EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
次の10年を勝ち抜くデジタル戦略 DXは周回遅れへ。デジタルが前提となる環境変化を勝ち抜く論点
過去数年を振り返ると、企業活動におけるデジタル化は広く進展をしてきた一方で、バズワード化した「DX」が時に基幹システム刷新やクラウドシフト、ツール導入などのシステム偏重で語られる傾向も見受けられます。DX特命チームのふたを開けてみると各部署で個別検討された小粒のデジタルを活用した効率化施策の集合体で、変革と呼べるレベルまで昇華していないケースも少なくありません。
本来的には、DXとは“X”のトランスフォーメーション(変革)が目的であり“デジタル(D)”はその実現手段の一つです。DX後の“ありたい姿”は事業部に一任するものではなく、経営側が自らトップアジェンダとして外部環境の長期変化見立てに基づき、あるべきビジョンを描き示し、執行側が策定していく中長期計画の“北極星”とならなければいけません。
また 、事業構想の詰めが甘いまま実行フェーズに入ってしまい、開発フェーズ直前で事業の成立自体がそもそも危ういという事実が発覚し、マネジメント側と現場に乖離が生まれるケースも少なくありません。もっと悲惨な例では、何かを導入すること自体が目的化してしまい、PJTが止められず結果的に過剰で使われないものが出来上がり、収益を確保できないまま償却が始まってしまうケースもあります。次の10年の柱となる新規事業や既存事業のトランスフォーメーションは、すなわちデジタル領域にシフトすることとイコールであることが大半で、事業戦略×デジタル双方の経験と知見が必須となります。
今後の10年の環境変化を見るときに、無視できないのがプラットフォーマー(PFer)の存在です。一説には、2030年ごろまでには世界の経済活動の3割がPF経由の取引に収斂(しゅうれん)されるとも言われています。現在進行形で言うと、B2Cにおいてはエンベデッドファイナンスという以前からの地殻変動が本格的に表出化しています。これは、巨大なユーザー基盤を持つ非金融業のPFerが自社サービスの中に金融機能を埋め込んでいく動きで、消費者もまた求めている体験です。さらにWeb3.0テクノロジーの普及が後押しとなっていくだろうと推測されます。このエンベデッド化現象は他業種にとって対岸の出来事とはならず、次の10年では金融以外のさまざまな業種のサービスがPFer経由で提供されていく可能性を示唆しています。
また、B2Bにおいても地殻変動は起きています。金融で言えば、巨大PFerがサプライチェーンファイナンスに代表されるバリューチェーン全体の運転資金最適化や決済を取り込もうとする動きがあります。また、さまざまな業界特化バーティカルPF/SaaSが台頭として業界構造の水平分業化を誘引するなど、産業全体のDXといった規模での構造変化も現在進行形で起きています。
近年躍進を遂げたスタートアップの大半はPF型ビジネスを志向しており、レガシーの足かせが無い機動力で追い上げています。あるいは、既存ビッグテックのエコシステムは染み出しをさらに拡大しています。両面から迫られる次の10年は、今まで議論し尽されてきたPFerとどう対峙(たいじ)するかについての結論を早々に迫られることになると考えられます。
その方向性を決めたら、実現に向けて足りないケイパビリティをどのように構築するか、が論点となります。そのためには明確な10年後のビジョンの具備が必須です。スキルやタレント、ソフトウエアやデータ、開発手法、あるいはビジネスモデルやエコシステム、顧客基盤など、変革の目的によって補完すべき対象は異なります。いずれにせよハードウエアや物理的資産と異なり無形資産であることが多く、価値をどのように評価するか課題となります。買収の場合、プレミアムが付き高額になりやすく、投資の正当性を市場や投資家に対してだけでなく、既存事業を支えている、かつ、(おそらく買収後のノルマが課されるであろう)自社の社員に対しても納得のいく戦略ストーリーが必要になります。また、ソフトウエアと非ソフトウエア事業のシナジーや統合は決してたやすくはなく、専門的な知見に基づく推進が必要となります。
補完対象によっては、買収がベストの手段とはならないケースも多く、特に大企業によるデジタル企業の買収では、買収後にキータレントの離職に悩まされることが多くあります。買収後の統治形態、または、特約付きの少額出資による協業、ジョイントベンチャー、あるいは、外部連携してエコシステムを補完するなど、スキームは目的に沿ったオプションを幅広く検討すべきです。
以上、駆け足となりましたが、次の10年は「デジタルをどう取り入れるか」ではなく、デジタルがわれわれの世界に溶け込み当たり前のように存在する世界の中で、経営のかじ取りをしていかなくてはいけません。DXというバズワードは周回遅れの証しとなるでしょう。
EYパルテノンでは、“経営戦略とデジタル”のハイブリッドな目線でさまざまな産業のリーディングカンパニーのデジタル戦略とその実現を支えてきました。本稿では語り尽くせないさまざまな論点がありますが、ご関心があればぜひコンタクトいただければ幸いです。
※2023年2月28日~2023年3月28日に日経電子版広告特集にて掲載。
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