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公認会計士
平川浩光・宮崎徹・廣瀬由美子・大竹勇輝・石川仁
この2021年6月第1四半期決算においては、収益認識会計基準及び時価算定会計基準が原則適用になります。
本稿では、これらの会計基準や四半期決算に関連する論点について、基本的な取扱いを中心に、2021年6月第1四半期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1 時価算定会計基準の概要
Q2 改正前後の金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱い
Q3 四半期における金融商品関係の注記事項
Q4 20年収益認識会計基準適用時の留意事項
Q5 18年収益認識会計基準を早期適用済の場合
Q6 損益計算書の表示
Q7 貸借対照表の表示
Q8 会計方針の変更
Q9 収益認識に関する注記
Q10 収益の分解情報の注記
Q11 会計上の見積り
Q12 本感染症に伴う固定資産減損会計の留意事項
Q13 本感染症に伴う税金及び税効果会計の留意事項
Q14 本感染症に伴う四半期における開示上の取扱い
Q15 株式報酬等取扱いの概要
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※ 本稿は2021年7月8日の時点の情報に基づくものです |
我が国では、金融商品会計基準等において、時価の算定が求められてきましたが、時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、IFRSや米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスが定められています。また、IFRSや米国会計基準で要求されている公正価値に関する開示の多くは日本基準では定められておらず、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見があったことから、ASBJは時価に関するガイダンス及び開示についての検討を開始し、2019年7月4日に時価算定会計基準等を公表しました。また、同日付で、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)の金融商品実務指針等が改正されています(図表1参照)。
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※ 上記の他、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」、実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者の会計処理に関する実務上の取扱い」について、時価算定会計基準の導入に伴う所要の修正が行われています。 |
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(時価算定会計基準16項)。
国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとされました。ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断にあたっては、期末前1カ月の市場平均に基づいて算定された価額を引き続き用いることができるなど、一部の項目については我が国でこれまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別の取扱いを定めています。また、時価算定会計基準では、「公正価値」ではなく、従来どおり、「時価」の用語を用いています。これは、我が国における他の関連諸法規において「時価」が広く用いられていることを踏まえたものとされています。なお、時価の定義はIFRS第13号における「公正価値」と整合的なものとされています。
金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されます(時価算定会計基準3項)。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています。
なお、投資信託の時価の算定等については、時価算定会計基準の公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていましたが、ASBJは2021年6月17日に改正時価算定適用指針を公表しています。改正時価算定適用指針では、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託について時価の算定及び注記に関する取扱いが定められ、また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記に関する取扱いが定められています。
なお、改正時価算定適用指針は、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。ただし、2021年4月以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首、又は2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができるとされています。
「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています(時価算定会計基準5項)。また、資産及び負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によることとされており、一定の要件を満たす場合には、金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができます(時価算定会計基準6項、7項)。
時価の定義について、このような考え方が取り入れられたことから、現行のその他有価証券の期末の貸借対照表価額に1カ月前平均価額を用いることができる定めは廃止されました(2019年改正前金融商品会計基準(注7)参照)。ただし、減損を行うか否かの判断にあたっては引き続き、1カ月前平均価額を用いることができるとされています(金融商品実務指針91項)。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります。
