ケーススタディ

新たなイノベーションの創出に向けた都道府県初のサービスとは?

「広島デジフラ構想」に基づき、建設分野におけるインフラデータの一元化・オープンデータ化を目指して開発されたデータ連携基盤「DoboX(ドボックス)」。官民連携のもと、県が保有する多岐にわたる膨大なデータを利活用するために構築されたそのプラットフォームは今、運用開始後2年の実証を経て、建設分野にとどまらない活用の広がりを見せています。全国に先駆ける取り組みはどのようにして生まれ、成長したのか。広島県土木建築局の野浜慎介氏にお聞きしました。

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The better the question

土木建築インフラ情報を一元化し外部とデータ連携を可能にするプラットフォーム開発のきっかけとは

広島県は全国に先駆け、公共土木施設などに関するあらゆる情報を一元化・オープンデータ化し、外部システムとのデータ連携を可能にするインフラマネジメント基盤を、EYに技術的な支援を受けながら構築しました。


広島県とEYで取り組む、建設業界のDXとは?

森:広島県では2022年6月から「DoboX」というインフラマネジメント基盤を運用されています。「土木×DX」で「ドボックス」と命名されたとのこと。弊社のメンバーがシステム開発に関わらせていただきましたが、どのようなシステムか、ご説明いただけますでしょうか。

野浜氏:一言で申し上げると、広島県が持つ公共土木施設などに関するあらゆる情報を一元化・オープンデータ化して、外部システムとのデータ連携を可能とするデータ連携基盤です。主な機能は3つあり、データの「公開機能」「集約機能」「管理機能」に分かれています。

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「公開機能」は、今まで行政内部で利用していた情報を、オープンデータとして誰でも利用できるようにした機能です。例えば、浸水想定区域や土砂災害警戒区域といった災害リスク情報や、公共土木施設に関する情報を、2Dや3Dのマップ上で重ね合わせて確認することができます。

「集約機能」は、既存のシステムからデータを自動で取得したり、DoboX内に手動で登録したりできる機能。

そして3つ目の「管理機能」は、データの公開範囲や利用者の閲覧権限などを設定する機能となっています。

図-1 システム概要図

森:政府は2020年3月に発表した「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ」で、スマートシティの実現に求められる都市OS(行政や物流、交通など生活インフラを動かすソフトウェアの基盤)の要件として、①相互運用(つながる)、②データ流通(ながれる)、③拡張容易(機能を広げられる)の3つを挙げています。この点についてはいかがですか。

野浜氏:はい、その3要件も備えていて、汎用(はんよう)的なオープンソースを使っています。パブリッククラウド上で構築することで拡張性を担保するとともに、オープンAPIとして提供することで、民間事業者が運用しているアプリなどとも連携可能です。建設分野だけでなく、防災や観光といった、分野を超えたサービスを提供できる基盤となっています。


都道府県で初となる先進的な挑戦

森:DoboX公開時のプレスリリースでは「都道府県で全国初!」とうたわれていますね。大変先進的な取り組みとして注目されていますが、そもそもこのような基盤システムを導入しようと考えたきっかけは何だったのでしょう。

野浜氏:県が保有する多くのインフラデータがあるにもかかわらず、県民の皆さまに十分に利活用されていないという実状がありました。このたくさんのインフラデータを一元化・オープンデータ化するなどして利活用してほしいと考えたのがきっかけです。

また、DoboXの構築・運用拡大については、建設分野の調査、設計、施工、維持管理の各段階において、デジタル技術を最大限に活用し、官民が連携してインフラをより効果的、効率的にマネジメントしていくため、目指す姿や50項目の取組案をとりまとめた「広島デジフラ構想」(2021年3月策定)の取り組み一つに位置付けています。

森:具体的にはどのようにインフラデータが利活用されることを想定されたのでしょうか。

野浜氏:2018年に起こった「平成30年7月豪雨(西日本豪雨災害)」を覚えておられますか。西日本を中心に甚大な被害をもたらしましたが、広島県でも全域で土砂災害や河川の氾濫が多数発生し、多くの尊い命が奪われるとともに、県民生活や経済活動の基盤となるあらゆるインフラに多大な被害が及びました。この大惨事を教訓に、ハードの整備にデジタル技術やデータを計画的に活用することや、維持管理をより効果的・効率的に推進すること、また災害リスク情報などの的確な発信や防災教育の高度化など、ソフト対策のさらなる充実・強化が急務になりました。

