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会計情報トピックス 井澤依子・吉田剛
この平成26年3月期決算においては、改正退職給付会計基準のうち表示・開示に係る定めが原則適用となるとともに、その他の改正点に関しても、期首からの早期適用が可能となっています。また、平成26年3月31日に公布された平成26年度税制改正のうち、復興税の前倒し廃止や生産性向上設備投資促進税制が税効果会計に影響してくることが考えられるとともに、単体開示の簡素化に関しても、平成26年3月26日に改正府令が公布され、平成26年3月期決算から適用されることとなりました。
本稿では、これらの論点について、基本的な取扱いを中心に、平成26年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
● 退職給付編
Q1 個別財務諸表のみを作成している会社における新基準の取扱い
Q2 連結子会社の未認識項目に関する少数株主持分相当の取扱い
Q3 持分法適用会社の未認識項目の取扱い
Q4 簡便法適用会社における会計基準変更時差異の未処理額の取扱い
Q5 未認識項目のオンバランスに係る繰延税金資産の回収可能性
Q6 その他の包括利益に係る注記金額に係る税効果の取扱い
Q7 持分法適用会社に係る部分を退職給付に関する注記に含めることの可否
Q8 一時金制度について設定された退職給付信託の開示上の取扱い
Q9 退職給付制度の終了や大量退職等があった場合の開示上の取扱い
Q10 適用期首時点での割引率などの基礎数値に関する重要性基準の適用の可否
Q11 適用期首時点において割引率に関する重要性基準の適用をやめる場合
Q12 適用期首に重要性基準を考慮せず割引率を決定した後の重要性基準の適用
Q13 割引率の重要性基準10%の判断の目安
Q14 翌期首からの原則適用部分の未適用の会計基準等に関する注記
● 税制改正編
Q15 改正税法が税効果会計に与える影響
Q16 税率変更された場合の税効果会計の会計処理
Q17 生産性向上設備投資促進税制
Q18 地方法人税の新設等①
Q19 地方法人税の新設等②
● その他開示編
Q20 会計方針の変更の影響額を当期の期首剰余金に加減した場合の表示
● 日本版ESOP編
Q21 日本版ESOP取扱いの年度末(平成26年3月期末)からの早期適用
Q22 単体開示の簡素化の概要と適用時期
Q23 特例財務諸表提出会社に係る特例と会計方針の変更
Q24 単体開示の簡素化と比較情報
Q25 新様式による本表と別掲基準
Q26 財規127条に規定される各項目の一斉適用の要否
Q27 個別財務諸表における開示の簡素化とハイライト情報
Q28 単体開示の簡素化とIFRS・米国基準適用会社
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
---|---|
「税効果会計に係る会計基準」 |
税効果会計基準 |
企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」 |
純資産会計基準 |
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」 |
連結会計基準 |
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 |
過年度遡及会計基準 |
企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」 |
改正退職給付会計基準 |
企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」 |
改正退職給付適用指針 |
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」 |
日本版ESOP取扱い |
会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 |
連結税効果実務指針 |
会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 |
個別税効果実務指針 |
「税効果会計に関するQ&A」 |
税効果Q&A |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
財規 |
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
連結財規 |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について |
財規ガイドライン |
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について |
連結財規ガイドライン |
「所得税法等の一部を改正する法律」 |
改正税法 |
「地方税法等の一部を改正する法律」 |
地方税法等改正法 |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方(平成26年3月26日) |
金融庁の考え方(単体簡素化) |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方(平成26年3月28日) |
金融庁の考え方(企業結合) |
改正後の退職給付会計基準はこれまでの「退職給付に係る会計基準」が改正されたものであり、連結財務諸表を作成していない会社にも適用されます(改正退職給付会計基準1項)。
ただし、数理計算上の差異などの未認識項目を個別貸借対照表で認識すること等の改正部分については、「個別財務諸表における当面の取扱い」として適用しないこととされています(改正退職給付会計基準39項)。
以上より、「当面の取扱い」の対象とされていない表示・開示に係る改正や、退職給付債務及び勤務費用の算定等に係る改正に関しては、連結財務諸表を作成していない会社の個別財務諸表でも適用されることになります。
