関連法令等の改正

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公認会計士 今井 春夫

1. 日本公認会計士協会「品質管理レビュー制度Q&A」の改訂

日本公認会計士協会(以下、「JICPA」)品質管理委員会は監査役等と監査事務所との的確なコミュニケーションに役立てることを目的に公表している「品質管理レビュー制度 Q&A」( 以下、「Q&A」)を2018年8月27日に改訂しました。これは、2018年7月に品質管理委員会規則の一部変更及び関連細則の制定が行われ、「品質管理レビュー結果の概要の第三者への開示」を可能とするよう変更されたこと等に伴うものです。

被監査会社(以下、「会社」)の監査役は、監査基準委員会報告書260号「監査役等とのコミュニケーション」(2015年5月改正)に基づき、会社の監査を実施する監査事務所からJICPAが実施する品質管理レビューの結果の伝達を受けることができる一方、会社の監査を実施する監査事務所以外から品質管理レビューの結果の概要を知ることは困難であり、また、監査役等以外の第三者についても困難な状況にありました。しかし、社会から公認会計士監査の透明性及び監査の品質の向上が求められる状況において、公認会計士の自主規制機関としてのJICPAは、品質管理レビュー制度を運用することを通じて、監査事務所の品質管理のシステムや個々の監査業務の品質管理を適切に評価し、必要に応じて指導及び監督を実施していることを社会に対して説明する一方、監査事務所自体についても、その品質管理のシステムの整備・運用状況の概要について、自主的かつ積極的に情報開示を充実・強化することが監査の品質及び透明性の向上に資するとの考えから、第三者に品質管理レビュー結果の概要を開示できるよう改正されました。なお、品質管理レビューの結果として取り交わされる品質管理レビュー報告書、改善勧告書及び改善計画書については、JICPAと監査事務所との間の当事者間の文書であり、レビュー現場でのコミュニケーション等を通じた当事者双方の共通の認識のもとで正しく理解されると考えられることから、第三者への開示は原則として認められていません。

2. 品質管理レビュー制度の概要

外部機関が監査事務所の品質管理システムを確認する制度として、JICPAによる品質管理レビューのほか、公認会計士・監査審査会(以下、「CPAAOB」)やPCAOB(米国の公開会社会計監査委員会)による検査等があります。JICPAによる品質管理レビューは、原則として3年に1度(大手監査事務所は2年に1度)実施され、監査事務所が行う監査の品質管理状況について通常レビューが行われます。品質管理レビューにより改善が必要と認められる事項が発見された監査事務所に対しては、改善勧告が行われ、改善状況の報告が義務付けられています。改善勧告を受けた監査事務所は翌年フォローアップ・レビューで改善状況の確認が行われます。これらの結果により、必要に応じて注意、厳重注意、監査業務の辞退勧告がされ、上場会社監査事務所名簿への登録においても、品質管理レビューにおける限定事項等の概要の開示や登録抹消の措置が決定されます。

CPAAOBはJICPAから品質管理レビューに関する報告を受け、内容を審査し、必要に応じて監査事務所等への報告徴収や立入検査を実施します。大規模な監査事務所については、JICPAの品質管理レビューの結果に係る審査結果に基づき、定期的に(2年に1度)検査を実施します。また、検査のフォローアップが当検査の翌年度に実施されます。立入検査の結果、監査事務所の品質管理のシステムや個別監査業務の不備を発見した場合には、検査結果通知書により通知し、監査事務所に改善を促します。またこの結果に基づきCPAAOBは、監査事務所の業務の適正な運営を確保するために必要な行政処分その他の措置を金融庁長官に勧告し、金融庁は監査事務所に対して、戒告、業務改善命令、業務の全部または一部の停止、解散命令、課徴金納付命令などの行政処分等を行います(表1参照)。

表1 品質管理モニタリングの全体像

表1 品質管理モニタリングの全体像

(日本公認会計士協会公表物から転載)
 

3. 法人内における品質管理システムのモニタリング

EY新日本有限責任監査法人では、品質管理システムが有効に機能していることを確認するため、監査事業部の品質管理委員会による日常的なモニタリングの他、定期的なモニタリングとして、社外有識者をメンバーに含む監査品質監督会議所管のもと品質管理レビュー(Assurance Quality Review(以下、「AQR」)を実施しています。

AQRは、品質管理レビューに関する規定に基づき、品質管理のシステムが適切に整備され、有効に運用されているか確かめるもので、品質管理の監視プロセスにとって要となるものです。AQRは、日本及び世界における品質管理の基準やEYグローバルが規定するレビューの基準にも準拠しています。AQRの対象は法人レベルの品質管理業務と個別(の監査)業務レベルに分けることができ、個別業務のレビュアーには、適切なスキルと経験を有するメンバーが選定され実施します。AQRは監査事務所としての品質管理システムの一部としてJICPAによる品質管理レビューの対象となります。

4. 第三者開示を可能にしたことによる影響

今回のJICPA品質管理委員会規則の一部変更及び関連細則の制定により品質管理レビュー結果の概要を第三者が入手可能となったことで、会社の監査役等はもとより、新規の監査契約締結を検討している企業や監査事務所の変更を検討している企業にとって、これまで困難であった監査事務所間の品質管理の観点による比較可能性が高まり、被監査会社となる企業にとって、より適切な監査事務所の選定に資することが期待されます。

EY新日本有限責任監査法人は、「品質管理に関する報告書」を定期的に発行している他、被監査会社以外の業務提供先等に対しても求めに応じて品質管理レビュー結果の概要を開示しており、ゲートキーパーとしての資本市場の健全な発展に寄与していく取組みを進めています。