時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます(時価算定会計基準8項)。
そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類する(例えば、レベル2とレベル3の重要な影響を与えるインプットが含まれる場合は、レベル3の時価に分類する)こととなります(時価算定会計基準12項)。
時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記することとされています(時価算定会計基準19項)。
ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるとする経過措置が定められています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできるとされています(時価算定会計基準20項)。
上記の場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記を記載することになります。
なお、新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています(時価開示適用指針7-4項)。
時価算定会計基準を適用した場合に会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の定めのみが影響すると見込まれる会社については、同基準の適用時には会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当することになると考えられます。
時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念が取り入れられ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定することとされています。このような時価の考え方の下では、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。これにより、従来、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に分類されていた有価証券のうち、「市場価格のない株式等」以外の社債等の債券等について、その会計処理及び開示の取扱いは図表2のとおり、従前と異なるため留意が必要となります。
一方で、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています(金融商品会計基準19項)。この「市場価格のない株式等」とは、市場において取引されていない株式とされ、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものは、同様の取扱いとされています(金融商品会計基準19項)。
※1 改正前に時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品とされていたもののうち、改正後における「市場価格のない株式等」以外のもの
※2 時価をもって貸借対照表価額としない金融商品の貸借対照表価額については、例えば、債権は取得原価(又は償却原価)-貸倒引当金、満期保有目的の債券は取得原価(又は償却原価)、金銭債務は債務額(又は償却原価)となり、各商品や保有目的により異なる
四半期財務諸表においては、金融商品について、当該金融商品に関する科目ごとに、企業集団の事業の運営にあたって重要なものとなっており、かつ、四半期貸借対照表(四半期連結貸借対照表を含む。以下同じ。)計上額その他の金額に前事業年度の末日に比して著しい変動が認められる場合には、以下の注記が求められています(四半期財規8条の2第1項、四半期連結財規15条の2第1項)。
市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、上記の事項の記載を要しないこととされており、この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び四半期貸借対照表計上額を注記することとされています(四半期財規8条の2第5項、四半期連結財規15条の2第5項)。
また、時価算定会計基準の導入に伴い、時価で四半期貸借対照表に計上している金融商品については、以下の「(2)レベルごとの時価の合計額」が注記事項とされています。ただし、当該金融商品に関する四半期貸借対照表の科目ごとに、企業集団の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、当該金融商品を適切な項目に区分し、その項目ごとに、当該金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、それぞれの金額に前事業年度末に比して著しい変動が認められる場合に注記が求められるもので、それ以外の場合は注記が不要となります(四半期財規8条の2第3項、四半期連結財規15条の2第3項)。
このレベルごとの時価の合計額において、その項目ごとの金融商品の時価につき、適時に、正確な金額を算定することが困難な場合には、概算額を記載することができます(四半期財規8条の2第4項、四半期連結財規15条の2第4項)。なお、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ、総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団(以下「金融機関」という。)以外の会社においては、第1四半期及び第3四半期において当該注記を省略することができます(四半期財規10条の2、四半期連結財規17条の2)。
ただし、2020年3月6日に改正された時価算定会計基準の適用に係る四半期財務諸表等規則(以下「新四半期財務諸表等規則」という。)の規定を初めて適用する場合(直前の事業年度に係る財務諸表に2020年3月6日改正の財務諸表等規則の規定を適用している場合を除く。)には、新四半期財務諸表等規則8条の2第3項に規定する事項(上記(2)の事項)については、比較情報を含めて記載することを要しないと規定されています(令和2年内閣府令第9号附則4条2項、3項、7条2項、3項)。また、当該附則については、金融機関が除かれるとは規定されていません。
このため、金融機関も含め、時価算定会計基準等の適用初年度においては、比較情報も含めて(2)の事項は記載することを要しないことになります。
