Mother with her kids looking a digital tablet in the dark
子供たちとベッドに寝転がりながら、薄暗い中でスマートフォンの画面を見る女性

デジタルホーム市場が飽和する中で、どのように差別化を図るのか?

急速に変化するデジタルホーム(デジタル技術やインターネットを活用して家庭内の様々な機器やシステムを統合し、快適で便利な生活空間を実現するコンセプト)市場で成功するには、ターゲットである消費者の視点に立った差別化を図らなければなりません。本稿では、その方法について考察します。


要点
  • 消費者は、価格設定やバリュー・フォー・マネー、性能、セキュリティなど、デジタルホームのさまざまな側面にわたる確実性と分かりやすさの向上を求めている。
  • 消費者は、プレミアム料金を支払うか否か、カスタマーサポートに対する満足度、乗り換え傾向などについての考え方に応じて、いくつかのセグメントに分類することができる。
  • 価値提案の差別化を図り、顧客とより強固な信頼関係を構築できるプロバイダーは、飽和状態の市場でも有利な立場を確立できる。


EY Japanの視点

日本市場におけるデジタルホーム市場は、急速に成長しています。この背景には再生可能エネルギーの利用促進や、太陽光パネルの家庭への設置が進んでいることも影響しています。日本の消費者は高品質で細やかなサービスを重視する傾向にあり、これはデジタルホームサービスの提供者にとって重要な考慮点です。また、日本では高齢化社会が進んでおり、シニア層に適した、使いやすく安心感を提供するデジタルホームソリューションの需要が高まっています。日本市場で成功するためには、以下の3つの視点が重要です。まず、顧客体験の深化を図ること。これには、日本のライフスタイルに合わせた製品設計を含みます。次に、デジタルホームサービスにおけるセキュリティとプライバシーの確保。日本の消費者はプライバシーに対する意識が高く、信頼できるセキュリティ対策が不可欠です。最後に、シニア市場へのアプローチ。高齢者に優しいインターフェース設計や、健康管理、生活支援サービスの統合が求められます。

これらの視点を踏まえ、日本のデジタルホーム市場においては、カスタマイズ性と使いやすさが競争力の鍵を握ると考えられます。サービス提供者は、技術革新だけでなく、日本特有の市場ニーズに応えることで差別化を図り、持続可能な成長を達成することができるでしょう。


EY Japanの窓口

岡部 裕之
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター/インテリジェンス ユニット シニアマネージャー

家計の圧迫が続く中、競争がますます激化するデジタルホーム市場で消費者が重視しているのは、⾃宅で利⽤する接続サービスとコンテンツのバリュー・フォー・マネーです。EYのDecoding the Digital Home Study 2024(デジタルホームを解き明かす調査)からは、製品とサービスの選択の幅が広がっていることに⼾惑い、デジタル利⽤の潜在的なマイナス⾯に対する懸念を強める世帯が多いことが分かりました。

こうした傾向が進行するにつれて、消費者は、デジタルホームに対する独自の認識や優先順位を持つ、さまざまなユーザー層に分化しています。これから、これらのセグメントについて掘り下げていきますが、その前にまず、今回の調査結果から得られた5つのインサイトを紹介しましょう。

Decoding the Digital Home Study Report 2024をダウンロードする

デジタルホームにおける消費者の行動と意識の変化を把握できます。


1. ブロードバンドとコンテンツが成長障壁に直面する中、スマートホームの普及が失速する可能性も

ブロードバンドでは、性能ニーズが引き続き契約の決断を促す大きな要因ですが、ネットワークの信頼性が依然として問題点になっています。継続的なネットワークのアップグレードにもかかわらず、世帯全体の26%で、いまだにインターネット接続が不安定になることがあります。一方、一部のスマートホームデバイスについては、その普及がピークを迎えたように見受けられます。消費者からは、データセキュリティやコスト、利便性に対する懸念の声が聞かれました。これらの課題が、接続サービスやコンテンツの普及拡大に支障を来しかねません。