もちろん、行政分野におけるデジタル化やデータ利活用については、これまでも個々の業務ごとにシステム導入などによる効率化を進めてきました。一方で、書面や対面で行う業務がいまだ多く残っていたのも事実です。インフラデータについても、道路や河川などの分野ごとにシステムを構築していたため、分野間でのデータ連携はもとより、国や市町などの施設管理者間の連携もできておらず、オープンデータ化も進んでいない状況でした。

こうした状況を一刻も早く改善し、県民の安全・安心、利便性のさらなる向上を図りたい、新たなビジネスモデルの転換へとつなげたい。そのために、インフラデータを官民で利活用できる仕組みがまず必要だと判断し、全国に先駆けてインフラ分野に特化したデータ連携基盤を構築することになったのです。

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The better the answer

精緻な調査と強固なコラボレーションで達成したDoboXの短期構築

DoboXの構築期間は構想から運用開始まで約2年。データ連携基盤として具備すべき技術的な要件の取りまとめを行った基本事項検討業務など、技術的に支援したEYとの緊密な連携により、広島デジフラ構想の推進になくてはならないシステムの早期実現を果たしました。


一刻も早い運用開始が最重要課題

森:構想段階から実際の運用開始まで、約2年という非常に短い期間で達成されました。短期での構築は大変だったかと思いますが、どのような流れで開発を進められましたか。

野浜氏:DoboXは「広島デジフラ構想」に掲げたさまざまな取り組み案を実現する上で核となる、極めて重要な基盤であったため、可能な限り早期に運用を始めることが至上の命題でした。そのため、構想策定と同時並行で、システム構築に必要となる作業の確認を進めていきました。

図-2 運用開始までの流れ

図-2 運用開始までの流れ(広島県土木建築局資料を基にEY作成)


野浜氏:このような急を要するプロジェクトの遂行において、EYの方々のご支援は非常に大きな力になったと思っています。DoboXを実現しなければ、関連する多くの取り組みも進まないという状況でしたから。

森:ありがとうございます。広島県の皆さまが強い使命感とスピード感を持って取り組んでおられるので、私たちも乗り遅れまいと全力で臨んでまいりました。システム開発にあたる基本事項の確認業務に始まり、仕様等の詳細調整業務、そして構築に伴う技術支援と、一連のプロセスを一緒に進めさせていただきました。

野浜氏:建設DX担当の県職員は土木技術職のみで構成されていましたので、データ連携などのデジタル技術に精通した者はおりません。そうした状況下で、いずれの業務についても適切かつ速やかに伴走支援をしていただきました。

図-3 DoboXを活用した取り組みの全体像

調査・調整業務から技術支援までEYが丁寧に対応し、盤石な基盤構築が可能に

森:基本事項の確認業務では、DoboXが具備すべき機能などを明確にするために、保有データの棚卸しや、先行事例などの調査を支援いたしました。具体的には、土木建築局内の全ての課と、インフラデータと親和性が高いデータを保有されている企業局や農林水産局、危機管理監も含めて、全部で18の課が保有されている49のシステムとデータについてヒアリングを行い、システム構成や運用状況、データ形式などの現状と、連携に当たっての課題を取りまとめました。

また、国内外での先行事例を60件ほど調査して、データプラットフォームの活用事例や運営体制などを整理しました。その中から広島県が目指しておられる取り組み像に近い5つの事例を選び出し、システムの詳細やデータ連携の可能性などについて個別のヒアリングを実施いたしました。

これらの調査結果を踏まえたところで、DoboXを活用した取り組みの全体像が見えてまいりましたので、その上でデータカタログ機能やアプリケーション機能といった、基盤に必要となる機能を整理する作業をサポートさせていただきました。

野浜氏:ヒアリングを通じて、各部署の職員から丁寧に事情を引き出してくださったのは本当に助かりました。その過程で、どういう方向性で基盤をつくるのか、どんなデータを連携させるのかをより明確にすることができました。技術的な支援もさることながら、実はこうした調整業務が現場では大変重要です。

森:それぞれの部署には既存のシステムがございますので、その運用を担当する業者さんとの調整も含めて、多くの方々のご協力があればこそ、これだけスムーズに進めることができたのだと思います。

野浜氏:そうですね。最初の基本事項をしっかり検討できたので、その先の業務である仕様等調整業務や構築時の技術的支援についても、うまくリードしていただくことができました。

森:担当した私にとって大変うれしいお言葉です。弊社では基本事項の結果を踏まえ、先行して一元化が進んでいた21のシステム・データの詳細調査をはじめ、データ連携方式の検討、システム機能要件やシステム構成などの詳細な仕様の検討、さらにはDoboX構築に対する意見募集やRFIの実施といった部分についても支援を続けてまいりました。