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています(以下「原則的な取扱い」という。)(20年収益認識会計基準84項本文)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(20年収益認識会計基準84項ただし書き)。この適用初年度の取扱いをまとめたものが、以下の図表4です。
原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下のⅰからⅳの方法の1つ又は複数を適用することができるとされています(20年収益認識会計基準85項)。
ⅰ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約(※1)について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと
ⅱ 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
ⅲ 適用初年度の前連結会計年度内及び前事業年度内に開始して終了した契約について、適用初年度の前連結会計年度の四半期連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の四半期個別財務諸表を遡及的に修正しないこと
ⅳ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
※1 「従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約」に該当すると判断されるすべての契約に首尾一貫して経過措置を適用しなければならない(個々の契約単位で経過措置の選択を判断することはできない)点に留意する。
適用初年度に20年収益認識会計基準84項ただし書きを選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約(※2)に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています(20年収益認識会計基準86項本文)。
また、84項ただし書きを選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています(20年収益認識会計基準86項また書き)。
※2 上記②の※1と同様に、「従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約」に該当すると判断されるすべての契約に首尾一貫して経過措置を適用しなければならない点に留意する。
IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に20年収益認識会計基準を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号又はTopic 606「顧客との契約から生じる収益」のいずれかの経過措置の定めを適用することができることとされています(20年収益認識会計基準87項本文)。
また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に20年収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号における経過措置に関する定めを適用することができるとされています(20年収益認識会計基準87項また書き)。
20年収益認識会計基準等は、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の会計処理として税込方式を認めていないため、税抜方式のみとなります(20年収益認識会計基準47項、212項)。
適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。したがって、消費税等の会計処理も遡及適用することが原則となりますが、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができるとする経過措置が定められています(20年収益認識会計基準89項)。
表示科目については、20年収益認識会計基準の適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています(20年収益認識会計基準89-2項)。
また、20年収益認識会計基準の適用初年度においては、20年収益認識会計基準において定める以下の注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています(20年収益認識会計基準89-3項)。
四半期においては、収益の分解情報に関する注記(Q10参照)のみが求められていますが(四半期財規22条の4、四半期連結財規27条の3)、適用初年度の比較情報について記載することを要しないとされています(令和2年内閣府令第46号附則3条6項及び11項)。
18年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2022年3月期の期首から20年収益認識会計基準を適用する場合には、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります。ただし、20年収益認識会計基準等では、主に表示及び開示に関する定めが追加されていることから、18年収益認識会計基準を早期適用している場合には、20年収益認識会計基準の適用による会計処理への影響は、契約資産の性質の見直しや適用範囲の見直しに限られており、限定的であるものと考えられます。
さらに、経過措置として、将来にわたり新たな会計方針を適用することができるとされています(20年収益認識会計基準89-4項)。
20年収益認識会計基準の適用初年度においては、20年収益認識会計基準の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、過年度遡及会計基準14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。
また、以下に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。
なお、会計処理の変更は生じておらず、表示方法の変更のみが生じる場合には、会計方針の変更の注記は不要であると考えられます。また、四半期においては、表示方法の変更の注記は求められていないことから、必要に応じて追加情報として注記することになると考えられます。