2. 重視されるのは、かかる費用とバリュー・フォー・マネーだが、プレミアム志向も見られる

価格の上昇への消費者の不安は依然として顕著で、定額保証プランに需要があることは明らかです。品質を下げてでもコストを抑えたい消費者がいる一方で、プレミアムな商品やサービスに敏感な消費者もいます。コンテンツ集約サービスにプレミアム料金を支払うことに抵抗がない世帯は、昨年の40%から44%に上昇し、セキュリティ機能やデジタルウェルビーイング機能を備えたブロードバンド接続に追加料金を支払って利用するつもりだと答えた世帯も38%いました。


3. デジタル利用のマイナス面に対する不安が高まりつつある

有害なコンテンツに対する懸念が強まる中、オンラインに多くの時間を費やすことに危惧の念を抱く消費者の間で「デジタルデトックス」熱が高まっています。特に、60%は子供が有害なコンテンツにアクセスすることを非常に懸念しています。人工知能(AI)がオンラインコンテンツへの信頼を損ねる可能性も問題視されています。接続サービスプロバイダーはデータの管理者として認知されることで他の事業者より有利な立場にありますが、若年層ユーザーの間ではこの利点がさほど効果を発揮していません。


4. 消費者は分かりやすさを求めており、価値提案に対する考え方が分かれてきている

生活費高騰の危機により、接続サービスとコンテンツをセットにしたパッケージ契約を重視する消費者が増えてきました。世帯の3分の1強(35%)が、固定ブロードバンドサービスを止め、魅力的な価格帯と性能が保証された別のモバイルサービスに乗り換えたいと考えています。一方で、その過剰感から、相反する意識も見られました。選択肢が多すぎると感じる世帯は、ブロードバンドパッケージ、配信プラットフォームとも半数以上(前者が53%、後者が55%)おり、また44%がブロードバンドプロバイダー間の製品やサービスの違いが、ほとんどまたは全くないと感じています。


5. 従来型のカスタマージャーニーへの愛着は強く、AIについての説明が必要

競合の中から抜きんでることが課題です。44%が接続サービスプロバイダーに違いはほとんどないと考えています。購入決定までの道のりでは、いまだに消費者の10名に4名がまず実店舗を訪れたいと考えており、カスタマーサポートについては、半数がコールセンターの利用を好んでいます。その上、チャットボットは複雑で手間がかかると考えられています。消費者が求めているのは、購入時やサポート時のやり取りにおいて、販売店によるアドバイスとAIの役割である丁寧な説明の両方を得られるデジタルツールです。


デジタルホームに対する意識はさまざま:デジタルホームの7種のターゲットユーザー

今回の調査結果を分析したところ、デジタルホーム製品・サービスをめぐる特性と意識、優先順位がそれぞれ全く異なる、以下の7つの消費者セグメントが明らかになりました。

  • プレミアム満喫タイプ:都市部の裕福な消費者。男性である傾向が高く、家庭内で唯一決定権を持ち、自宅の接続サービスやコンテンツ、テクノロジーにプレミアムを支払う意向が最も高いのがこのセグメントです。その一方で、このセグメントは初回特別価格にも強く引かれます。また、セルフサービスのオプションを便利だと感じる反面、充実したカスタマーサービスには追加料金を支払う意向が最も高いのも特徴です。国別で見て、このセグメントが顧客層全体に占める割合が最も大きいのは米国(16%)と英国(14%)、最も小さいのはフランス(7%)でした。このセグメントはインセンティブに敏感で、それによってプロバイダーを乗り換えるため、サービスプロバイダーは常に気を配り、プレミアムの提案を定期的に見直さなければなりません。

