データセンターの電力グリッドへの統合~運用柔軟性を通じた方策とは

データセンターの電力グリッドへの統合~運用柔軟性を通じた方策とは


生成AI利用拡大等に伴うデータセンター増に起因する局所的電力需要に対し、データセンターの運用柔軟性の高度化によって電力グリッドとの統合を図る取り組みが注目されております。

当該取り組みは、電力システムの将来像においてどのように位置付けられるのでしょうか。


要点

  • 生成AI利用拡大等に伴うデータセンター需要増大により、局所的電力需要発生による電力グリッドへの影響が懸念。

  • 当該影響の緩和のため、データセンター事業者による運用柔軟性の高度化によって、電力グリッドとの統合・調和を図る取り組みが注目されている。

  • 具体的には、無停電電源装置(UPS)を分散型エネルギーリソース(DER)として捉え、VPP(仮想発電所)・DR(需要応答)において利用することなどが検討。

  • 当該取り組みを通じて、データセンター事業者は、創出したさまざまな便益について、小売電気事業者やアグリゲーター等との契約を通じてマネタイズできる。

  • 将来的には、データセンター事業者とアグリゲーターによる垂直統合の進展なども考えられ、電力バリューチェーンが変容することも予想される。


1. データセンターと電力需要

DX進展、さらには生成AI利用拡大による計算処理増加に伴うデータセンター需要により、国内における将来的な電力需要は大きく増加する見込みです。電力広域的運営推進機関による「全国及び供給区域ごとの需要想定」によると、これまで人口減少や節電・省エネルギー等により電力需要が減少傾向でしたが、データセンター・半導体工場の新増設等により、今後10年にかけて電力需要は増加する見通しが示されています。具体的には、2034年度における全国の電力需要量は8,524億kWh(2024年度比+6.2%)に達すると予想されています。

2024年12月にわが国政府が公表した「第7次エネルギー基本計画(案)」においても、電力需要増加を念頭に置いた上で、2040年度エネルギー需給見通しやエネルギー政策の将来像が提示されたところであり、データセンターへの電力供給については、エネルギー政策と産業政策の一体化という観点からも主要な論点となっております。
 

2. データセンターと電力グリッド

(1)局地的電力需要への対応 

データセンター需要は、地域系統内におけるピーク時需要をさらに先鋭化させるとともに、特定地点において大規模需要を発生させるという特性を有しております。経済産業省電力・ガス取引監視等委員会では、この局地的電力需要への対策という観点から、「局地的電力需要増加と送配電ネットワークに関する研究会」を通じて、課題整理や対策検討を実施しており、2024年6月には取りまとめ報告書が公表されております。

局地的需要増による電力グリッドへの影響(例: 系統混雑等)を緩和するためには、送配電ネットワーク投資に加え、需要地に近接した発電所投資が必要となりますが、現状ではデータセンター集積地と再エネ等の脱炭素電源集積地が必ずしも一致しておりません。そのため、将来的には、データセンター分散立地に向け政策的支援を通じて、脱炭素電源が豊富な地域へのデータセンター立地促進が期待されています。

このような潮流を踏まえ、経済産業省・総務省による「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ3.0」では、2030年代に向けたデータセンター整備の基本的な方向性として分散立地に向けた政策的支援策を検討しております。具体的には、オール光ネットワークの社会実装・整備を推進しつつ、電力・通信インフラの関係性を踏まえながら、脱炭素電源の近傍にデータセンターの立地を誘導する方針が提示されています。
 

(2)運用柔軟性の高度化・最適化

電力グリッドへの影響を低減・緩和という観点から、データセンター施設の保有する需要側リソースの役割に着目し、データセンター事業者による運用の柔軟性(Flexibility)や調整機能を高度化・最適化することによって、電力グリッドとの統合・調和を図る取り組みが開始されております。諸外国においても同様の取り組みが開始されており、例えば、データセンター新規建設に伴う電力グリッドへの影響が深刻化している米国では、米国電力中央研究所(EPRI)が、米国エネルギー省(DOE)との検討を経て立ち上げたイニシアティブであるDCFlexにおいて、データセンターの電力グリッド統合に向けた実証を展開しております。当該イニシアティブには、大手のデータセンター事業者や電気事業者に加え、PJM、ERCOT等の広域系統運用機関(RTO/ISO)が参加しており、各所から注目を集めております。