20年収益認識会計基準等では、四半期損益計算書(四半期連結損益計算書も含む。以下同じ。)においても、顧客との契約から生じる収益を、適切な科目(例えば、売上高、売上収益、営業収益等)をもって四半期損益計算書に表示します(四半期財ガ58、財規ガ72-1、四半期連ガ66)。
これまでの実務慣行等を踏まえると、財の販売から生じる収益を「売上高」、サービスの提供から生じる収益を「役務収益」、代理人として獲得する収益を「手数料収益」などとすることが考えられますが、表示科目を決定するための具体的な指針は示さないこととされています(20年収益認識会計基準155項)。このため、実務上は、各企業において、実態に応じた適切な表示科目を検討しておくことが必要になると考えられます。
損益計算書の表示及び関連する注記については、図表5のとおり、顧客との契約から生じる収益の区分表示の取扱いが、年度と四半期とで異なります。
年度 |
四半期 |
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表示 |
各企業の実態に応じ、売上高、売上収益、営業収益等適切な名称を付す(財規ガ72-1、連財ガ51)。 |
各企業の実態に応じ、売上高、売上収益、営業収益等適切な名称を付す(四半期財ガ58、四半期連ガ66、財規ガ72-1条)。 |
注記 |
顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して記載しない場合には顧客との契約から生じる収益の金額の注記する(財規72条2項、連結財規51条2項)。 |
左記は求められていない。 |
20年収益認識会計基準適用後の四半期貸借対照表の表示については、受取手形、売掛金及び契約資産の区分に表示するとされています(四半期財規30条1項、四半期連結財規35条1項)。
また、契約負債については、区分掲記は求められておらず、流動負債「その他」に含めて表示すると考えられます(四半期財規44条1項、四半期連結財規49条1項)。ただし、負債及び純資産の合計額の100分の10を超えるもの又は区分して表示することが適切であるものについては「契約負債」などの適切な科目で別掲することになります(四半期財規44条2項、4項、四半期連結財規49条2項、4項)。
年度の(連結)財務諸表で求められる契約負債の区分掲記や、区分掲記しない場合の注記は、図表7のとおり、四半期の規則上規定されていません。
なお、契約資産と契約負債は、契約単位で相殺表示することとされています。例えば、1つの契約に複数の履行義務がある場合には、それぞれの履行義務に関する契約資産と契約負債を総額表示するのではなく、契約におけるすべての履行義務に関する契約資産と契約負債を集約し、相殺表示することになります。
ただし、複数の契約から生じた契約資産と契約負債は、図表6のように相殺せずに総額で貸借対照表に表示することになる点には留意が必要です(20年収益認識会計基準150-2項)。
年度 |
四半期 |
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表示 |
「受取手形」、「売掛金」、「契約資産」に区分して表示する(財規17条1項、連結財規23条1項)。 |
「受取手形、売掛金及び契約資産」として区分して表示する(四半期財規30条1項、四半期連結財規35条1項)。 |
注記 |
「受取手形」、「売掛金」、「契約資産」のそれぞれについて他の項目に属する資産と一括して表示する場合には、「受取手形(顧客との契約から生じた債権に限る。)」、「売掛金(顧客との契約から生じた債権に限る。)」、「契約資産」に属する資産の科目及び金額をそれぞれ注記する(財規17条4項、連結財規23条5項)。 |
左記は求められていない。 |
18年収益認識会計基準等及び20年収益認識会計基準等の適用初年度においては、会計方針の変更として取り扱い、第1四半期の財務諸表に「会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記」として、以下の注記を行うことになります(四半期財規5条、四半期連結財規10条の2)。
① 当該会計基準等の名称
② 当該会計方針の変更の内容
③ 税引前四半期純損益金額に対する前事業年度の対応する四半期累計期間における影響額(84項ただし書きの場合は、税引前四半期純損益金額に対する影響額)及びその他の重要な項目に対する影響額
③に記載の「その他の重要な項目に対する影響額」としては、例えば、売上高、売上原価、利益剰余金の前期首残高(84項ただし書きの方法を採用している場合には、当期首残高)への影響額を記載することが考えられます。
また、20年収益認識会計基準等ではQ4(1)③から⑤に記載のとおり、様々な経過措置が認められていますが、経過措置に従って会計処理を行った場合においては、上記に加え、以下を注記することになります。
④ 経過的な取扱いに従って会計処理を行った旨及び当該経過的な取扱いの概要
なお、年度の(連結)財務諸表で求められる1株当たり情報に対する影響額の注記は、図表8のとおり、四半期の規則上規定されていません。
年度 |
四半期 |
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当該会計基準等の名称 |
当該会計基準等の名称 |
当該会計方針の変更の内容 |
当該会計方針の変更の内容 |
財務諸表の主な科目に対する前事業年度における影響額 前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額 |
税引前四半期純損益金額に対する前事業年度の対応する四半期累計期間における影響額及びその他の重要な項目に対する影響額 |
前事業年度に係る1株当たり情報に対する影響額 |
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(85項の経過措置に従って会計処理を行った場合) |
(85項の経過措置に従って会計処理を行った場合) |
(84項ただし書きの方法)
年度 |
四半期 |
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当該会計基準等の名称 |
当該会計基準等の名称 |
当該会計方針の変更の内容 |
当該会計方針の変更の内容 |
当該経過措置に従って会計処理を行った旨及び当該経過措置の概要 |
