改正企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」のポイント

2008年10月7日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計監理レポート 佐伯洋介

企業会計基準委員会は、平成20年9月26日に、「棚卸資産の評価に関する会計基準」を公表しました。本会計基準は、平成20年3月31日に公開草案を公表された後、寄せられたコメント等の分析を経た上で公表されています。

なお、本稿において意見にわたる部分については、執筆者の私見であり、当法人の公式見解ではありません。

公開草案から最終公表に至るまでの大きな変更点は、次のとおりです。

公開草案では、企業がIR情報として自主的に開示している当期の損益に含まれる棚卸資産の保有損益相当額等に関する情報を、財務諸表に注記することは妨げられないとしていましたが、改正基準では、実務上の対応が困難であることから基準上明記しないとされました(第72項)。

1. 本会計基準等の概要

本会計基準では、棚卸資産の評価方法を個別法・先入先出法・平均原価法(移動平均法または総平均法)・売価還元法の四つに定め(第6-2項)、会計基準の国際的なコンバージェンスを図るため、選択できる棚卸資産の評価方法から後入先出法を削除することとしています(第34-12項)。

2. 適用時期等(第21-2項)

平成22年4月1日以後開始する事業年度から適用されます(早期適用可)。

3. 棚卸資産の評価方法(第6-2項、第34-4項)

個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法の四つが定められています。
最終仕入原価法は、期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されているときのように、期間損益計算上弊害がない場合、期末棚卸資産に重要性が乏しい場合のみ容認されます。

4. 適用初年度の影響額の算出

(1)適用初年度の会計処理-特別損益の金額(第21-3項、計算例1)

棚卸資産の評価方法を後入先出法から本会計基準に定める評価方法への変更は、自発的でないことからその影響額が多額である場合には、適用初年度の期首の棚卸資産に係る保有損益相当額のうち当期の損益に計上された額を特別損益として表示することができます。

(2)適用初年度の会計処理-会計方針の変更による影響額(21-4項、計算例2)

会計基準の変更に伴い後入先出法から本会計基準に定める評価方法の変更のうち、財務諸表に与える影響額の記載については、影響額を算出することが実務上困難である場合が考えられることから、払い出した棚卸資産の帳簿価額合計額と払い出した時点の再調達原価合計額の差額を当該会計方針の変更の影響として注記することができるとされています。

5. その他

「公表にあたって」の中で、企業会計基準の国際的なコンバージェンスの加速化に関連して、連結財務諸表に適用する会計基準を個別財務諸表に適用する会計基準に先行して改正するという議論がなされていることについて触れ、「連結先行」の場合であっても、改正会計基準の連結財務諸表への適用に関して影響を及ぼすものではないとしています。また、本会計基準の適用により後入先出法を採用している企業の税負担が重くなることを考慮し、IFRSを採用した多くの国において、後入先出法を採用してきた企業に重大な税負担が一時に生じない対応が図られていることを踏まえ、わが国においても、税負担に対して適切な配慮がなされることが必要であるとする意見が多くあったと述べています。

本稿は改正企業会計基準第9号「「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。

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