カーボンニュートラルに向けた洋上風力発電への取り組みの留意点とは

カーボンニュートラルに向けた洋上風力発電への取り組みの留意点とは


2022年8月1日(月)に、EY Japan カーボンニュートラルオフィスセミナー『洋上風力を中心とした再生可能エネルギーに関する今後の動向』のオンサイトセミナーを開催しました。

経済産業省より、洋上風力を中心とした再生可能エネルギーに関する今後の政策動向などについてお話しいただき、また実務に関わっている専門家をお招きし、パネルディスカッションを行いました。


要点

  • エネルギー基本計画を踏まえ、2030年度のカーボンニュートラル実現には2028年度までのクリティカルパスがポイント。
  • FIP制度がキャッシュフローに与える影響に関する留意点。
  • 設置船の調達は世界的に見ても一番のリスク。プランBの策定も必要。
  • 入札に関して差別化できるポイントは価格点よりも定性点。また各金融機関においては再生可能エネルギーに対しかなり貸し出し意欲が高い。

再生可能エネルギーの中で、今後大きなキードライバーとなり得るのが洋上風力です。昨年10月、エネルギー基本計画が閣議決定され、2030年の電源構成に占める再エネの割合は従来の22~24%というレンジから36~38%のレンジへと大幅に拡大。再エネはこれまで太陽光発電が中心でしたが、大規模かつコスト低減が可能で、地域への経済波及効果も高い洋上風力発電にも、今大きな注目が集まっています。

現在、風力発電は全体で4.5ギガワット(GW)ですが、2030年には陸上18GW、洋上5GWを合わせ23GWとなり、2040年までに洋上風力だけで30~45GWを目指す方向性となっています。また、今年4月からはFIT制度(固定価格での買い取り)に代わって、FIP制度(市場価格に一定のプレミアムを交付)が導入されました。参入企業もラウンド1に続き、今後のラウンド2ではさらに多くの参入が見込まれています。多様な企業が応募できるよう入札制度の見直しも進められ、価格点と定性点では事業実現性ほか、地域の評価や電力の安定供給なども重視されます。透明性向上の観点から評価項目の考え方も具体的に示されるようになりました。

では、これから参入を企図する企業はどのような戦略を取ればいいのか。今回、EY Japanでは、各分野の専門家を集め、洋上風力に関する今後の動向について、ディスカッションを行いました。皆さまのビジネスにぜひご参考にしていただければと存じます。


パネリスト
べーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) パートナー弁護士 江口 直明 氏

べーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)
パートナー弁護士
江口 直明 氏

モット マクドナルド ジャパン株式会社 Japan Country Manager 太田 理 氏

モット マクドナルド ジャパン株式会社
Japan Country Manager
太田 理 氏

株式会社三菱UFJ銀行 ソリューションプロダクツ部 部長(プロジェクトファイナンス担当) 宮川 智紀 氏

株式会社三菱UFJ銀行
ソリューションプロダクツ部 部長(プロジェクトファイナンス担当)
宮川 智紀 氏

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 アソシエート・パートナー 内海 直人

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
アソシエート・パートナー
内海 直人


2030年度のカーボンニュートラル実現には2028年度までのクリティカルパスがポイント

――2030年のカーボンニュートラル実現に向け、洋上風力発電の導入拡大への取り組みが活発化する中、参入条件となる事業実現性のうち、特に事業計画の迅速性が問われています。まずは早期稼働の観点から、そのポイントについてお話しいただければと存じます。

江口 カーボンニュートラルの一里塚として、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%の削減を目指すということで、今回から事業計画の迅速性に20点という大きな配点がなされることになりました。しかし、その実現については実際にはかなりの困難が伴うものと思われます。

法的な観点から言えば、まず港湾利用の混雑が懸念されます。もし先行事業者が遅れた場合、後続の事業者が工事できなくなり、玉突き状態になってしまい、調整が必要となります。また、環境影響評価についても政府当局の審査に時間がかかっており、特に洋上ではリードタイムが長過ぎるとリスクも大きくなるため、こちらも懸念される要素となっています。