当該経過措置に従って会計処理を行った旨及び当該経過措置の概要 |
当該経過措置が当事業年度の翌事業年度以降の財務諸表に影響を与える可能性がある場合には、その旨及びその影響額 |
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財務諸表の主な科目に対する実務上算定可能な影響額 |
税引前四半期純損益金額に対する影響額及びその他の重要な項目に対する影響額 |
1株当たり情報に対する実務上算定可能な影響額 |
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20年収益認識会計基準等では、企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することが明確にされています。このため、収益認識に関する注記の開示の内容や要否については、開示目的(顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること(20年収益認識会計基準80-4項))に照らして判断することになります。
また、当該開示目的を達成するため、四半期では、収益認識に関する注記として、次の項目を注記するとされています(四半期財規22条の4第1項、四半期連結財規27条の3)。
ただし、重要性に乏しいと認められるものについては、記載しないことができます(20年収益認識会計基準80-5項ただし書き、四半期財規22条の4第1項ただし書き、四半期連結財規27条の3)。重要性の判断については、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要がありますが、定量的な要因のみによる判断において重要性がないといえない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断されることもあると考えられるとされています(20年収益認識会計基準168項)。
また、収益認識に関する注記として記載する内容について、例えば、セグメント情報の注記に含めて収益の分解情報を示す等、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、その旨を記載し、記載を省略することができます(20年収益認識会計基準80-9項、172項、173項、四半期財規22条の4第2項、四半期連結財規27条の3)。
ここで、開示の重要性の判断については、金融庁の「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」の重点テーマ審査(IFRS第15号)審査結果が参考になると考えられます。当該審査結果では、重要性の判断は開示目的とともに考慮するべきであり、重要性がないとして要求されている開示を省略する際には、その省略によって開示目的の達成に必要な情報の理解も困難になっていないかどうか検討することが求められる、とされています。また、重要性が乏しい事項について、開示されている定量的情報等からその旨を読み取ることができない場合は、重要性が乏しいことが分かるように簡潔な説明を加えることも有用と考えられる、とされていることにご留意ください。
当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分(例えば、製品別や地域別等)に分解した情報を注記することとされています(20年収益認識会計基準80-10項、20年収益認識適用指針106-3項、四半期財規22条の4第1項、四半期連結財規27条の3)。
また、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」を適用している場合、当該会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することとされています(20年収益認識会計基準80-11項、四半期財ガ22の4の2、四半期連ガ27の3)。
上記の収益の分解情報を注記するにあたっては、例えば、決算発表資料やプレスリリース等で提供されているより詳細な収益の分解に関する情報を、それらが財務諸表外で開示された目的に照らしてどの程度開示すべきかを検討する必要がありますが(20年収益認識適用指針106-4項)、開示例の具体的なイメージについては図表9をご参照ください。
上記の開示例では、顧客との契約から生じる収益の合計23,000百万円を、主たる地域市場、主要な財又はサービスのライン、収益認識の時期により分解した情報をセグメントごとに開示しています。これらの例示はチェックリスト又は網羅的なリストとして利用されることは意図されていないことから(20年収益認識適用指針190項)、企業の実態に即した事実及び状況に応じて各企業の判断において分解する区分を決定する必要がある点にご留意ください。
また、年度でも四半期と同様の内容が開示が求められていることから、四半期においてどのような開示を行うかについて十分に検討する必要があると考えられます(四半期連結財規27条の3、四半期財ガ22の4、四半期連ガ27の3、財規8条の32、連結財規15条の26、四半期財規22条の4)。
ここで、収益の分解情報については、金融庁の「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」の重点テーマ審査(IFRS第15号)の審査結果が参考になると考えられますが、IFRS第15号の開示に関する改善の余地がある事項が3点あり、図表10のように改善の方向性が提案されていますので、ご参考にしてください。
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(参考:金融庁「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」) |
四半期財務諸表の作成のために採用する会計方針は、四半期特有の会計処理を除き、原則として年度の連結財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければなりませんが、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができます(四半期会計基準9項、20項)。これらの会計処理の多くは、開示の迅速性を踏まえ、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲で、前年度決算から経営環境等に著しい変化が生じていないことを前提に前年度決算の結果を利用した会計処理を行うことを容認しているものになります。
