EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 山本 竜大
クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場をサポートしてまいります。
今後、益々増えていくクロスボーダー上場の一助になれば幸いです。
2021年第1四半期の追い風を受けた従来型のIPOは、続く第2四半期も堅調を維持しました。金融システムに供給された潤沢な流動性、政府による継続的な景気刺激策、テクノロジーの導入促進、コロナ禍によるニューエコノミー企業の急成長などが、第2四半期における活況の原動力となりました。
2021年第2四半期のIPO件数は597件、調達額は1,116億米ドルでした。同四半期は、件数・調達額ともに2007年第2四半期(522件、877億米ドル)を上回り、過去20年間で最も活発にIPOが行われた第2四半期となりました。
2021年第2四半期は、前年同期比でIPO件数は206%、調達額は166%増加しました。
2020年第4四半期と2021年第1四半期に米国で熱狂的なブームを巻き起こしたSPAC上場は、2021年第2四半期に入り失速しました。欧州のSPAC上場件数は、2021年第1四半期の6件からわずかに増加し、同年第2四半期には15件となりました。これは、欧州の証券取引所における2020年通年のSPAC上場実施件数(6件)を超える実績です。
企業の好業績と緩やかな経済回復を見込む成長予測を反映して株価は上昇傾向にあり、市場流動性が歴史的な高水準に達したことでIPO市場にとって好ましい環境が整いました。
2021年第1四半期には世界全体で305件のIPOが実施され、これに伴う資金調達額が986億米ドルに達するなど空前の活況に沸いたSPAC上場は、12カ月に及ぶ熱狂の後急速に衰退し、同年第2四半期の上場件数は74件のみとなり、資金調達額は157億米ドルにとどまりました。規制当局による厳格な監督、供給過剰なSPACにうんざり気味の投資家、そして振るわない株価が、SPAC上場の激減に繋がった可能性はあります。
各国のIPO市場が勢いを増している中で、多数の企業が絶好の機会を捉え上場できるよう準備を進めています。下半期には、10億米ドルを超える安定したパイプラインの積み上げが予想されています。このパイプラインには、テクノロジー系のユニコーン企業やSPACのほか、再生可能エネルギー、eコマース、ヘルスケアといったセクターの企業など、今後も引き続きIPO投資家の関心を集めると思われる企業が含まれています。
2021年上半期、米国のIPO市場はIPO件数、資金調達額ともに過去20年以上の記録を塗り替える水準に達しました。2021年の好調な滑り出しの後、主要株価指数が史上最高値を更新したにもかかわらず、2021年第2四半期のはじめには勢いが失速しました。四半期末のブラックアウト期間(金融当局者が金融政策に関して踏み込んだ発言をしてはならない期間)に加えて、投資家が投資先を厳選する要因となった5月の市況により活動が停滞したとみられます。7月4日の祝日前に上場を果たそうとする企業が多かったため、6月には件数が急増し、57件のIPOが行われました。
ユニコーン企業については、2020年通年のIPO件数が27件であったのに対し、2021年には上半期だけで41社が上場し、上半期における米国の上場件数の19%近くを占める結果となりました。2021年上半期には、ユニコーン企業4社(テクノロジー企業3社、フィンテック企業1社)が直接上場により株式を公開しました。知名度が高く、投資家から莫大な資金を調達できる大手ユニコーン企業にとって、直接上場による株式公開は魅力的な手段でしょう。
インフレや二極化する雇用情勢への懸念はあるものの、主要な経済指標が記録的な高水準に達したことを受けて、米国の投資家心理は楽観的な方向に傾いています。
SPAC上場の勢いは減速気味ですが、最近上場したSPACの多くがターゲット企業を特定していないことを考慮すると、SPACとの合併を通じたIPOは今後も有効な上場手段の一つとして存続すると見ています。
SEC(米国証券取引委員会)は、資金調達を伴う直接上場の実施について、2020年後半にニューヨーク証券取引所が提出した規則改定案を承認したのに続き、先般NASDAQの改定案も承認しました。ここ数年注目の的となっていたにもかかわらず、直接上場により株式を公開するのは十分な資金を保有する企業が大半でした。直接上場での資金調達を認める新規則によって参加者は拡大し、当該上場手段がより一般的になる可能性があります。