また、さまざまなデータの相互連携・共有を可能とするためには、変化に柔軟に対応できるオープンなデータ連携基盤を構築しなければなりません。そこで、セキュリティの確保を大前提に、「アジャイル・オープン・UI/UX・民間コラボレーション」を基本理念として、広島県さまの理念を損なわないようなシステム構築の調達に関する技術的な支援をいたしました。

広島県土木建築局 建設DX担当課長 野浜 慎介 氏

広島県土木建築局 建設DX担当課長
野浜 慎介 氏

野浜氏:はい、最後までアジャイルに対応していただけたことも奏功しましたね。本番稼働開始後も、データ提供元システムとの連携調整や、直前の機能追加要望への対応など、さまざまな苦労もありましたが、おかげさまで2022年6月28日に運用を開始することができました。

思えば、当初は全国でもほとんど類例のない取り組みを進めるのに暗中模索の不安もよぎる中、プロポーザル審査を経て特定の事業者の技術や製品に依存せず、中立公平に選定した結果、ベストな選択ができたと思っています。

月15万回と記録的なダウンロードに

森:オープンデータのプラットフォームは運用開始ができたとしても、徐々に使われなくなることが多いと聞きます。その点、DoboXの利用状況はいかがでしょうか。

野浜氏:DoboXの場合、幸いにして多くの方に使われてきていると実感しています。さまざまな媒体や機会を通じて積極的にPRしたことや、イベントなどで周知を図ったことの効果が表れているのかもしれません。運用開始から2024年12月末までの30カ月間の累計利用状況は、3Dマップなどの可視化コンテンツの閲覧数が約4万回、オープンデータのダウンロード数が約260万回となっています。

特にダウンロード数は、当初は月5,000回程度だったものが、1年後の2023年7月頃から急激に伸び始めて、今では月に約15万回にまで達しています。一般的なオープンデータサイトはおおむね 月5,000回と聞いていましたので、それを超えるようになればいいねと内部で話していたのですが、ここまで予想外に伸ばすことができてうれしい限りです。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング パートナー 森 勇雄

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
リスク・コンサルティング パートナー
森 勇雄

森:素晴らしい誤算ですね。ダウンロードされたデータは何に利用されているのでしょうか。

野浜氏:アンケート調査などで利用方法を確認したところ、地域の防災活動や、民間企業が所有する設備の被災リスクの確認、また大学での研究活動にも使われていることが分かりました。さらに、DoboXのデータを活用した民間企業による観光ナビアプリや防災アプリといった、新たなサービスの提供にも発展していることが確認できています。

図-5 公開データの利用状況

図-4 オープンデータのダウンロード数(広島県土木建築局資料を基にEY作成)

データ種別

ダウンロード数

具体的な利用方法

災害リスク情報
(浸水想定区域等)

554,983回

  • 地域の防災活動での説明資料やマップの作成
  • 管理設備の被災リスクの確認および対策の検討

都市計画関連情報
(都市計画基礎調査結果等)

166,431回

  • GISに取り込みデータ分析業務等に活用

ボーリングデータ

21,092回

  • 建設工事等における調査計画立案

3次元点群データ

1,752回

  • 3次元設計によるアクセス道路の計画等
  • 災害リスク情報を可視化するための3D地図の作成
  • 土石流発生後の地形を確認するための基礎資料

その他
(公共土木施設基本情報等)

1,850,605回

  • 施設の位置情報をGISに取り込み業務に活用

合計

2,594,863回

集計期間:2022/6/28~2024/12/31(30カ月間)

図-5 公開データの利用状況(広島県土木建築局資料を基にEY作成)


続々と生まれる新たなサービス

森:データの利活用を進めるためには、保有データの公開にとどまらず、実際のサービスにつながるような取り組みを実践することが重要です。DoboXでは、どのようなサービスにつながっていますか。

野浜氏:デジタル田園都市国家構想推進交付金も活用しながら、さまざまなサービスを提供しています。いくつか一例を紹介しましょう。

野浜氏:
システムやデータは構築して終わりではなく、利活用されてこそ価値を生むものです。DoboXの価値を実証する活用が今後も増えていくことを期待しています。

図-6 DoboXを活用したサービス提供のイメージ

図-6 DoboXを活用したサービス提供のイメージ(広島県土木建築局資料を基にEY作成)