具体的には、退職給付債務及び勤務費用の算定において、割引率の算定方法や給付算定式基準と期間定額基準のいずれを選択するか等の改正項目について、改正退職給付会計基準の影響を受けることになります。さらに、個別財務諸表のみを開示している上場会社等(*)では、個別財務諸表においても財規の規定により退職給付に関する注記(開示の拡充)が求められているため、留意が必要です。
(*)会社計算規則は、改正退職給付会計基準を織り込んで改訂されていますが、当該会計基準における開示の拡充に対応した注記は特段求められていません。
連結子会社に少数株主が存在する場合には、個別貸借対照表に計上されている評価・換算差額等(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益)について、支配獲得日以後に生じた部分に関しては持分比率に基づいて按分し、少数株主持分割合は少数株主持分に振り替えるものとされています(連結会計基準(注7)、純資産会計基準7項等)。
また、全面時価評価法による評価差額や為替換算調整勘定のように、連結財務諸表上のみ生じる項目についても、それぞれ持分比率に基づいて按分して、同様に少数株主持分割合は少数株主持分に振り替えます(会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」17項、会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」41項)。
連結貸借対照表上、未認識項目を認識する際に計上される「退職給付に係る調整累計額」についても、子会社の個別貸借対照表では計上されていないものの、評価・換算差額等であることは同様なため(純資産会計基準8項)、その他有価証券評価差額金等と同様に、子会社の支配獲得日以後に生じた未認識項目全額をいったん認識した上で、少数株主持分割合を少数株主持分に振り替えるものと考えられます。
このため、適用初年度の期末に認識する未認識項目(税効果調整後)のうち、親会社持分相当額は「退職給付に係る調整累計額」として、また、少数株主持分相当額は「少数株主持分」として、それぞれ連結株主資本等変動計算書を経由して連結貸借対照表に計上されることになると考えられます。
持分法適用会社の純資産の当期増加額のうち、当期純損益に係る投資会社持分額は、持分法による投資損益に計上されます。また、その他有価証券評価差額金は当期純損益に計上されていないため、投資会社の持分額は、持分法適用上、その他有価証券評価差額金の当期増加額に直接計上します(「金融商品会計に関するQ&A」Q77参照)。持分法適用会社で計上された繰延ヘッジ損益や持分法適用時に認識される為替換算調整勘定についても同様です。
このとき、持分法適用会社における退職給付に係る調整累計額についても、評価・換算差額等であることはその他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益と同様であるため、持分法適用会社の未認識項目のうち投資会社の持分相当額について、連結子会社の場合と同様に認識するものと考えられます。
適用初年度の期末に認識する額については、連結包括利益計算書を通さず、連結株主資本等変動計算書のその他の包括利益累計額(退職給付に係る調整累計額)の当期変動額を通じて、連結貸借対照表に計上するものと考えられます。 ただし、連結子会社の場合とは異なり、投資会社の持分相当額のみが計上されること、及び投資会社株式を相手勘定として計上されることに留意が必要です。
設例 持分法適用関連会社の適用初年度の期末における処理
20%所有の持分法適用関連会社A社における期末時点の退職給付債務等は以下のとおり
(未認識項目を期末に認識する持分法仕訳)
(*)持分法適用上のみで認識する未認識項目100 ×(1-0.35)× 20%=13
また、翌期以降は退職給付に係る調整累計額に計上されたもののうち費用処理された部分について、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うことになるため、連結包括利益計算書に計上されますが、持分法の場合におけるその他の包括利益の各項目は、「持分法適用会社に対する持分相当額」等として一括表示されることにも留意が必要です。
退職給付債務の計算に原則法を採用している会社が3月決算であれば、改正前の「退職給付に係る会計基準」を平成12年4月1日以後開始する事業年度から適用していることが考えられます。このとき、適用による影響額を「会計基準変更時差異」として15年で定額法により費用処理している場合、平成26年3月期も同様に費用処理し、未処理額として残った1年分の会計基準変更時差異は、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用と同様に連結貸借対照表において認識することが考えられます(改正退職給付適用指針130項、[設例3])。
一方、退職給付債務の計算に簡便法を採用している場合には、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用が生じません(改正退職給付適用指針49項)。その一方、会計基準変更時差異の未処理残高を、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用と同様に取り扱うのかどうかが改正退職給付適用指針130項では明示されていません。しかしながら、原則法を採用しているケースと違いを設ける理由はないため、簡便法の場合には、会計基準変更時差異の未処理残高のみが連結貸借対照表上で認識されることになると考えられます。
設例 簡便法適用会社において会計基準変更時差異の未処理残高がある場合
簡便法を適用している100%所有連結子会社の期末時点の退職給付債務等は以下のとおり
(当期末に連結上未認識項目を認識する仕訳)
(税効果を認識する仕訳)
(*)100×35%=35
未認識項目を連結貸借対照表上で認識する会計処理は、連結手続の一環であり、連結修正項目により生じた一時差異は連結手続上生じた将来減算一時差異(又は将来加算一時差異)と考えられます(税効果Q&A Q15のA(1))。そのため、他の連結修正項目により生じた一時差異と同様に、納税主体ごとに繰延税金資産の回収可能性を判断することになると考えられます(連結税効果実務指針41項)。