  • デジタル愛好タイプ:45~54歳の女性が多いセグメント。スマートホームの普及率が高く、自宅でマルチデバイス配信を楽しむ人が最も多いのが、このセグメントです。有害なコンテンツに子供がアクセスすることを一番懸念し、サービスプロバイダーは料金プランを充実させるべきだと考えています。また、サポートを受ける際にコールセンターを主に利用します。特に重視しているのはWi-Fiの質です。ブロードバンドプロバイダーには信頼性の向上を、カスタマーサービスにはチャットボットの質の向上を、それぞれ求めています。このセグメントが最も多いのはスウェーデン(27%)と韓国(26%)で、最も少ないのはドイツ(13%)でした。サービスプロバイダーは、要求が厳しいもののロイヤルティの高い、このセグメントの厳しい目に耐えうるカスタマープロミス(顧客との約束)とデジタルサポートツールを確実に提供しなければなりません。

  • 節約情報通タイプ:年齢層が高く、接続サービスにできるだけお金をかけないセグメント。バリュー・フォー・マネーに対する理解とサービス全般やカスタマーサポートへの満足度は平均以上で、プロバイダーの乗り換え傾向は平均以下です。乗り換えを手間がかかると感じたり、料金変更が分かりにくいと感じたりする人が最も少ないことに、その情報通ぶりが表れています。また、プライバシーリスクやセキュリティリスク、AIリスクに対する感応度の高さは平均以上です。消費者層全体に占めるこのセグメントが最も多いのはフランス(18%)で、最も少ないのはスイスと米国(ともに11%)でした。このバリューセグメントをターゲットとするサービスプロバイダーは、魅力的な価格設定と強固なセキュリティ認証を組み合わせる必要があります。

  • コンテンツ最優先タイプ:比較的男性が多く、有料でスポーツをテレビ観戦する人が最も多いセグメント。その一方で、このセグメントは、視聴しないコンテンツに料金を払いすぎているとも感じています。他のユーザー層より乗り換えのプロセスが複雑だと感じる傾向が強い一方、自分のデータの扱いについてブロードバンドプロバイダーを信頼する人が一番少ないセグメントです。よく知られたコンテンツを好み、デジタル過多に敏感に反応し、スマートフォンから離れる時間をつくることを好みます。このセグメントが最も多いのはイタリア(19%)、最も少ないのはスウェーデン(10%)でした。サービスプロバイダーは、常に分かりやすく魅力的なコンテンツの提案を続けながら、このセグメントのカスタマージャーニー円滑化に気を配らなければなりません。

  • 脱パッケージタイプ:新たなテクノロジーやガジェットに平均以上の興味を示す、比較的若く、裕福な消費者のセグメント。プレミアムを支払う人が多く、乗り換えの傾向が最も強いのもこのセグメントの特徴です。ブロードバンドプロバイダーやサポート体験に対する満足度は平均以下で、有料チャンネルを解約し、VOD(ビデオオンデマンド)のサブスクリプションだけにしたいと考える人が最も多く見られます。カスタマイズサービスを受ける代わりに個人データを提供することに最も抵抗感が少ない反面、オンライン化が自分のウェルビーイングに及ぼす悪影響を最も心配しています。このセグメントが最も多いのは英国(15%)、最も少ないのはスイスとイタリア(ともに10%)でした。従来型のサービスパッケージの先に目を向ける傾向があるこのセグメントに訴求する鍵は、セルフサービスとカスタマイズのオプションの充実です。

  • 無関心タイプ:ホームテクノロジーの普及率は平均的でありながら、プロバイダー間の差別化の欠如を感じる人が最も多いセグメント。バリュー・フォー・マネーに対する理解とサービス全般やカスタマーサービスへの満足度が平均以下であることから、乗り換えの意向が平均より高い一方、初回特別価格やパッケージの提案に飛びつく人が最も少ないのがこのセグメントの特徴です。このセグメントが最も多いのはスイスとドイツ(ともに17%)、最も少ないのは韓国(9%)でした。サービスプロバイダーは、価値提案を理解しやすく魅力的な内容にして、このセグメントの潜在需要と潜在ニーズを最大限に引き出さなければなりません。