太田 2030年度までに削減目標を実現するには、2028年度までのクリティカルパスがポイントとなってきます。それまでいかに事業を確実に整備し、基盤化できるのか。そこをどううまく準備し、アピールするかが重要となってきます。

技術面から言えば、第一に調査をどのように行っていくのか。データの適合性や気候リスクなどを考慮し、プランBを含め幅広く検討する必要があります。もちろん政府による日本版セントラル方式(案件形成スキーム)は強い推進力となりますが、税金が投入されるため、必要最小限に抑える可能性もあり、こちらも事業計画に不足点がないように事前に説明を尽くすことが大切になってきます。

また認証などについては気候条件の違いもあり、海外と日本ではズレがありますが、こだわり過ぎるとガラパゴス化も懸念されるため、産業界が一体となってアピールしていくことが必要となってくるでしょう。

FIP制度がキャッシュフローに与える影響で気をつけることは3点

――FIP制度の導入と売電スキームについてはいかがですか。

宮川 FIT(固定価格での買い取り)制度と比べ、FIP(市場価格に一定のプレミアムを交付)制度は若干複雑になるとみています。まず価格については30分、1日の単位では市場価格とプレミアムが基準価格を下回ることはあるでしょうが、1カ月の単位で見れば、基本的には参照価格(市場価格をベースに設定)で調整されることになるでしょう。

FIP制度がキャッシュフローに与える影響については、3点あると考えています。それがプロファイルリスク、非化石価値、バランシングコストです。これらの点から、レンダー(貸し手)として全体の制度を俯瞰してみれば、融資可能額の算定については、基準価格をベースとしたキャッシュフローをもとにデットサイジング(調達金額を決定)していくことになるでしょう。

江口 FIP制度はぜひ乗り越えていってほしいと思っていますが、ここへきてインフレの進行も懸念されています。このリスクについて制度上、どう設計していくのかがポイントになっていくでしょう。また、FIP制度では基本的にリスクを取ることになりますので、試運転売電で収入を見込んで、エクイティに組み込めるようにすべきです。これはヨーロッパでは当然のことのように行っており、日本でも進めるべきだと考えています。


設置船の調達は世界的に見ても一番のリスク。プランBの策定も必要

――今後の入札におけるリスクシナリオについてはどうでしょうか。

 

内海 ラウンド1では別紙11にリスクに関する記載が集約されていました。EPC(設計・調達・建設)、OM(運用および保守点検)、ファイナンス、その他と4つの項目について記載するような要件になっていました。その中でそれぞれのリスクを特定、分析し、そのリスクに対する対応策や事業者の過去の成功事例を記載する様式となっていました。成功事例に関しては、リスクを緩和することに成功しているので、なかなか各事業者さんの記録には残っておらず、結構記載が難しい要件でした。

 

ラウンド2においては、各様式に記載がちりばめられて、リスクが様式ごとに書く方式になるため、事業者の方々は記載しやすいかと考えています。また独自のリスク設定、その対応策についても、基本的には事業者の皆さんの過去の知見に基づくものだと考えますので、ラウンド1と同様のことだと思います。このあたりに関してはラウンド1と同様なプロセスで、リスクマトリックスを作成したり、保険アドバイザーからレポートを取得したりするものだと考えています。

 

今後の国からのリスクシナリオの提示に関しては、やはりこのご時世であるコロナ対策であったり、洋上風力特有の話で行くと、SEP船調達に関するリスクシナリオの提示があるのではなないかと考えています。コロナ対策に関しては既に秋田県八峰の様式集に記載されている通りです。このあたりの対策に関しては、国・保健所の規定に沿いつつも、各社さん独自で規定されていることもあるでしょうから、そのあたりを勘案した対策を記載するのが良いのだと思っています。また船内でクラスターが発生した場合の、人員の補充、確保体制に関しては確実に記載した方がいい項目と考えます。この他、ベンダー企業がデフォルトした際の対応策も盛り込んでおくべきだと考えます。