したがって、個別財務諸表においては、従来と同様に退職給付引当金に係る一時差異に対する繰延税金資産の回収可能性の判断を行い、連結財務諸表においては、個別財務諸表で計上された繰延税金資産の額に連結修正項目についての税効果額を合算したうえで、合算額について回収可能性を判断することになるものと考えられます(税効果Q&A Q15のA(1))。
また、連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断については、未認識項目を連結貸借対照表上で負債(又は資産)として認識するか否かにより、各納税主体の将来年度の課税所得の見積りが変わるものではないため、回収可能性の判断は個別と連結で同じになり、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」5(1)の会社分類(例示区分)についても連結におけるものと個別におけるものは変わらないと考えられます(税効果Q&A Q15のA(2))。
さらに、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」5(2)の退職給付引当金に係る将来減算一時差異に係る解消年度が長期となる将来減算一時差異としての取扱いについては、連結修正(未認識項目の負債認識)から生じる将来減算一時差異についても同様に当てはまると考えられます(税効果Q&AのQ15 A(2))。
未認識項目に係る注記金額はいずれも税効果考慮前の金額で行うものと考えられます。
改正退職給付会計基準30項(3)及び(4)で求められる注記では、数理計算上の差異等の当期発生額(費用処理されたものを含む。)が独立の内訳項目とされています(改正退職給付適用指針54、55項)。期首及び期末の退職給付債務及び年金資産は税効果を含んでいないため、数理計算上の差異の当期発生額(費用処理額も含む)等の内訳についても税効果考慮前の金額を注記するものと考えられます。
改正退職給付会計基準30項(6)で求められる注記では、当期純利益を構成する項目に計上された退職給付費用の項目を記載することとされています(改正退職給付適用指針57項)。このため、勤務費用や利息費用の内訳項目が税効果を含んでいないことから、数理計算上の差異及び過去勤務費用の当期費用処理額についても、税効果考慮前の金額を注記するものと考えられます。
改正退職給付会計基準30項(7)で求められる注記では、当期発生額及び費用処理に係る組替調整額の合計を記載することとされています(改正退職給付適用指針58項)。このため、調整表や関連損益の注記との整合性から、税効果考慮前の金額を注記するものと考えられます(改正退職給付適用指針[開示例1])
改正退職給付会計基準30項(8)で求められる注記では、その他の包括利益累計額が税効果考慮後の金額であることから、数理計算上の差異等の未認識の残高内訳の記載(改正退職給付適用指針58項)も、税効果考慮後で記載することも考えられます。
しかし、少数株主がいる連結子会社や持分法適用会社に係る未認識項目を連結財務諸表上で認識する場合には、内訳の合計と連結貸借対照表上の退職給付に係る調整累計額とは、税効果控除後であっても必ずしも一致するわけではないため、調整表や関連損益等の上記の注記項目との整合性を重視して、この注記に関しても税効果を考慮しない金額で記載することが考えられます(改正退職給付適用指針[開示例1])。
連結財務諸表における退職給付に関する注記は、連結会社(親会社及び連結子会社)における退職給付債務及び年金資産について、期首残高と期末残高の調整表や連結貸借対照表に計上された退職給付に係る負債又は資産との関係を開示するものと考えられます。 したがって、持分法適用会社における未認識項目については開示対象に含まないものと考えられます。
また、投資有価証券を相手勘定としてその他の包括利益累計額(退職給付に係る調整累計額)に計上された未認識項目の持分相当額(Q3参照)については、翌期以降に組替調整されますが、その他有価証券評価差額金等の他のその他の包括利益と一括して「持分法適用会社に対する持分相当額」等として表示されることから、「退職給付に係る調整額」としてその他の包括利益に計上される未認識項目の内訳の開示対象にも含まれないものと考えられます。
退職一時金、退職年金のいずれが目的であっても、退職給付信託に関しては、改正退職給付適用指針18項の要件を満たすときは「年金資産」として取り扱うこととされています。
そのため、「年金資産の期首残高と期末残高の調整表」(改正退職給付適用指針55項)、「退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表」(改正退職給付適用指針56項)、「年金資産に関する事項」(改正退職給付適用指針59項)といった開示項目において、一時金制度について設定された退職給付信託は、企業年金制度について設定された退職給付信託と同様に「年金資産」に含めて記載されることになります。なお、退職給付信託が設定されている場合の一時金制度は、注記上積立型制度に含めて記載します(改正退職給付適用指針48項(2))。
また、年金資産に関する事項に関しては、年金資産の主な内訳(株式、債券などの種類ごとの割合又は金額)の注記(改正退職給付適用指針59項)が求められていますが、さらに、「なお、退職給付信託が設定された企業年金制度について、年金資産の合計額に対する退職給付信託の額の割合が重要である場合には、その割合又は金額を別に付記する。」(改正退職給付適用指針59項なお書き)とされ、退職給付信託に係る付記も求められています。
一時金制度について設定された退職給付信託についても、年金資産の主な内訳に含めて記載されることは上記のとおりですが、年金資産の合計額に対する割合又は金額の付記についても重要性があり、有用な情報であると判断されれば記載することも考えられます。
