条件付取得対価の一部が返還される場合の取扱いを定める改正「企業結合に関する会計基準」等のポイント

公認会計士 村田貴広

ASBJから平成31年1月16日に公表

平成31年1月16日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より以下の会計基準等(以下、合わせて「本会計基準等」という。)が公表されています。

  • 改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「改正会計基準」という。)

  • 改正企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「改正適用指針」という。)

本会計基準等は、条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取扱いを定めることと、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という。)の記載内容の相違について、対応を図ることを目的として公表されたものです。
 



1. 本会計基準等の概要

(1)条件付取得対価の定義(改正会計基準(注2))

条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される又は返還される取得対価をいう、とされています。

(2)対価が返還される条件付取得対価の会計処理(改正会計基準第27項(1)及び(注3)並びに改正適用指針第47項(1))

条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識し、追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する。

条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合とは、被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する若しくは引き渡す又は対価の一部の返還を受ける条項がある場合等をいう、とされています。

(3)結合分離適用指針の記載内容の改正

① 結合当事企業の株主に係る会計処理に関する結合分離適用指針の記載について、事業分離等会計基準と記載内容の整合性を図るための改正がされています(改正適用指針第279項から第289項)。

② 分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱いについて、平成22年度税制改正において分割型会社分割のみなし事業年度が廃止されていることから、関連する定めが削除されています(改正適用指針第109項及び第403項)。

2. 適用時期(改正会計基準第58-3項及び第58-4項並びに改正適用指針第331-5項及び第331-6項)

改正会計基準及び改正適用指針は平成31年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用することとされています。

なお、改正会計基準及び改正適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、改正会計基準及び改正適用指針の適用後においても継続することとし、改正会計基準及び改正適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。

3. 公開草案からの主な修正点

  • 公開草案では、のれん又は負ののれんを追加的に認識する時点で計上される損益に関する表現を見直すことが提案されていましたが、公開草案に寄せられたコメントにおいて、条件付取得対価に係る現行の取扱いを変更することを意図しないのであれば表現の見直しを行うことは望ましくないとする意見があったことを踏まえ、当該表現の見直しは行わないこととされました(改正会計基準第27項及び(注4))。

  • 公開草案では「[設例5] 1.将来の業績に依存する条件付取得対価の場合 (1)-1.対価の追加的な交付又は引渡しが行われる場合」の勘定科目を「のれん償却」から「損益(差額)」へと変更することが提案されていましたが、公開草案に寄せられたコメントにおいて、設例の勘定科目が変更により実務の混乱を懸念する意見があったことを踏まえ、当該科目の変更は行わないこととされました(改正適用指針[設例5])。

  • 公開草案では結合企業を子会社として保有し、結合後企業が関連会社となるケースの連結財務諸表上の会計処理の取扱いを削除する提案がされていたが、公開草案に寄せられたコメントにおいて、当該提案は適切でないとの意見があったことを踏まえ、当該ケースの取扱いを明確にするための表現の見直しが行われました(改正適用指針第279項及び第281項)。
     


なお、本稿は本会計基準等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

本会計基準等全文はこちら(企業会計基準委員会ウェブサイトへ)


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