運用柔軟性の高度化に係る具体的方策として、例えば、データセンターが安定稼働上の必要性から具備する無停電電源装置(UPS)を活用するケースが挙げられます。UPSは、系統からの電力供給途絶等が発生した場合において、UPS内蔵もしくは外部接続されている蓄電池等を利用して、施設内のサーバーやネットワーク機器類に一定時間に限り電力供給を図る電源システムです。このUPSを電力グリッドにおける分散型エネルギーリソース(DER)として捉えVPP(仮想発電所)を構成するリソース群として位置付けることにより、需給逼迫時におけるDR(需要応答)対応や調整力供出が可能となります。

さらに、遅延性が許容される計算基盤等の高度運用・制御を通じて、DR指令に応じて複数のデータセンター間において計算負荷を柔軟に分散することが可能となれば、データセンター需要を他地域に分散させることも可能となります。わが国では、太陽光等の変動性再エネの大量導入により、時間帯によっては再エネ発電量が需要を大きく上回り、この余剰電力に対する出力抑制に係る費用が大きな問題となっておりますが、24時間・365日の一定したロードカーブという需要特性を持つデータセンターは、余剰電力の吸収先として機能することが期待されています。データセンターの地域分散化が進展した環境下においては、再エネ由来の余剰電力が発生しているエリアに対してデータセンターに計算負荷を移すことにより、再エネ有効活用を通じた出力抑制コスト低減に資することとなります。これにより電力グリッドの安定化だけでなく、再エネ大量導入下における電力システム構築にも大きな役割を果たすことが可能となります。
 

3. 電力産業・電力市場における位置付け

データセンター事業者は、上記取り組みを通じて電力グリッドへの負荷を緩和するとともに、創出したさまざまな便益について、小売電気事業者やアグリゲーター等との取引を通じてマネタイズすることが可能です。アグリゲーターとは、複数のDERや需要家側リソースを束ね、電力会社や電力市場との間に立って需給管理やリソース有効活用に取り組む事業者であり、VPP・DR等による「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)」を展開しております。わが国では、2022年4月の第5次電気事業法改正により「特定卸供給事業制度」として法的に位置付けられており、需要家やDER等と直接契約を結ぶリソース・アグリゲーター(RA)、さらにRAを取りまとめるアグリゲーション・コーディネーター(AC)に分類されております。

例えば、DRによる代表的形態である「ネガワット取引」では、データセンター事業者は、アグリゲーターと契約に基づき、需給逼迫時においては依頼に応じて需要抑制(下げDR)することで、電力料金低減に加えて、アグリゲーターから報酬を得ることもできます。なお、DRによるマネタイズは、主に経済DRと電力市場取引に分類されますが、後者の場合であれば、DRによって創出された電力価値はその価値に適した電力市場(kWh価値<卸電力市場>、 kW価値<容量市場>、ΔkW価値<需給調整市場>)を通じて取引することになります。

またわが国では、一般送配電事業者による調整力調達市場として「需給調整市場」が既に運用されておりますが、先述のUPS活用ケースでは、いわゆる高速調整力として10秒以内といった短時間での応動が求められる「一次調整力」商品のカテゴリーとして、需給調整市場における供出が期待されております。
 

4. 今後の展開

データセンター事業者は、系統電力に依存するだけでなく自ら電源確保を期待されており、特にカーボンニュートラルを踏まえ再エネ電源調達が求められる状況にあります。近年では、より細かな時間粒度で再エネ発電量と需要量を管理し、全時間帯(24時間×365日)においてカーボンフリー電力にて需要を満たす「24/7 Carbon Free Electricity」の動きも広まりつつあり、電力調達における新たな制約条件となっております。

このような潮流を踏まえると、VPP・DR等を通じた運用柔軟性の高度化・最適化によって、電力グリッドとの統合を図る取り組みはますます重要になると考えられます。特に、複数のデータセンター間における計算負荷制御については、データセンター間の連携に加えて、計算基盤等の高度運用・制御にも関与するアグリゲーターとの連携が重要となってきます。従って、将来的には、データセンター事業者とアグリゲーターとの間の垂直統合性の強化など、電力バリューチェーンが変容する中、新たなビジネス機会が創出されることが期待されます。
 

(参考資料)
電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度版)」
電力・ガス取引監視等委員会「局地的電力需要増加と送配電ネットワークに関する研究会」
経済産業省・総務省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ3.0」
EPRI  ”DCFlex Data Center Flexible Load Initiative”


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サマリー

データセンター需要増大に伴う局所的電力需要による電力グリッドへの影響が懸念される中、データセンターの運用柔軟性の高度化によって、電力グリッド統合を図る取り組みが注目されています。データセンター事業者は、当該取り組みを通じて創出したさまざまな便益について、アグリゲーター等との契約を通じてマネタイズ可能であり、両事業者間の垂直統合の進展を通じて、電力バリューチェーンが変容することも期待されています。



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