ただし、当該付記については、企業年金制度に係る退職給付信託のリスク特性に着目し、年金資産全体からみて重要な場合には開示を求めるとした趣旨(改正退職給付適用指針115項参照)から記載される情報であり、一時金制度について退職給付信託が設定されている場合については、割合又は金額の付記までは強制されていません。
「退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表」(改正退職給付会計基準30項(3)、改正退職給付適用指針54項)、「年金資産の期首残高と期末残高の調整表」(改正退職給付会計基準30項(4)、改正退職給付適用指針55項)、「退職給付に関連する損益」(改正退職給付会計基準30項(6)、改正退職給付適用指針57項)の注記に際して、それぞれの定めに記載されている項目は限定列挙ではありません。そのため、例えば、重要な企業結合、制度の終了又は大量退職があった場合、重要な年金資産の返還、重要な退職給付信託の設定などがあった場合には、その内容を示す項目を別掲する必要があるとされています(改正退職給付適用指針114項)。
退職給付に関連する損益(改正退職給付会計基準30項(4))の注記では、当期純利益を構成する項目に計上された退職給付費用の項目を記載する(改正退職給付適用指針57項)こととされているため、営業費用に計上されたものに限定することなく、制度終了や大量退職等に伴い、未認識数理計算上の差異等の未認識項目のうち退職給付制度の終了損益等として特別損益(企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」8項、10項)に計上されたものについても、注記の記載対象に含めるものと考えられます。
また、その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳(改正退職給付会計基準30項(7))の注記については、当期発生額及び費用処理に係る組替調整額の合計の記載が求められています(改正退職給付適用指針58項)。退職給付制度の終了損益等として特別損益に計上された未認識項目の組替調整額も、その他の包括利益に計上される点では通常の費用処理額と同様であるため、当該合計額の注記の記載対象に含めるものと考えられます。
割引率等の計算基礎については、重要な変動が生じていない場合には、見直さないことができます(改正退職給付会計基準(注8))。これは計算基礎の見直しの要否に関する重要性基準といわれるものですが、重要な変動が生じていないかどうかについては、改正退職給付適用指針29項により、30項(割引率)、31項(長期期待運用収益率)、32項(予想昇給率や退職率等その他の計算基礎)に従って判断を行うこととされています。
主に退職給付債務等の計算方法に係る改正を期首から適用する際には、上記の計算基礎の重要性基準に係る適用指針の定めについても、同時に期首から適用することとされています(改正退職給付適用指針67項)。
このため、改正前において、重要性基準を用いて計算基礎に重要な変動が生じていない場合に従前の計算基礎を用いていたようなときには、新基準の適用期首時点においても、改正後の基準に基づく計算基礎が前期末に用いていたものに比べて重要な変動が生じていないと判断されれば、計算基礎を見直さないことができるものと考えられます。従前の数値を変更せず用いたとしても、改正前の基準を適用しているわけではなく、新基準の考え方が適用された上で、重要性がないため従前の数値を使用するという取扱いとなります。
重要性基準に関しては今回の会計基準改正には含まれておらず、重要性基準を考慮しないこととした場合は会計方針の変更に該当しないため、割引率の変更に伴う退職給付債務の差額は、本来数理計算上の差異に含めることが考えられるものの、適用初年度の期首において同時に適用をやめる場合には、改正退職給付会計基準の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減することもできます(下記の参考に記載したASBJの解説を参照のこと)。
なお、割引率に関しては期末における割引率を用いることが原則とされている(改正退職給付会計基準20項、(注6))ため、改正退職給付会計基準の適用初年度の期首よりも後の決算において、割引率に関する重要性基準の適用をしないこととした場合でも、原則どおりの取扱いに変更したものと捉えられます。
(参考)
ASBJのHP(会員サイト)に載っている改正退職給付会計基準の解説の脚注4に以下の記載があります。
「適用初年度の期首において重要性基準を考慮せずに、適用指針第24項に基づいて決定された割引率を使用する場合がある。割引率の変更により発生した差異は、通常は、当該年度に発生する数理計算上の差異に含めて、企業の採用する費用処理方法及び費用処理年数に従って処理されるが、この適用初年度の期首における場合には、本会計基準等の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減する取扱いも認められると考えられる。また、この場合でも翌年度以後の割引率の決定において再度重要性基準を考慮することも認められると考えられる。」
会計基準の改正により、割引率そのものの算定方法が変更されています。このため、新基準の変更時である期首時点においては、重要性基準を考慮せず、新基準による算定方法により算定した新しい割引率を使用して退職給付債務を算定することも考えられます。
このような場合であっても、適用後の期末以降において、従来どおり重要性基準を考慮することができると考えられています(Q11で参考としたASBJの解説参照)。この場合、期首のみ重要性基準を適用しないとみるのではなく、あくまで新基準の下でも重要性基準は一貫して継続的に適用されており、新基準の適用期首時点だけは変更された算定方法によって算定した新しい割引率を用いているとみることになります(下記の図表参照)。
なお、この場合、期首における割引率の変更に伴う退職給付債務の差額については、Q11(適用期首時点において割引率に関する重要性基準の適用をやめる場合)と同様となり、当該差額は本来数理計算上の差異に含めることが考えられるものの、新基準の適用初年度の期首における場合には、新基準の適用に伴う会計方針の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減することもできます。