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The better the world works

県民視点によるデータ利活用でより良い地域社会の実現を

DoboXの活用が民間による新しいサービスの創出を生み、県民の暮らしに新たな付加価値を呼び込んでいく。その究極の目標に向かい、広島県の挑戦は続いていきます。

さらなるデータ利活用を促すために

森:DoboXの普及に向けて、データ利活用に関するイベントも開催されているそうですね。

野浜氏:はい。「DoboXデータチャレンジ」というコンテストを2023年度から開催しています。DoboXの公開データなどを用いて制作した地域課題の解決に役立つアプリやアイデアを募り、優秀作品を選定するもので、データ利活用の重要性や有用性の発信、次世代を担うデジタル人材の育成などを目的としています。

初年度には14作品の応募があり、2作品が大賞に選ばれました。2年目を迎えた今回はさらに増えて22作品の応募を集め、2025年2月の最終審査を経て最優秀作品を決定しました。

また、コンテストに先立ち、プログラミングの経験のない方でも気軽に応募できるよう、アプリケーションの開発等を支援するハッカソン(プログラム開発イベント)も立ち上げました。IT関連事業者の他、建設事業者や学生などが参加され、参加者と県職員が協働して地域の課題解決に向き合う良い機会となっています。

他にも、地元企業との連携により、大学の講義でデータを活用して地域課題解決を図るアイデアソンを開催するなど、地方のデジタル人材確保を目的とした取り組みも今、積極的に展開しているところです。

森:まさに県民視点に立った実践例ですね。自治体のプロジェクトはやはり、そこで暮らす方々の生活の向上に結び付くものであるべきだということを、今後も支援する側として強く意識しなくてはならないと思いました。

野浜氏:そう言っていただけると心強いですね。私たちの目標はあくまでも、民間による新しいサービスが付加価値を呼び、県民の暮らしに役立つことですから。実際、こうした取り組みを進めてきた結果、建設分野での活用の他、民間事業者による観光ナビアプリや防災アプリといった新しいサービスが実装されつつありますし、大学の研究活動や、地域の防災活動などでの活用にもつながりました。

今後も、オープンデータの充実、データ連携の拡大を進めて、DoboXで提供するサービスの拡充を図っていきます。同時に、さらなるデータの利活用につながる取り組みを推進し、新たなサービスの提供や付加価値の創出により、県民の安全・安心や利便性の向上が図られるよう、しっかりと取り組んでまいります。

森:オープンデータのプラットフォームから始まり、県内の地域課題解決を図るイベントにもDoboXが活用されていることが分かり、改めてDoboXの活用は大きな可能性を秘めていると感じました。ぜひ、これからも全国の自治体を代表するデータ利活用のトップランナーで在り続けますよう、私たちも全力でサポートさせていただきます。ありがとうございました。

オープンデータのプラットフォームから始まり、県内の地域課題解決を図るイベントにもDoboXが活用されていることが分かり、改めてDoboXの活用は大きな可能性を秘めていると感じました。ぜひ、これからも全国の自治体を代表するデータ利活用のトップランナーで在り続けますよう、私たちも全力でサポートさせていただきます。ありがとうございました。

サマリー

県には多くのインフラデータが蓄積されているにも関わらず、県民や民間事業者に十分に活用されていない現実を変えるため、データ連携基盤「DoboX」は構築されました。DoboXの特質上、データが利活用されなければ立派なプラットフォームも画餅に帰しますが、広島県の職員の努力により、県民の皆さまや民間企業の利活用につながっています。今後も新たなサービスや付加価値を生み出す活動を、EYもサポートし続けます。

※2025年1月取材時の情報です。



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EYのリスクコンサルティングは、さまざまなリスク・テーマへの取り組みに際し、リスクを不確実性として捉え、個々の企業の経営方針や価値創出モデルに沿って、戦略的な仕組みの構築・強化からリスクが顕在化した際の対応までサポートします。

リスク・コンサルティング・サービス

ニュースリリース

EY Japan、全国に先駆け運用を開始した広島県のインフラマネジメント基盤「DoboX」を支援

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、広島県がEYSCの技術的な支援を受け、公共土木施設などに関する情報を一元化・オープンデータ化し外部システムとのデータ連携を可能とするインフラマネジメント基盤「DoboX(ドボックス)」の事例を公開しましたのでお知らせいたします。

EY Japan、携帯電話の電波が届かない地域におけるWi-Fi HaLowを活用したドローンサービス実証を支援

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、総務省が行う令和6年度「地域デジタル基盤活用推進事業」の実証事業として、広島県神石郡神石高原町(じんせきこうげんちょう)で「中山間地域のLTE不感エリアにおけるWi-Fi HaLowを活用したドローンサービス実証」を実施したことをお知らせします。


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