EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
モノからコトへ、瞬間から連続(ジャーニー)へ、という価値観の変化を受け、これまでもUser Experience(ユーザー体験、UX)、Consumer/Customer Experience(顧客体験、CX)、Employee Experience(従業員体験、EX)、などさまざまなエクスペリエンスの考え方が提唱されてきました。そこに近年、Candidate Experience(候補者体験、CXとの区別のため採用CXと言われる)というものが加わるようになっています。概念自体は以前からあるものですが、以前ご紹介したTalent Intelligenceや昨今話題の生成AIなど、採用高度化の文脈から採用CXが語られる機会が増えているようです。
採用CXの正確な始まりは諸説ありそうですが、2003年にInterbiznetという企業を運営していたJohn Sumser氏が、適切な候補者採用には候補者の状況を見定め、適切な経験・体験を提供することが必要と考え、Candidate Voiceというプロジェクトを立ち上げたあたりが始まりのようです(インターフェースデザイン、クリックフロー、Webサーバー速度などを比較し、候補者の反応を評価するという興味深いプロジェクトです)。以降、冒頭で触れたエクスペリエンス重視志向の増加でじわじわと注目を集め、2020年のコロナ禍で採用の在り方が一気に様変わりしたと同時に続く人材獲得競争への戦略としてここ2~3年特に話題に上るようになりました。
さて、採用CXには大きく3つの考え方がありますが、3つ全てを記した記事はほとんど見かけません。
まず1つ目は、源流とも呼べる「候補者の採用」です。これは採用プロセスの見直し、特に早期化や不公平性の排除を指し、例えばGoogle社の”Rule of Four”(面接官は4人まで)などが挙げられます。いかに企業理解を深め、嫌な思いをさせず、迅速に入社判断まで進めるか、という点に軸足が置かれ、ここに生成AIによるプロセス効率化、個別最適化という視点が近年加わり、話題性が高まっています。
2つ目の視点は「オンボーディング」です。これは採用CXをEXの第1フェーズと捉え、定着率とスムーズな立ち上がりを目指して採用プロセスから相互理解を深める考えです。例えば採用時の適性検査の結果を配属に活用して満足度を高める、ATS(applicant tracking system)とオンボーディングの統合によりオンボーディング期間を短縮するなどの取り組みが含まれます。
そして3つ目が「不採用者へのケア」です。これは特に候補者が消費者やビジネスパートナーとなり得る業種で顕著に見られる視点で、不採用候補者にCEOがビデオメッセージで敬意を示したVirgin Groupや、失望した人(採用されなかった人)に主眼を置く選考プロセスをデザインしたDelta Air Linesなどがその代表例です。この視点は企業ブランディング戦略の一環として語られることもあり、良い口コミ獲得に向けて不採用者にもフィードバックを丁寧にするなどの工夫をし、より多くの候補者獲得を期する戦略としても機能しています。
注目度の高さから採用CXのHow To解説も増えつつありますが、「ファンを増やす」「リピーターになってもらう」のような曖昧な目的ではその効果は評価できません。本コラムを採用CXに取り組む自社の視点を改めて見直し、目標やその効果検証を行うきっかけとしていただければ幸いです。
参考文献
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