改正前の実務指針に添付されていた「資料3」は、公益財団法人日本年金数理人会及び公益財団法人日本アクチュアリー会より公表されている「退職給付会計に係る実務基準」から、期末において割引率の変更を必要としない範囲を0.5%刻み(元々の資料は0.1%刻み)で抜粋したものでした。
現在は、同様な趣旨で割引率の変更を必要としない範囲を0.1%刻みで記載した資料が、公益社団法人日本年金数理人会及び公益社団法人日本アクチュアリー会より平成24年12月に公表されている「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」(平成26年1月最終改正)において付録1として添付されています。
割引率に関しては、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとされており、単一の加重平均割引率を使用する方法や複数の割引率を使用する方法が例として挙げられています(改正退職給付適用指針24項)。
単一の加重平均割引率を採用している場合であれば、改正退職給付適用指針30項で明示されてはいませんが、再計算しなければならないとされている場合に該当しない期末の割引率の範囲の目安として、上記ガイダンスに添付されている付録1の資料を従来と同様に参照することもできると考えられます。
一方、複数の割引率を採用している場合には、上記ガイダンスの割引率の範囲の付録1の資料を直接参照することはできませんが、単一の割引率を概算等で算定できる場合には、その割引率により付録1の資料を用いる方法や、上記ガイダンスに添付されている付録4にある「4.デュレーションを用いた退職給付債務の近似 イ.イールドカーブ直接アプローチによる退職給付債務」に記載されている近似関数を用いる方法等が考えられます。
翌期首から適用となる退職給付債務及び勤務費用の定めについては、未適用の会計基準等に関する注記が必要となると考えられます。
すでに公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、未適用の会計基準等に関する注記として、一定の事項を注記しなければならないとされています(過年度遡及会計基準12項)。このとき、今回のケースのように、一部分だけが先行的に適用となり、他方に未適用部分があるような場合の取扱いは明示されていません。未適用の会計基準等に関する注記は投資意思決定に有用な会計基準等の適用に係る影響を開示する趣旨であることから(過年度遡及会計基準51項)、重要性に応じて、当該注記を記載する必要があるものと考えられます。
なお、未適用の会計基準等に関する注記のうち、影響に関する事項(過年度遡及会計基準12項(3))の記載に関しては、定量的に把握している場合にはその金額を記載するものとされている点に留意が必要です(財規ガイドライン8の3の3-1-3、連結財規ガイドライン14の4)。
平成23年12月において、東日本大震災の復興施策に必要な財源を確保するため、平成24年4月1日以後開始する事業年度から3年間の時限措置として、基準法人税額の10%を課せられる復興特別法人税が創設されました。そして、平成26年3月31日に公布された改正税法においては、この復興特別法人税を1年前倒しで廃止する内容が盛り込まれています。
繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算されます(税効果会計基準 第二 二 2)。具体的には、税率の変更が含まれた改正税法が決算日までに公布され、将来の適用税率が確定している場合には、改正後の税率を用いることとされています(個別税効果実務指針18項)。
したがって、復興特別法人税を1年前倒しで廃止する内容の改正税法が平成26年3月31日までに公布されましたので、平成26年3月期決算において、復興特別法人税廃止後の税率で税効果の計算を行います。その場合には、平成27年3月期に回収又は支払が行われると見込まれる将来減算一時差異、将来加算一時差異について、法定実効税率を38.01%から、35.64%に下げることになるため(東京都、資本金1億円超のケース・下の算式参照)、その分、繰延税金資産・繰延税金負債が減額されることになります。
年度の決算に際し、税率変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正された場合には、税効果会計に関する注記において、その旨及び修正額を注記するものとされています(税効果会計基準 第四 3、連結財規15条の5第1項3号、財規8条の12第1項3号)。
法定実効税率の計算(東京都、資本金1億円超のケース)
前提:法人税率25.5%、復興特別法人税10%(課税標準:法人税額)、住民税(法人税割)20.7%、事業税率(所得割)3.26%、地方法人特別税148%(課税標準:所得割額(基準税率:2.9%))
復興特別法人税廃止前
復興特別法人税廃止後(その他の税率は同じと仮定)
税率の変更があった場合には、繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率により計算することになります。下の図表のとおり、税率の変更が行われた期において生じた繰延税金資産及び繰延税金負債の修正差額は、原則として、(連結)損益計算書上、改正税法が公布された日を含む年度の法人税等調整額に加減して処理されます(税効果会計基準注解(注7)本文)。ただし、その他の包括利益累計額(連結)又は評価・換算差額等(個別)に計上されている評価差額(それぞれ土地再評価差額金を含みます。)に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が税率変更により修正された場合には、当該修正差額を連結財務諸表上はその他の包括利益として処理し、個別財務諸表上は評価・換算差額等に加減することになります(税効果会計基準注解(注7)ただし書き、「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」 Q4参照)。