資金調達額(前年同期比) |
IPO件数(前年同期比) |
|
---|---|---|
全世界 |
2,220億ドル(215%) |
1,070件(150%) |
EMEIA |
538億ドル(430%) |
323件(325%) |
南北アメリカ大陸 |
939億ドル(282%) |
276件(229%) |
内)米国 |
842億ドル(275%) |
218件(235%) |
アジア太平洋 |
743億ドル(108%) |
471件( 76%) |
内)グレーターチャイナ |
603億ドル( 95%) |
293件( 64%) |
(出典:EY Global IPO trends:Q2 2021)
ASEAN諸国の一部では感染が再拡大しているものの、アジア太平洋エリアのIPO活動は2021年上半期全体を通じて堅調に推移しました。2021年上半期、アジア太平洋エリアの証券取引所では、過去20数年間で最高の調達額と2番目に多いIPO件数を記録しました。香港では、新規上場した数社の株式が公募割れに終わったことから市場に懸念が広がっており、今後はIPO前のバリュエーションに調整が入る可能性があります。
2021年上半期、グレーターチャイナのIPO活動は非常に高い水準を維持し、過去20数年間で最高の調達額と2番目に多いIPO件数を記録しました。上半期の証券取引所別調達額世界ランキングでは、香港が3位、上海が4位、深圳が6位となりました。グレーターチャイナの際立った好調を支えた要因は、上半期の調達額世界トップ10にランクインした5社の上場先が同地域の証券取引所であったことでしょう。当年度末までに集団免疫を獲得するという予測は企業収益力を向上させ、上昇する景況感が引き続きIPO市場の復興を後押ししています。
日本では、新型コロナウイルスの感染が再拡大しているにもかかわらず、2021年第2四半期は対前四半期比でIPO件数が70%、調達額が75%増加しました。2021年上半期は、対前年同期比で件数が59%、調達額が374%増加しました。2021年上半期のIPOに占める割合はテクノロジーが41%で、これに消費財(19%)、製造業(9%)、ヘルスケア(9%)が続きました。
2021年上半期、韓国では2件のメガIPOが実施されました。3月に上場し13億米ドルを調達したSK Biosciences Co., Ltd.と、5月に上場し2021年第2四半期の調達額ランキングでは世界第5位となる20億米ドルを調達したSK IE Technology Co., Ltd.です。
ASEANでは、パンデミックの新たな波が猛威を振るう中にありながらも、対前年同期比で件数は23%、調達額は58%増加しました。2021年上半期、タイでは2件のメガIPOが実現し、フィリピン証券取引所では同国史上最大のIPOでもある1件のメガIPOが実施されました。4月に米SPACとの400億米ドルの合併を発表したGrab Holdings Inc.のような東南アジアの急成長企業も、米国のSPACにとって魅力的な選択肢となっています。
オーストラリアとニュージーランドでは、順調な経済回復がIPO活動を後押しし、2021年上半期は前年同期比でIPO件数は5倍、調達額は28倍を超える増加となりました。
アジア太平洋エリアのIPO市場では、年度末にかけて投資家の信頼感は上昇傾向が持続するでしょう。ただし、各国政府は景気刺激策の縮小に向けて動き出しているため、2021年下半期には市場調整が入る可能性があり、これによってIPO活動が冷え込む恐れがあります。
下半期に最も好調なセクターとなるのは、引き続きテクノロジー、ヘルスケア、消費財でしょう。特筆すべき調達額の案件はなかったものの、2021年下半期に上場するとみられる相当規模のバイオテック企業数社が、IPOパイプラインに名を連ねています。また、消費活動再開及び繰り延べ需要の恩恵を受ける消費財セクターの企業は、今後IPOでの活躍が期待できるようになるでしょう。
全世界 |
テクノロジー |
ヘルスケア |
インダストリアルズ |
---|---|---|---|
南北アメリカ大陸エリア |
ヘルスケア |
テクノロジー |
消費財 |
アジア太平洋エリア |
テクノロジー |
インダストリアルズ |
原材料 |
(出典:EY Global IPO trends:Q2 2021)