EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
昨年は生成AIに代表される、大規模な社会構造変化につながる可能性を有した技術が普及した1年でした。この社会構造変化がLoneliness(孤独)というゆがみを生み始めていることをご存じでしょうか。2021年に日本は世界で2番目の「孤独・孤立担当大臣」任命国となりました。
引きこもりや老々介護等の社会問題を抱えている日本はどうしても社会的孤立(Social Isolation)が注目され、事実、孤独・孤立対策担当室の議論においても社会システムから取り残されつつある人へのケアを重視しています。しかし、世界初の孤独大臣任命国である英国では議論が少し異なります。今回はこの、社会構造変化と孤独についてご紹介します。
孤独と孤立は類似概念で関係も深いものですが、孤立が客観的に観察可能な物理事象であるのに対し、孤独とは「社会的関係の量や質が不十分であると認識する経験に伴う苦痛の感情」を指します。つまり、にこやかに人の輪の中で会話していても、主観的に満足のゆく人間的・社会的関係が築けていないと思えば「孤独」に該当するということです。
孤独の気分の落ち込みや健康リスクとの関係は複数の研究で明らかになっており、英国で年間25億ポンド(約4,500億円)、米国で1,500億ドル(約22兆円)の「孤独」コスト(≒生産性低下)を民間企業が負担しているとも言われる深刻な社会問題です。
コロナ禍による人との接点減少で孤独が問題化したという説もあります。しかし英国の孤独問題着手はコロナより前ですし、コロナ禍はあくまでも問題を加速させた一要因であり、その背景にはデジタル化(他者との物理的な接点が減少し、代わりに電子的な接点が増加した)が関係していると考えるのが自然でしょう。
もちろん日本と英国で状況や文化は異なりますので一概には言えませんが、人間は75%の時間を一人で過ごすと孤独を感じ始めるという研究があることからも、孤立を認めてしまう技術や環境が孤独を増やしている点は否めません。その意味で、冒頭に述べたAIによる社会構造変化が将来孤独を助長する可能性があるというわけです。
一方で人間は環境に適応しようとします。その結果の表れ方は学術的・科学的考察が十分ではないものの、筆者は、SNS(BBSやICQなどに始まる)は不足する「つながり」を求めた典型行動と考えています。コムドットや東海オンエアなどはいわゆるチャムグループの疑似体験という「つながり」のエンタメ化と考えられますし、他にも郊外のZ世代が友人不足を理由に離職するケースが散見される、米国ではSide gigと呼ぶ副業をSocialize目的で行う人が一定割合いるという調査が近年発表されるなど、「つながり」を求める行動事象が増えてきているようです。
さて、以上のように人との接点が希薄になり、生産性低下につながる孤独を感じる人が増加すると、企業組織が考えるべき取り組みは何でしょうか。偶然か必然か、今まさにコロナ禍後のオフィス回帰議論の中で最適な働き方が模索され始めています。
現時点ではオフィスの役割をイノベーションやメンターシップに求める声が優勢ですが、今後その目的(評価の視点)に孤独感が加わる日も近いのではないでしょうか。少なくとも次のオフィスを議論する際、従業員の孤独感が多忙な同僚や満たされない評価などからも生じているという事実を知っておいて、損はありません。
参考文献
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https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092656623000880?via%3Dihub
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https://career-hiraku.com/hate_local_assignments/(参照:2023/12/28)
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及川卓也. ウィズコロナ時代の「オフィス回帰」は、本当に生産性・創造性を向上させるのか. ダイヤモンド・オンライン. https://diamond.jp/articles/-/322023?page=2
(参照:2023/12/28)
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https://www.su.se/stockholm-business-school/news/experiencing-loneliness-in-the-workplace-1.677337 (参照:2023/12/28)
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