なお、改正された税法が公布された結果、当事業年度から適用となる税率が変更となった場合には、税効果会計基準注解(注6)及び個別税効果実務指針19項の定めのように、当期首の繰延税金資産及び繰延税金負債を再計算することになると考えられます(個別税効果実務指針設例4参照)。しかしながら、今回の改正税法のように、翌事業年度以降から適用される税率が改正されるようなケースでは、当期末までの税金計算は旧税率で行われているため、税率変更による影響額は期末の一時差異等を基準として算定することになります(税効果Q&A Q14(2)、個別税効果実務指針設例7 3の(注))。
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産業競争力強化法が平成26年1月20日に施行され、また、平成26年度税制改正にて「生産性向上設備投資促進税制」が創設されました。これは、平成26年1月20日より平成29年3月31日までの間に、一定要件を満たす生産性向上設備等を取得等かつ事業供用した場合に、税額控除又は特別償却の選択適用を可能とするものです。
仮に平成26年3月31日までに対象資産の取得等をした場合には、平成26年4月1日を含む事業年度において、税額控除又は特別償却の税制措置が適用されることになります。
税効果会計上、繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等は一時差異等として取り扱われるため(個別税効果実務指針11項)、税額控除を選択する場合には、平成26年3月期に繰延税金資産の計上を検討し、実際に税額が控除される平成27年3月期に取り崩すこととなります。一方、特別償却を選択し、積立金方式により特別償却準備金を計上する場合には、平成27年3月期に特別償却準備金相当について税務上減算され、翌事業年度以後一定の期間で益金算入されるため、平成27年3月期に繰延税金負債を計上することとなります。
平成26年3月31日に地方法人税法が公布され、消費税率の引上げに伴い生じる地域間の財源の偏在性を是正し、財政力格差の縮小を図るため、平成26年10月1日以後開始事業年度(3月決算会社においては平成28年3月期)より、住民税法人税割を引き下げ、それに相当する部分を「地方法人税」として創設することとなりました。
地方法人税は、基準法人税額に税率4.4%を乗じて計算します。一方で住民税法人税割の税率が4.4%下がるため、一般的には納税負担に影響を与えません。
しかし、連結納税制度を採用している場合には、地方法人税は連結所得をベースにした基準法人税額を用いて計算されるため、例えば個別所得がプラスであり、連結所得がマイナスの場合には、地方法人税の新設により納税額が減少することが考えられます。
なお、同日に地方税法等改正法が公布され、地方法人特別税(国税)の規模を3分の1縮小し、その分事業税(地方税)が復元されることとなりました。これについては、地方法人税と異なり、基準法人税額を用いずに算出されるため、連結納税制度を適用している場合でも納税負担に影響はありません。
前述したとおり、地方法人税が新設されても、地方税の一部が国税に変わるだけであり、また、地方法人特別税が縮小されても国税の一部が地方税に変わるだけであるため、原則として法定実効税率に与える影響はないと考えられます。
しかし、連結納税制度を採用している場合、「地方法人税」については、連結所得をベースに計算した基準法人税額を用いて税額計算されるため、「法人税」と同様、繰延税金資産の回収可能性については連結納税主体を一体として判断する必要があります。したがって、従来、ある連結納税会社の住民税部分に関しては繰延税金資産の回収可能性がないが、法人税部分については連結納税主体を一体として判断することで繰延税金資産の回収可能性があるとしていた場合には、住民税の一部が地方法人税となることで、繰延税金資産の金額が増加するようなケースもあると考えられます。
なお、企業会計基準委員会(平成26年3月27日)の議事概要においても、連結納税制度を適用している場合には、地方税制の改正を織り込んだ法定実効税率を用いることとされています。また、連結納税を適用している場合の「地方法人税」に係る税効果会計の取扱いを明らかにするために、地方法人税法及び地方税法等改正法の施行日(平成26年10月1日)までに、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」を改正することが考えられるとされています。
Q15にて記載しているとおり、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算され(税効果会計基準 第二 二 2)、税率の変更が含まれた改正税法が決算日までに公布され、将来の適用税率が確定している場合には、改正後の税率を用いることとされています(個別税効果実務指針18項)。
したがって、平成26年3月31日に、地方法人税法及び地方税法等改正法が公布されたため、平成26年3月期決算においては、平成26年10月1日以後開始される事業年度以降に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に適用する法定実効税率は、原則として、地方法人税の創設と地方法人特別税の縮小を考慮して計算する必要があります。しかし一方で、縮小した住民税と拡大した事業税の税率を最終的に決定するのは地方自治体の条例であり、平成26年3月31日時点においては必ずしもすべての地方自治体が条例を公布しているとは限りません。
このような場合における法定実効税率の計算方法について、企業会計基準委員会(平成26年3月27日)の議事概要においては、「今回の地方税制の改正は、地域間の税源の偏在性を是正することを趣旨とするものであり、地方税と国税を合わせた税負担は変わらないことから、原則として法定実効税率に変更はない」として、以下のいずれかの計算方法を用いることが示されています。
(a)地方法人税の税率を含めず、地方税法等改正法の改正前の住民税率及び事業税率に基づいて算定した法定実効税率