 

太田 もし想定外の問題が発生した場合、どうすればいいのか。そのリスクシナリオ、プランBをつくることが重要です。特に設置船の調達は世界的に見ても一番のリスクとなっています。ヨーロッパの場合は比較的、他の選択肢も許容されますが、日本の場合は業者も限られています。そのため、ゼネコンがつくっている船がどんなスペックで、いつ空いているのか。そうした情報も把握していくことが欠かせません。

 

また、最近では地盤調査の不足により、くいが沈んでいく、あるいは船自体が事故を起こすといった事例が頻発しています。こうした事態に対応するためにも、事前の調査と事後の手当てについて検討しておくべきです。そのためには、先行事例を含め、海域の専門家やゼネコンなどのプロフェッショナルとチームをつくって対応することが重要になってきます。

各金融機関は再生可能エネルギーに対しかなり貸し出し意欲が高い

――コスト低減のために必要な対策はいかがですか。

太田 一括発注が1つのやり方で、一番安心できる方法です。しかし、コスト競争力の面では、コンティンジェンシー(想定外の事態への対応策)が膨らみ、ブラックボックス化してしまうデメリットがどうしても出てきます。EPCの方々がどのようなリスクを取っているのか。その中身をよく理解しておくことが必要でしょう。

他方、一括ではなく、パッケージごとにバラバラに買っていけばいいのかといえば、それはそれで問題が出てきます。そのときは、工程、設計、品質管理などすべてを理解しているプロジェクトマネージャー、あるいはプロジェクトマネジメントチームをどうつくるのか。人材育成やノウハウなどに投資を惜しまない姿勢が欠かせません。

宮川 プライシングについて海外の案件と比べると、国内のプロジェクトファイナンスの金利は相当低い水準にあります。各金融機関とも再生可能エネルギーに対しては、かなり貸し出し意欲が高くなっています。欧米と比較しても、魅力的な金利マージンが提案されているのではないでしょうか。日本のベースレートも引き続き低い水準にありますが、インフレの進行によって将来的にはベースレートが上がる可能性もあり、ベースレートに対するリスクヘッジを念頭に置いておく必要もあるでしょう。

差別化できるポイントは価格点よりも定性点

――入札競争が促される中、事業者はどのようなポイントで差別化を図っていけばいいのか。その点についてはいかがでしょうか。

内海 まずラウンド2においては、価格点、定性点の120点、120点の比率において、定性点のトップが120点に引き延ばして換算されることによって、1:1の比率になる可能性があるというところが特徴的だと考えます。これによって、価格点と定性点が同等の影響がありますので、ラウンド1以上に定性点の部分が重要になってくると考えます。

価格点においては、ラウンド1の価格を見て、FITからFIPに代わるものの、ある程度ラウンド1の価格がベンチマークとなり、事業者の皆さんの目線がそろってくると想定されます。そういった意味でも、たぶん事業者の皆さんは価格点で競合他社に負けないように同じレベルで入札してくるのだと想定します。そうするとやはり定性面での競争、差別化が重要になってくるかと思います。

その中で、ラウンド1の結果から考える差別化ポイントとしては、やはりサプライチェーン、電力安定供給の部分ではないでしょうか。ラウンド1参加者の皆さんはおおむねほとんどの方が3点でしたので、このあたりをいかに差別化するかがポイントだと考えています。

ラウンド1ご経験の皆さまにとっては、このパートのどの部分を拡充・プラスアルファしていくのか、特に外部、第三者とのやり取りが必要な部分であり、その点時間がかかりますので、早めに着手すべき非常に重要な差別化ポイントだと考えています。


サマリー

エネルギー基本計画が閣議決定され、洋上風力発電の今後の方向性はどうなるのか、また洋上風力発電の導入拡大への取り組みにおける留意点をご紹介しました。


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