世界の新規上場動向 - 2022年1月~3月

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 田中 康俊

1. IPO市場の概況

第1四半期における世界のIPO市場は、上場数321件、調達額544億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数37%減少、調達額51%減少となりました。2021年度は過去20年間で最も活況を呈した年であったことをうけて、2022年1月には、調達額が21年ぶりに過去最高を更新するという力強いスタートとなりました。しかし、第1四半期の後半に入ると、地政学的緊張の高まりによるコモディティやエネルギー価格の高騰の懸念、インフレの影響と金利引き上げの可能性等を要因として、世界の株式市場が下落したため、IPO市場は大きく減速する結果となりました。

セクター別の件数では、テクノロジーセクターと素材セクターが同数の58件で首位に立ち、製造業セクターが57件で続く結果となりました。調達額では、エネルギーセクターが122億米ドルで首位に躍り出ました。これは、韓国証券取引所に上場したLG Energy Solution Ltdが第1四半期の最高額を調達したことが要因となりました。テクノロジーセクターが99億米ドルで続く結果となりました。同セクターは2020年第3四半期より7四半期連続で、件数首位を守りましたが、調達額は2020年第2四半期以来7四半期連続で守ってきた首位の座を逃し2位となりました。テレコムセクターが86億米ドルで3位となりました。これは、上海証券取引所に上場したChina Mobile Ltd企業が第1四半期として2番目の金額を調達したことが要因となりました。

表1 IPO実績比較(第1四半期)

表1 IPO実績比較(第1四半期)
※単位:10億米ドル (出典: Dealogic、EY)

表2 2022年1月から2022年3月における全世界のIPOセクター別実績

表2 2022年1月から2022年3月における全世界のIPOセクター別実績
※単位:10億米ドル (出典: Dealogic、EY)

表3 2013 年~2022年第1四半期の全世界のIPO市場

表3 2013 年~2022年第1四半期の全世界のIPO市場
(出典: Dealogic、EY)

2. アジア太平洋エリア

第1四半期におけるアジア太平洋エリアのIPO市場は、上場数188件、調達額427億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数16%減少、調達額18%増加となりました。第1四半期に行われた7つのメガIPOのうち4件がアジア太平洋エリアの証券取引所であったことが調達額増加の要因となりました。

セクター別の件数では、製造業セクターが40件で首位に立ち、素材セクターが37件で続く結果となりました。調達額では、エネルギーセクターが112億米ドルで首位に立ち、テレコムセクターが85億米ドルで続く結果となりました。

中華圏のIPO市場は、上場数97件、調達額301億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数28%減少、調達額2%増加となりました。中国本土では、件数はやや減少しましたが、調達額は、7つのメガIPOのうち3件が中国本土で行われたため、対前年比で増加しました。香港証券取引所は、最近の市場のボラティリティ、オミクロン株の感染拡大の悪化、他国より大きな株式指標の落ち込みが原因となり、IPO市場の減速が特に大きくなりました。

韓国のIPO市場は、上場数19件、調達額112億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数21%減少、調達額386%増加となりました。2021年の活況が2022年1月まで続き、韓国の証券取引所史上最大のIPOにより107億米ドルを調達しました。2月に入ると、3月の韓国大統領選挙を控え、IPO活動は減速しました。

日本のIPO市場は、上場数15件、調達額2億米ドルとなりました。

アジア太平洋エリアの多くの国では、依然としてコロナ禍が、経済活動およびIPO市場に影響を与えています。しかし、各国政府や中央銀行が、経済成長と企業の資金繰り(流動性)を支援し続けているため、2022年後半には、IPO市場が活性化する可能性があります。

表4 2022年1月から2022年3月におけるアジア太平洋エリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)

表4 2022年1月から2022年3月におけるアジア太平洋エリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)
※単位:100万米ドル

3. 南北アメリカエリア

第1四半期における南北アメリカエリアのIPO市場は、上場数37件、調達額24億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数72%減少、調達額95%減少となりました。

セクター別の件数では、ヘルスケア・ライフサイエンスセクターが首位に立ち、素材セクターが続く結果となりました。調達額では、金融セクターが首位に立ち、ヘルスケア・ライフサイエンスセクターが続く結果となりました。

ブラジルのIPO市場は、多くの企業が上場取消、又は、延期を選択することになりました。インフレーションと金利上昇が進み、脆弱な財政状況となっているのに加え、今年後半の大統領選、及び、地政学的緊張による影響も相まって、IPO市場は引き続き不安定となることが見込まれます。

南北アメリカエリアでは、米国での利上げ、地政学的危機の継続、インフレーションを取り巻く不確実性が存在するため、IPOが活発化するかは不透明な状況です。

表5 2022年1月から2022年3月における南北アメリカエリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)

表5 2022年1月から2022年3月における南北アメリカエリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)
※単位:100万米ドル

4. 欧州・中東・インド・アフリカエリア

第1四半期における欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA)エリアのIPO市場は、上場数96件、調達額93億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数38%減少、調達額68%減少となりました。地政学的緊張からもたらされる最近の市場変動の高まりが、EMEIAエリアの株式市場にも影響を及ぼし、企業活動にも影響が出ています。EMEIAエリアのIPO準備会社は、経済見通しについて改善が見通せるまで、IPO申請を延期する事例が散見されています。

英国のIPO市場は、上場数8件、調達額1億1,300万米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数60%減少、調達額99%減少となりました。2021年第4四半期に悪化した投資家心理が2022年にも持ち越されたことが要因となりました。

欧州のIPO市場は、上場数47件、調達額27億米ドルとなりました。

表6 2022年1月から2022年3月におけるEMEIAエリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)

表6 2022年1月から2022年3月におけるEMEIAエリアのIPO企業別実績(2022年3月23日時点)
※単位:100万米ドル

5. SPAC

第1四半期は、SPACにとっても厳しい市場環境となりました。上場数66件、調達額11億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数20%減少、調達額32%減少となりました。

エリア別では、引き続き南北アメリカエリアが首位となり53件、調達額3,180百万米ドルとなり、EMEIAエリアが8件、調達額959百万米ドルとなり続く結果となりました。アジア太平洋エリアでは5件、調達額470百万米ドルとなりました。

現在運営されている600以上のSPACのうち、2022年後半にかけて25%以上、2023年前半にかけて60%以上が解散となるため、駆け込みで上場が活発になることが想定されます。

表7 2022年1月から2022年3月における全世界のIPO SPAC市場別(2022年3月24日時点)

表7 2022年1月から2022年3月における全世界のIPO SPAC市場別(2022年3月24日時点)
※単位:100万米ドル

表8 2022年1月から2022年3月における全世界のIPO企業別実績(2022年3月23日時点)

表8 2022年1月から2022年3月における全世界のIPO企業別実績(2022年3月23日時点)
※単位:100万米ドル