(b)地方法人税法の税率及び地方税法等改正法による標準税率の増減を織り込んだ住民税率及び事業税率を用いて算出した法定実効税率
なお、連結納税制度を適用している場合には、Q18のとおり繰延税金資産の回収可能性に影響する場合があるため、(b)の計算をすることに留意が必要です。
当期首の利益剰余金に加減される会計方針の変更の影響額は、「会計方針の変更による累積的影響額」として利益剰余金の「当期首残高」に加減し、影響額反映後の当期首残高は「会計方針の変更を反映した当期首残高」として(連結)株主資本等変動計算書において表示されることになると考えられます。
会計方針の変更により「遡及適用」がなされた場合、有価証券報告書における(連結)財務諸表を前提に、前期首の利益剰余金に加減される会計方針の変更の影響額は「会計方針の変更による累積的影響額」として比較情報における利益剰余金の「当期首残高」に加減し、影響額反映後の当期首残高は「遡及処理後当期首残高」として(連結)株主資本等変動計算書において表示されることとされています(企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」[設例1-1])。
ただし、当期から早期適用が可能となる改正退職給付会計基準(退職給付債務等の計算に係る定め)や、当期から原則適用となる連結会計基準(SPCの連結に係る推定規定の見直し)は、遡及適用した場合の影響額を当期首の利益剰余金に加減することとされており(改正退職給付会計基準37項、連結会計基準44-4項(3)、(4))、その場合の(連結)株主資本等変動計算書における表示は、「遡及適用」のケースと異なり明示されていません。
この点について、EDINETのよくある質問(Q&A)の6 Q9などでは、当期首残高に「会計方針の変更による累積的影響額」を加減した残高を「会計方針の変更を反映した当期首残高」として表示する考え方が示されており、この取扱いに従うことが考えられます(金融庁の考え方(企業結合)No.1参照)。
また、会社法における計算書類における取扱いも、会社計算規則などには明示がありませんが、実態は同様であるため、有価証券報告書における取扱いに従うことが考えられます。
日本版ESOP取扱いの早期適用は、3月決算の会社を前提とすると、平成26年3月期の第3四半期(平成25年12月)からのほか、この年度末(平成26年3月期末)からも可能と考えられます。
日本版ESOP取扱いの適用時期は、以下のように定められています(日本版ESOP取扱い19項)。
このため、3月決算の会社を前提とすると、原則適用は、平成27年3月期の期首からということになります。
一方、早期適用は、上記の定めのとおり、年度の期首から又は四半期会計期間の期首からとされており、これを3月決算の会社に当てはめると以下のようになると考えられます。
したがって、第3四半期において早期適用しなかった場合でも、この年度末からの早期適用が可能と考えられます。また、その場合、当年度の期首から適用することとなる点に留意が必要です。
平成26年3月26日に単体開示の簡素化を主とする財規の改正が公布されました。この改正は、平成25年6月に企業会計審議会から公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」の中で、金融商品取引法開示において単体開示の簡素化を図る方針が示されていたことを受けて行われたものです。
具体的には、以下のような改正が行われています。
連結財務諸表を作成している会社のうち、会計監査人設置会社(別記事業を営む株式会社又は指定法人を除きます。)については「特例財務諸表提出会社」とされ(財規1条の2)、本表(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)及び一部の注記(一部の附属明細表を含む。)について、会社法の開示水準に合わせた開示へと変更できることとされました(財規127条)。
連結財務諸表を作成している場合に一定の注記が免除となるなど、単体開示の簡素化が図られるとともに、個別財務諸表における個別掲記の基準が緩和されました。
なお、どのような注記項目が今回の簡素化の対象となっているかなど、詳細については、単体開示簡素化を図る財務諸表等規則等の改正のポイント(会計情報トピックス)をご参照ください。
今回の単体開示の簡素化に係る改正は、平成26年3月31日以後終了する事業年度から適用することとされ、3月決算会社では当期から適用となるため、早急な検討が必要と考えられます。
連結財務諸表を作成している会社のうち、会計監査人設置会社である「特例財務諸表提出会社」に該当したこと自体は、会計方針の変更には該当しません。また、当期において、特例財務諸表提出会社に該当する会社が、財規127条の規定を用いて会社法の開示水準に合わせた開示へと変更した場合、会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当するとの考え方が示されています(金融庁の考え方(単体簡素化)No.2)。
このため、財規127条の規定を用いることにより表示方法の変更に該当する場合には、過年度遡及会計基準における表示方法の変更の取扱いに従うことになります。適用初年度においては、表示方法を定めた法令等の改正により表示方法の変更を行う場合という過年度遡及会計基準13項(1)の要件を充たすものと考えられ、また、表示方法の変更に係る注記が必要となります。当該注記に際しては、「財務諸表の主な項目に係る前事業年度における金額」(いわゆる「影響額」)の記載は要しないこととされている点に留意する必要があります(平成26年内閣府令第19号附則2条2項)(Q24参照)。
なお、財規127条の規定を用いること自体は表示方法の変更に該当するため、次期以降に同項の規定を用いる方法に変更する場合には、通常と同様、表示方法の変更の要件(原則として、表示方法は毎期継続して適用するものとし、会計事象等を財務諸表により適切に反映するために表示方法の変更を行うこと)を満たす必要があります。
