室率の低さと堅調な人口増加を好機と捉えており、新築住宅建設のための新規投資家向けローン契約件数は増加しています。しかし、建築期間の長期化と労働力不足といった建設業界の制限が続くため、上昇傾向は緩やかなものになるでしょう。


パンデミック後の回復を見せ始めた生産性

労働生産性は伸びを見せ、労働時間1時間当たりのGDPで前期から0.5%改善しました。これは、労働市場の状況が引き続き緩和したことで、労働時間が減少したためです。この回復傾向は歓迎すべきことですが、確実なものとするには継続的な改善が必要です。

実質単位労働コストは、生産単位当たりの平均労働コストを示す指標で、12月期に0.1%上昇し通年では3.7%上昇しました。

従業員報酬(COE)は、賃金、雇用、雇用の変動を反映した経済全体の賃金/報酬を示す指標で、前期の2.8%増の後、当期は1.4%増となりました。年間ベースではCOEは8.4%上昇し、減速したものの依然として高い水準にあります。COEは、年間4.2%上昇した賃金価格指数(WPI)よりはるかに高いですが、それはWPIの賃金上昇の定義がより狭いものとなっているためです。

中国からの鉄鉱石と石炭の需要増による鉱業利益の回復が追い風となって、12月期の企業利益は2.6%増加しました。年間ベースでは、2022年のピークをはるかに下回る1.4%の増益となりましたが、これは国内需要が軟化する中、投入コストの上昇が収益を直撃したためです。


国内の物価上昇圧力は緩和、しかし依然としてRBAには懸念材料

オーストラリアの交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は、9月期に2%落ち込んだ後、12月期には2.2%上昇し改善に向かいました。これは、輸出価格の上昇(3.1%)が輸入価格の上昇(0.8%)を上回ったためです。鉄鋼生産を支援する中国の政策による刺激策が輸出価格をけん引したことで、石炭価格が上昇し、鉄鉱石価格がトン当たり120米ドル以上に上昇しました。

国民経済計算による国内経済への物価上昇圧力は引き続き緩やかになっていますが、国際価格と国内価格の上昇要因は異なるものです。国際価格は当期に0.8%上昇しましたが、年間では3.1%下落しました。一方、国内物価は年間4.6%上昇しました。


経済に占める公的需要の割合は依然高い

公的需要(消費および投資の両面)は、12月期の成長に0.1%ポイント貢献しました。しかし、GDPに占める政府消費と投資は依然として高い比率のままです。

政府消費は12月期0.6%増となり、通年では2.7%増加しました。この増加は連邦政府の非国防支出が同四半期は2%増加したことによるもので、家計向けの健康関連の政府給付と人件費が中心でした。国防支出は9月期の大幅な伸びののち、当期は3.5%減少しました。

公共投資は前期の1.7%の大幅な増加の後、12月期は0.2%減で2022年以来初めての減少となりました。州・地方政府などを主体とする公社によるインフラ投資は、交通・医療インフラへの一般政府の投資減少によって相殺されました。年間ベースでは、公共投資は13.6%とやや緩やかになりましたが、2021年に記録した近年最高の成長率に近い水準を維持しています。公共部門の大規模なインフラ事業が進行中であることを考えると、公共投資は2024年まで高水準で推移するでしょう。


企業は投資を継続、未来は明るい兆し

民間投資は前期の1.5%増の後、12月期は0.2%減となりましたが、これは主に住宅投資の大幅な落ち込みによるものです。企業投資は、非住宅建設が後押しして機械・設備投資の1.6%減を相殺することで、当期0.7%増加しました。企業投資は、年率換算で9月期の7.7%超から当期は8.2%へと若干上昇しました。

成長率の低迷、投入コストと賃金の上昇といった民間部門が直面している課題にもかかわらず、企業の投資意向は驚くほど堅調を維持しています。2023-24年の設備投資需要は、前回予想を3.8%上回りました。この指標は名目ベースであることから、資本財や建設コストの上昇が要因となっている可能性が高いです。2024-25年の投資計画に関する第一次推計は1,456億豪ドルで、前年同期を12.6%上回り、2012-13年の鉱業ブーム以来の大幅な伸びとなりました。しかし、第一次推計値は信頼性に欠ける可能性があるため、注意して読み取る必要があります。


純輸出は予想外に上振れしたが、良いニュースではない

純輸出全体では四半期GDP成長率に0.6ポイント貢献しましたが、これは主に輸入が3.4%減少したためです。

商品輸入は四半期を通じて2.8%減となり、資本財、消費財、中間財といったすべての商品で減少を記録しましたが、これは需要の低迷を反映したものです。最も顕著なのは、非産業向けの輸送用機器(自動車およびその他自家用車)が8.1%減少したことです。サービス輸入は当期5.3%減少しましたが、これはオーストラリア人が海外旅行の支出を減らし前期よりも近距離の旅行先を選択したため、旅行サービス支出が9%減少したことが要因です。

一方、商品輸出は、農産物の輸出が低調でしたが、鉱業コモディティに対する旺盛な需要により一部相殺され、12月期を通しては0.4%減となりました。サービス輸出は、外国人観光客と学生が引き続きオーストラリアに戻ったため、0.5%増加しました。

民間部門の在庫(主に鉱業と卸売業)が27億豪ドル減少したことがGDPの妨げとなり、12月期のGDP成長率を0.3%ポイント押し下げました。しかし、公共部門の在庫が大幅に増加したため、いくらか相殺されました。


サマリー 

12月期の国民経済計算では、年間GDP成長率が1.5%と、RBAの予想通りに景気が減速しています。本年度を良い状況で締めくくるための条件は整っているため、この結果は、経済活動の大幅な悪化を懸念する理由にはなりません。


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