しかし、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の変異株のまん延や2021年4月25日より東京及び大阪等の一部地域に3度目の緊急事態宣言が発令されるなど、本感染症の感染拡大の状況が続いています。また、それ続くと同時に、我が国における本感染症のワクチン接種も徐々に進展してきており、本感染症に起因する経営環境の変化は、日々刻々と企業に大きな影響を与えていると考えられることから、簡便的な会計処理を採用している場合においても、3月の本決算後の経営環境の変化を四半期決算に織り込んでいく点に留意が必要と考えられます。
また、財務諸表を作成する上では、様々な会計上の見積りを行うことが必要となりますが、過年度遡及会計基準4項(3)において、会計上の見積りは「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義されています。
これまでの本感染症が会計上の見積りに与える影響の基本的な考え方は、2022年3月期の第1四半期決算における会計上の見積りに関しても同様であると考えられます(「2021年3月期 決算上の留意事項」のQ3 「2021年3月期における会計上の見積りのポイント」参照)。したがって、第1四半期決算においても、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できない場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等について、企業自ら一定の仮定を置くことが引き続き必要です。
なお、2020年6月30日に日本公認会計士協会よりJICPA(その6)が公表されており、新型コロナウイルス感染症に関連する四半期レビューにおける留意事項が示されています。2022年3月期の四半期決算において、企業が四半期財務諸表における見積りを行うにあたっても、引き続き参考になるものと考えられますのでご留意ください。
四半期決算における減損の兆候の把握にあたっては、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意が必要です(四半期適用指針14項、JICPA(その6))。
この四半期決算においても、本感染症の感染拡大に伴い、緊急事態宣言の再発令又は延長及び東京五輪の開催状況の変化等による需要の減少などを原因として、既に一部店舗の閉鎖の意思決定が行われていたり、製・商品販売量の著しい減少が続くことが見込まれる場合など、将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
また、上記の事象が発生したかどうかの検討に加えて、四半期で資産グループに関連する営業損益等の管理資料が利用可能な会社においては、当該資料に基づき減損の兆候を検討することになると考えられます。
親会社及び連結子会社の法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金については、四半期会計期間を含む年度の法人税等の計算に適用される税率に基づいて原則として年度決算と同様の方法により計算し、繰延税金資産については、回収可能性を検討した上で、四半期貸借対照表に計上することとされています(四半期会計基準14項)。
このため、この原則的な取扱いに従う場合、四半期決算日ごとに年度決算と同様に企業の分類の要件を検討した上で、四半期決算日時点における合理的な仮定に基づく業績予測によって四半期会計期間の末日を起点として将来の一時差異等加減算前課税所得を見積り、その見積りに基づいて繰延税金資産を計上することになります。
一方、四半期決算における繰延税金資産の回収可能性の判断については、図表11の簡便的な取扱いが認められています(四半期適用指針16項、17項)。
ケース |
簡便的な取扱い |
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経営環境の著しい変化が生じておらず、かつ、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められる場合 |
繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができる |
経営環境に著しい変化が生じ、又は、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動があると認められる場合 |
繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲において、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングに、当該著しい変化又は大幅な変動による影響を加味したものを使用することができる |
簡便的な取扱いを適用する場合、本感染症の感染拡大の影響により業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境の著しい変化が生じているか、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められるか留意が必要です。
本感染症の影響により、企業の収益力が大幅に低下し、第1四半期決算において重要な税務上の欠損金が生じ、年度末においてもそのまま重要な税務上の欠損金となることが見込まれる場合には、第1四半期決算においても、分類の見直しを行う必要があるか慎重な検討が求められると考えられます。
ここで、繰延税金資産の回収可能性の検討にあたっては、本感染症の影響が企業の将来の収益力にどのような影響を及ぼすのかなど、事業計画等における仮定に生じる変化の可能性に留意し、翌四半期以降の事業計画等の見直しの要否について検討することが必要となります。
四半期決算において、税金費用については、四半期会計期間を含む年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前四半期純利益に当該見積実効税率を乗じて計算することができる(以下「四半期特有の会計処理」という。)とされています(四半期会計基準14項ただし書き)。
四半期特有の会計処理を適用している場合においても、前年度末に計上された繰延税金資産については、繰延税金資産の回収見込額を各四半期決算日時点で見直した上で四半期(連結)貸借対照表に計上することになる点に留意が必要です。
