有償ストック・オプションの会計処理等に係る実務対応報告のポイント

会計情報トピックス 西野恵子

ASBJから平成30年1月12日に公表

平成30年1月12日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より以下の実務対応報告等が公表されています。

  • 実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)
  • 改正企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」

本実務対応報告は、企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引に関する会計処理及び開示を明らかにすることを目的として公表されたものです。


1. 本実務対応報告の概要

(1)範囲(本実務対応報告第2項)

本実務対応報告は、企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引(当該取引において付与される新株予約権を「権利確定条件付き有償新株予約権」という。以下同じ。)を対象とするとされています。

(2)適用する会計基準(本実務対応報告第4項)

従業員等に対して本実務対応報告の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとするとされています。

(3)会計処理(本実務対応報告5項から第8項)

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引についての会計処理は、基本的にストック・オプション会計基準第4項から第9項に準拠した取扱いを定めています。具体的には次のように行うとされています。

① 権利確定日以前の会計処理

Ⅰ 権利確定条件付き有償新株予約権の付与に伴う従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上するとされています(本実務対応報告第5項(1))。

Ⅱ 各会計期間における費用計上額として、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額(上記Ⅰ参照)を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を算定します。当該権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定するとされています(本実務対応報告第5項(3))。

Ⅲ 権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価単価は付与日において算定し、ストック・オプション会計基準第10項(1)に定める条件変更の場合を除き見直さないとされています(本実務対応報告第5項(4)①)。

Ⅳ 権利確定条件付き有償新株予約権数の算定及びその見直しによる会計処理は、次のとおり行うとされています(本実務対応報告第5項(5))。

ⅰ 権利確定条件付き有償新株予約権数は、付与日において、付与された権利確定条件付き有償新株予約権数(以下「付与数」という。)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定するとされています。

ⅱ 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、これに伴い権利確定条件付き有償新株予約権数を見直します。見直し後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額(上記Ⅰ参照)を差し引いた金額のうち合理的な方法に基づき見直しを行った期までに発生したと認められる額(上記Ⅱ参照)と、これまでに費用計上した額との差額を、見直しを行った期の損益として計上するとされています。

ⅲ 権利確定日には、権利確定条件付き有償新株予約権数を権利の確定した権利確定条件付き有償新株予約権数に修正します。修正後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額(上記(1)参照)を差し引いた金額と、これまでに費用計上した額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上するとされています。

Ⅴ 新株予約権として計上した払込金額(上記Ⅰ参照)は、権利不確定による失効に対応する部分を利益として計上するとされています(本実務対応報告第5項(6))。

② 権利確定日後の会計処理

Ⅰ 権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えるとされています(本実務対応報告第6項(1))。

Ⅱ 権利不行使による失効が生じた場合、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します。この会計処理は、当該失効が確定した期に行うとされています(本実務対応報告第6項(2))。

③ 本実務対応報告に定めのないその他の会計処理

ストック・オプション会計基準及び企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下「ストック・オプション適用指針」という。)の定めに従うとされています(本実務対応報告第8項)。

(4)開示(本実務対応報告第9項)

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション会計基準第16項及びストック・オプション適用指針第24項から第35項に従って行うとされています。

2. 適用時期等(本実務対応報告第10項)

(1)本実務対応報告は、平成30年4月1日以後適用するとされています。ただし、本実務対応報告の公表日以後適用することができるとされています。

(2)上記(1)の定めにかかわらず、本実務対応報告の適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、本実務対応報告の会計処理によらず、従来採用していた会計処理を継続することができるとされています。この場合、本実務対応報告第9項の定めに代えて当該取引について次の事項を注記するとされています。

① 権利確定条件付き有償新株予約権の概要(各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等))。ただし、付与日における公正な評価単価については、記載を要しないとされています。
② 採用している会計処理の概要

(3)本実務対応報告の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合及び上記(2)を適用し従来採用していた会計処理を継続する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うとされています。

3. 公開草案からの主な修正点

  • 適用時期は公表日以後とされていましたが、平成30年4月1日以後からとされ、早期適用の取扱いが追加されました(本実務対応報告第10項(1))
  • 遡及適用するにあたっての会計処理が追加されました(本実務対応報告第10項(2))
  • 本実務対応報告の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合及び本実務対応報告第10項(3)を適用し従来採用していた会計処理を継続する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う旨が追加されました(本実務対応報告第10項(4))
  • 本実務対応報告で取り扱っていない取引については、内容に応じて、本実務対応報告を参考にすべきかどうかを判断することが考えられる旨、及び、今後の実務の状況により、必要に応じて、別途の対応を図ることも考えられる旨が追加されました(本実務対応報告第16項)

なお、本稿は本実務対応報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

企業会計基準委員会ウェブサイトへ

  • 実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」等の公表

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