  • デジタル弱者タイプ:平均年齢が最も高く、地方に住んでいる人が最も多いセグメント。プレミアムを支払う人が最も少なく、デジタルホーム市場の選択肢の幅が広すぎて困る人が最も多いのがこのセグメントです。その結果、現状維持を貫くため、接続サービスやコンテンツプロバイダーに対する満足度が低いにもかかわらず、乗り換え傾向が平均を下回っています。フィッシングメールや詐欺メールを最も懸念し、オンライン上の情報を自分で管理できていると感じる人が最も少ない傾向にあります。このセグメントが最も多いのはフランス(23%)、最も少ないのは米国(11%)でした。このセグメントに訴求するには、製品とサービスのシンプル化に加え、販売やサポートのやり取り時の顧客支援を強化・充実することが不可欠です。

サービスプロバイダーの次なる対策

今回の調査結果を踏まえて、デジタルホームサービスプロバイダーが市場で差別化を図るために早急に打つべきだと私たちが考える対策は5つです。

  1. カスタマープロミス(顧客との約束)を重視する信頼でき、有意義であり、かつ魅力的なサービス保証を提供しましょう。それが、一部のセグメントでくすぶる不満に対処することや、接続サービスやコンテンツ、スマートホーム技術の普及見通しを向上させる一助になるはずです。

  2. プレミアムサービスのポテンシャルを生かす — プレミアム接続サービスやプレミアムコンテンツに対する消費者の好感度を最大限に高めましょう。工夫を凝らした機能強化が、市場全体でサブスクリプション料金が引き上げられる際に、より高い価格帯にすることの正当な理由になります。

  3. 消費者が抱くデジタルへの不安感に対処する — 顧客とより有意義な対話をすることで、より強固な信頼関係を構築しましょう。同業者や規制当局との積極的な対話も重視すべきです。オンラインの安全性や有害なコンテンツなど目まぐるしく変化する課題に常に迅速に対応し、信頼を維持することができます。

  4. 分かりやすさをサービスポートフォリオの中核に据える — 分かりやすく、インストールとカスタマイズがしやすいサービスを提供しましょう。それが、飽和状態の市場をうまく切り抜けてサービスパッケージが確実に期待に沿うことと、デジタル世界に圧倒されているセグメントの共感を得る一助になるはずです。

  5. デジタルカスタマージャーニーに対する信頼を育む — ユーザーが購入やサポートで利用するデジタルツールの魅力を高めるとともに、スタッフによる対応とデジタルインタラクションをバランスよく組み合わせましょう。これにより、顧客が必要に応じて従来型のサポートチャネルに頼らないですむようになり、すでにセルフサービスをよく利用している層にはさらに充実した顧客体験を提供できるようになるでしょう。

本記事に関するお問い合わせ

サマリー

デジタルホームは今、世界中の無数の消費者の生活で中心的な役割を担っていますが、EYが実施した調査の結果から、プロバイダーはその普及と成長を加速させる取り組みにおいて、強い逆風にさらされていることが分かりました。逆風に対処する解決策は、さまざまな消費者セグメントの意識やニーズ、期待の変化について理解を深めることだと考えています。そして、信頼できる性能と明確な価格設定、強固なセキュリティをはじめとする、消費者が求める特性を組み合わせた製品やサービスを提供して消費者に応える必要があると考えます。


関連記事

最新テクノロジーの導入により変革を実現するには

生成AIや5Gなどの最新テクノロジーの導入は、企業に多大な機会をもたらしますが、その価値を最大化するため、CIOには、デジタルトランスフォーメーションに関する基本方針を設定することが求められます。

通信業界が直面するリスクトップ10(2024年版)

通信業界を取り巻く世界情勢は複雑で常に変化しています。その中で通信事業者はどのようなリスク、課題に直面しているのか、そのトップ10を詳しく見ていきます。

ウェルビーイングテクノロジーが創造する超高齢化社会の未来

ウェルビーイングテクノロジーは、日本が直面する超高齢化社会が抱えるいくつかの問題解決のサポートを行います。

    この記事について

    執筆者