また、本感染症の影響等により、例えば以下の①から③のように見積実効税率を用いて税金費用を計算すると著しく合理性を欠く結果となる場合、法定実効税率を用いて税金費用を計算することになります(四半期適用指針19項、中間税効果適用指針14項)。
① 予想年間税引前当期純利益がゼロ又は損失となる場合
② 予想年間税金費用がゼロ又はマイナスとなる場合
③ 上期と下期の損益が相殺されるため、一時差異等に該当しない項目に係る税金費用の影響が予想年間税引前当期純利益に対して著しく重要となる場合
なお、法定実効税率を用いて税金費用を計算する場合には、図表12のとおり計算することになります(四半期適用指針19項、中間税効果適用指針15項)。
ケース |
計算方法 |
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税引前四半期純利益が生じている場合 |
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税引前四半期純損失が生じている場合 |
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2020年6月第1四半期においては、2020年6月26日に公表された「ASBJ議事概要(更新)」の内容に基づき、追加情報に本感染症の見積りに関する内容を注記していたケースが多いと考えられます。
ここで、2021年6月第1四半期では見積開示会計基準が適用されていますが、見積開示会計基準の適用により、会計上の見積りの変更に関する現行の実務を変更することは想定されていないと考えられ、見積開示会計基準の適用前において会計上の見積りの変更として取り扱っていないものについては、見積開示会計基準の適用後も引き続き会計上の見積りの変更として取り扱わないことになると考えられます。
このため、本感染症の見積りの内容に関する2021年6月第1四半期の開示上の取扱いは、図表13のとおりとなると考えられます。
ケース |
記載内容 |
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前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」に記載した本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定について、四半期決算において重要な変更を行った場合 |
他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載 |
前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」において、本感染症に関する仮定の記載を行っていないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になった場合 |
他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載 |
前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」に記載した本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定について、重要な変更を行っていないが、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合 |
四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい |
2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という。)が成立し、一部を除き、2021年3月1日に施行されました。この改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式を発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に株式報酬等取扱いを公表しました。
改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています(株式報酬等取扱い23項)。
会社法202条の2に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とすることとされています。
また、現行実務において行われているいわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引(以下「現物出資構成による取引」という。)など、現行の類似スキームには適用されません。この点、株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行であるのに対して、いわゆる現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、いわゆる現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています(株式報酬等取扱い3項、26項)。したがって、現行の類似スキームには準用又は類推適用もできないと考えられます。
なお、仮に改正会社法の施行日後に導入する場合であっても、現行の類似スキームには適用されません。また、上場会社の取締役等に限定されているため、上場会社の従業員や子会社の取締役等を対象とした同様のスキームにも適用されませんので、ご留意ください。
株式報酬等取扱いの適用対象としている取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引については、自社の株式を報酬として用いる点で、ストック・オプションと類似性があるものと考えられます。
両者は、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、ストック・オプション会計基準の定めに準じることとされています。
一方、株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されており、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点について、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています(株式報酬等取扱い35項から38項)。