「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」

2009年1月22日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計監理レポート 目黒幸二

企業会計基準委員会が平成20年12月5日に公表

平成20年12月5日に実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」(以下、本対応報告)が、企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されました。

本対応報告は、最近の金融市場における混乱を背景に、国際会計基準審議会(IASB)が会計基準の改正を公表したことに伴い、債券の保有目的区分の変更に関する意見が寄せられていることへの対応として、11月13日に公表した公開草案に寄せられたコメントも併せて検討した結果、公表されたものです(1項)。

公開草案からは、以下の修正を除いて、字句修正等の形式的な修正がなされたのみで実質的な内容の変更はありません。

① 注記事項に、区分変更の理由を追加
② 10月1日以前の意思決定時の取り扱いを明確化

なお、本稿において意見にわたる部分については、執筆者の私見であり、当法人の公式見解ではありません。

1. 適用時期(18項)

本対応報告は当面の取り扱いのため、公表日(平成20年12月5日)から平成22年3月31日までの適用となります。

ただし、トレーディング取引の対象としない意思決定または満期保有の意思決定をし、それを確認できる場合には、当該意思決定を行った時点が12月5日より前のケースに関して、以下の例外があります。

① 当該意思決定を行った時点で適用可
(例:10月6日が意思決定の場合、12月末までに会計処理を行う)

② ただし、平成20年10月1日前に当該意思決定が行われた場合には、10月1日に行ったものと見なして適用可
(例:9月25日が意思決定の場合、会計上は10月1日に行ったものと見なして、12月末までに会計処理を行う)
*本対応報告には明記されていませんが、3月決算を念頭に置いていると考えられます。

2. 当面の取り扱いの概要

(1)売買目的有価証券からその他有価証券への振り替え(2項~7項)

①振り替え可能なケース

本来、現行の金融商品実務指針85項に記載された一定の場合以外は、当該振り替えは認められていません。

しかし、本対応報告では、「想定し得なかった市場環境の著しい変化によって流動性が極端に低下したことなどから、保有する債券を公正な評価額である時価で売却することが困難な期間が相当程度生じているような稀な場合」において、企業がもはや時価の変動により利益を得ることを目的としないことを明らかにして保有目的区分を変更した時には、当面の間、振り替えができることとしています。

なお、売買目的有価証券には、トレーディング目的で保有する売買目的有価証券に準じる金銭債権等も含まれます。

② 会計処理と注記

振替時の時価をもって振り替え、振替時の評価差額は、当期の損益に計上します。

また、追加情報として、有価証券の振替時の時価等の概要、区分変更の理由(まれな場合と判断するに至った概況)、評価損益額、期末のB/S計上額、引き続き売買目的であったとしたときの当期損益等への影響額等の注記が、変更年度およびその後の年度において必要となります。

なお、前事業年度末と比較して著しい変動が生じている場合には、四半期財務諸表においても注記が必要です。

(2)売買目的有価証券から満期保有目的の債券への振り替え(8項~11項)

① 振り替え可能なケース

本来、現行の金融商品実務指針82項において、当該振り替えは認められていません。

しかし、本対応報告では、(1)に記載した「稀な場合」において、企業がもはや時価の変動により利益を得ることを目的としないことを明らかにし、かつ、満期保有目的の債券の定義および要件を満たした上で保有目的区分を変更した時には、当面の間、振り替えができることとしています。

② 会計処理と注記

振替時の時価をもって振り替え、振替時の評価差額は、当期の損益に計上します。

また、追加情報として、有価証券の振替時の時価等の概要、区分変更の理由(まれな場合と判断するに至った概況)、評価損益額、B/S計上額、引き続き売買目的であったとしたときの当期損益等への影響額等の注記が、変更年度およびその後の年度において必要となります。なお、前事業年度末と比較して著しい変動が生じている場合には、四半期財務諸表においても注記が必要です。

(3)その他有価証券から満期保有目的の債券への振り替え(12項~17項)

① 振り替え可能なケース

本来、現行の金融商品実務指針82項において、当該振り替えは認められていません。

しかし、本対応報告では、(1)に記載した「稀な場合」において、満期保有目的の債券の定義および要件を満たした上で保有目的区分を変更した時には、当面の間、振り替えができることとしています。

② 会計処理と注記

振替時の時価をもって振り替え、振替時の評価差額は、その他有価証券に係る評価差額として純資産の部に計上し、満期までの期間にわたって償却原価法に準じて損益に振り替えます。なお、振り替えた債券に関する金利変動リスクに関するヘッジ会計の適用は中止します。

また、追加情報として、有価証券の振替時の時価等の概要、区分変更の理由(まれな場合と判断するに至った概況)、期末の時価とB/S計上額、期末の純資産に計上されているその他有価証券評価差額金の額等の注記が、変更年度およびその後の年度において必要となります。なお、前事業年度末と比較して著しい変動が生じている場合には、四半期財務諸表においても注記が必要です。

3. 会計基準の変更の注記(19項)

本対応報告に従って債券の保有目的区分の変更が行われた場合は、適用初年度における会計基準の変更に伴う会計方針の変更に該当するため、上記の追加情報の注記だけではなく会計方針の変更の注記も行うことに留意が必要です。

*参考

本対応報告に反対した委員が2名おります。意見については20項に記載されています。

本稿は「実務対応報告第26号『債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い』の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。

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