Q23に示したとおり、単体開示の簡素化の規定の適用は表示方法の変更に該当すると考えられるため、原則として、表示する過去の財務諸表について財務諸表の組替えを行うことになると考えられます(過年度遡及会計基準14項)。
このため、個別財務諸表での開示が省略できるとされた注記項目などについて、平成26年3月期から当該注記を省略した場合、比較情報を当期の表示方法に整合させることになりますので、比較情報の記載は不要と考えられます(金融庁の考え方(単体簡素化)No.4)。この場合、表示方法の変更の注記が必要となりますが、一定の項目※1については、「財務諸表の主な項目に係る前事業年度における金額」(いわゆる「影響額」)の記載は要しないこととされている点に留意する必要があります(平成26年内閣府令第19号附則2条2項)。
また、財規127条2項の規定に従い、平成26年3月期から有価証券報告書においても会社計算規則の規定に基づき注記を行った場合、同様に比較情報を当期の表示方法に整合させることになります。このため、比較情報は必要と考えられ、このときの開示は会社法の規定に従って作成されることになります(金融庁の考え方(単体簡素化)No.5)。また、表示方法の変更の注記が求められますが、同様に、いわゆる影響額の記載は必要とはされていません(平成26年内閣府令第19号附則2条2項)。
※1 リース取引に関する注記(財規8条の6)、事業分離における分離元企業の注記(財規8条の23)、資産除去債務に関する注記(財規8条の28)、評価性引当金の注記(財規20条)、減価償却累計額の注記(財規26条)、減損損失累計額の注記(財規26条の2)、固定資産の再評価に関する注記(財規42条)、同一の工事契約に係る棚卸資産及び工事損失引当金の注記(財規54条の4)、企業結合に係る特定勘定の注記(財規56条)、1株当たり純資産額の注記(財規68条の4)、製造原価明細書(財規75条)、工事損失引当金繰入額の注記(財規76条の2)、棚卸資産の簿価切下げに係る注記(財規80条)、研究開発費の注記(財規86条)、減損損失に関する注記(財規95条の3の2)、企業結合に係る特定勘定の取崩益の注記(財規95条の3の3)、1株当たり当期純損益金額の注記(財規95条の5の2)、潜在株式調整後1株当たり当期純損益金額の注記(財規95条の5の3)、自己株式に関する注記(財規107条)、及び附属明細表(財規121条)
特例財務諸表提出会社が財規127条1項に示された様式に従い財務諸表を作成した場合、個別掲記の要否は会社計算規則の規定に従って判断されることになります。
今回の改正にて、特例財務諸表提出会社については、会社法の開示水準に合わせた新たな様式で貸借対照表及び損益計算書を開示できることとされました(財規様式第五号の二、第六号の二)。この際、当該様式にて個別に掲記されている科目は、例えば貸借対照表の流動資産であれば、財規17条1項各号に掲げられた各科目のように、区分掲記が必須とされているものなのかどうかが論点となります。この点、新たに設けられた各様式の記載上の注意では、当該様式の適用に際して、具体的には会社計算規則の規定を用いて記載することが示されています。会社計算規則では、財規のように区分して掲記すべき科目が示されていませんので、様式に示された各科目に関して、区分掲記が強制されることはないと考えられます。
また、今回の財規の改正で貸借対照表の各区分の「その他」に含まれた項目の区分掲記の規準が100分の1超から100分の5超になるとともに、損益計算書の販売費及び一般管理費の主要な費目の規準が、従前の100分の5超から100分の10超へ変更されました。ただし、様式第五号の二及び第六号の二を用いる会社は、前述のように会社計算規則の規定を用いて財務諸表を作成することになるため、財規に規定される区分掲記の基準を用いることなく、適切な判断を行うことになると考えられます。
特例財務諸表提出会社が適用できる財規127条のそれぞれの規定については、規則上一斉に適用することが求められているものではありません。ただし、同条の規定を用いる場合には、すべての項目を用いることが望ましいとされています。
特例財務諸表提出会社に該当する当社では、財規127条の規定に基づいて、会社法の開示水準に合わせた開示とすることができます。具体的には、同条1項において本表に係る規定があり、同条2項では複数の注記に関して規定が設けられています。このとき、これらの各規定を一斉に適用しなければならないかどうかに関して、規則上は、必ずしもすべての規定を同時に適用しなければならないとされているわけではありません。しかしながら、金融庁の考え方(単体簡素化)No.24では、投資者の利便等を勘案するのであれば、財規127条に規定されるすべての項目を用いることが望ましいと考えられるとされています。
「主要な経営指標等の推移」における規定は改正されていませんので、従前どおりの開示が求められます。
今回の単体開示の簡素化に係る改正において、1株当たり情報については、連結財務諸表を作成している場合にその開示を省略できることとされました(財規68条の4第3項、95条の5の2第3項、95条の5の3第4項)。一方、同じく個別ベースの1株当たり情報の記載が要求される「主要な経営指標等の推移」(いわゆるハイライト情報)に関する規定は改正されていないため(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第二号様式記載上の注意(25)b(i)、(k)、(l))、従来どおりの記載を継続する点に留意する必要があります(金融庁の考え方(単体簡素化)No.15)。
有価証券報告書の提出に際し、指定国際会計基準や米国会計基準を適用している会社であっても、特例財務諸表提出会社の要件を充たす場合(連結財務諸表を作成し、かつ、会計監査人設置会社である場合)には、個別財務諸表の作成に際して、財規127条の規定が適用できます(金融庁の考え方(単体簡素化)No.3)。
また、指定国際会計基準や米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成しセグメント情報を開示している場合でも、日本基準を適用している会社と同様、製造原価明細書の開示は省略可能です(金融庁の考え方(単体簡素化)No.19)。