EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
平川浩光、宮﨑 徹、大竹勇輝、廣瀬由美子、松川由紀子、石川 仁
この2022年3月期決算においては、収益認識会計基準及び時価算定会計基準が原則適用となります。また、改正時価算定適用指針及びグループ通算制度に係る税効果会計上の取扱いを定めた実務対応報告第42号を早期適用することができます。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2022年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1 時価算定会計基準の概要
Q2 改正前後の金融商品の貸借対照表価額及び時価の注記の取扱い
Q3 時価算定会計基準適用後の金融商品に関する注記事項
Q4 改正時価算定適用指針の概要
Q5 収益認識会計基準における開示
Q6 会計上の見積りに対する本感染症の影響の基本的な考え方
Q7 本感染症の影響に関する留意事項(固定資産減損会計)
Q8 本感染症の影響に関する留意事項(税効果会計)
Q9 本感染症に関する開示上の取扱い
Q10 株式報酬等取扱いの概要
Q11 株式交付制度に関する規定の新設
Q12 株主総会資料の電子提供制度の新設及び整備
Q13 LIBOR取扱いの概要
Q14 LIBOR取扱いにおける会計処理及び開示
Q15 LIBOR取扱いの改正
Q16 実務対応報告第39号の適用
Q17 実務対応報告第42号の適用
Q18 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q19 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性
Q20 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q21 令和4年度税制改正の概要
Q22 令和3年度税制改正における繰越欠損金の控除上限の特例
Q23 非財務情報開示の動向
Q24 監基報720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
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※本稿は2022年5月23日の時点の情報に基づくものです |
わが国では、金融商品会計基準等において、時価の算定が求められてきましたが、時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、IFRSや米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスが定められています。また、IFRSや米国会計基準で要求されている公正価値に関する開示の多くは日本基準では定められておらず、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見があったことから、ASBJは時価に関するガイダンス及び開示についての検討を開始し、2019年7月4日に時価算定会計基準等を公表しました。また、同日付けで、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)の金融商品実務指針等が改正されています(図表1 参照)。
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なお、投資信託の時価の算定等については、時価算定会計基準の公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていましたが、ASBJは2021年6月17日に、改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」を公表しています(図表2 参照)。改正後の時価算定適用指針では、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託について時価の算定及び注記に関する取扱いが定められ、また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記に関する取扱いが定められています。
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2019年7月に公表された時価算定会計基準等は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(時価算定会計基準16項)。
国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとされました。ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断にあたっては、期末前1カ月の市場平均に基づいて算定された価額を引き続き用いることができるなど、一部の項目についてはわが国でこれまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別の取扱いを定めています。また、時価算定会計基準では、「公正価値」ではなく、従来どおり、「時価」の用語を用いています。これは、わが国における他の関連諸法規において「時価」が広く用いられていることを踏まえたものとされています。なお、時価の定義はIFRS第13号における「公正価値」と整合的なものとされています。
金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されます(時価算定会計基準3項)。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています(時価算定会計基準28項)。
「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています(時価算定会計基準5項)。また、資産及び負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によることとされており、一定の要件を満たす場合には、金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができます(時価算定会計基準6項、7項)。
時価の定義について、このような考え方が取り入れられたことから、現行のその他有価証券の期末の貸借対照表価額に1カ月前平均価額を用いることができる定めは廃止されました(2019年改正前金融商品会計基準(注7)参照)。ただし、減損を行うか否かの判断にあたっては引き続き、1カ月前平均価額を用いることができるとされています(金融商品実務指針91項)。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります。
時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます(時価算定会計基準8項)。
そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類する(例えば、レベル2とレベル3の重要な影響を与えるインプットが含まれる場合は、レベル3の時価に分類する)こととなります(時価算定会計基準12項)。
投資信託の時価の算定に関しては、改正時価算定適用指針の適用前においては、2019年改正前の金融商品実務指針62項の取扱いを踏襲することになります。
具体的には、投資信託の時価は、取引所の終値若しくは気配値又は業界団体が公表する基準価格が存在する場合には当該価格とし、当該価格が存在しない場合には投資信託委託会社が公表する基準価格、ブローカーや情報ベンダーから入手する評価価格とすることができます。
また、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記」(時価開示適用指針5-2項)の注記は要しないとされています。この場合、当該投資信託について、その旨及び貸借対照表計上額を、時価開示適用指針5-2項(1)の注記に併せて注記することになります。
貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資(金融商品実務指針132項及び308項)の時価の注記についても、改正時価算定適用指針の適用前においては、金融商品の時価等に関する事項の注記の「貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額」(時価開示適用指針4項(1))の注記は要しないとされています。
この場合、その旨及び貸借対照表計上額を、時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて注記することになります。
時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記することとされています(時価算定会計基準19項)。
ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるとする経過措置が定められています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできるとされています(時価算定会計基準20項)。これらの場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記を記載することになります。
なお、時価算定会計基準では、時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いて、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用するとされています。このため、時価をもって貸借対照表価額とする金融商品を保有している場合には、時価の算定の結果が前事業年度末と変わらなかったとしても、時価の算定方法は変わっていると考えられるため、時価算定会計基準の適用について、会計方針の変更において記載することが考えられます。
また、新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています(時価開示適用指針7-4項)。
時価算定会計基準を適用した場合に会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の定めのみが影響すると見込まれる会社については、同基準の適用時には会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当することになると考えられます。
時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念が取り入れられ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定することとされています。このような時価の考え方の下では、「時価を把握することが極めて困難と認められる」金融商品は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。これにより、例えば、従来、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に分類されていた有価証券のうち、「市場価格のない株式等」以外の社債等の債券等について、その会計処理及び開示の取扱いは図表3のとおり、従前と異なるため留意が必要となります。
一方で、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています。この「市場価格のない株式等」とは、市場において取引されていない株式とされ、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものは、同様の取扱いとされています(金融商品会計基準19項)。
時価算定会計基準等の公表と同時に金融商品会計基準及び時価開示適用指針が改正され、金融商品に関する注記事項としては、これまで求められていた、(1)金融商品の状況に関する事項、及び(2)金融商品の時価等に関する事項に追加して、(3)金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記が求められることになりました(金融商品会計基準40-2項)。
(3)金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記内容については、時価開示適用指針5-2項に定められており、金融商品のレベルごと、また、時価をもって貸借対照表価額とするか否かによって、異なる開示が求められています。
また、(2)金融商品の時価等に関する事項において、従来は時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品について、当該金融商品の概要、貸借対照表計上額及びその理由を注記するとされていましたが、時価算定会計基準の導入により「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」の定めが削除されたことに伴い、改正後は、市場価格のない株式等についてのみ、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記することとされています。
金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項については、時価開示適用指針5-2項に定められています。金融商品のレベルごと、また、時価をもって貸借対照表価額とするか否かによって、求められる開示項目が異なっており、図表4の開示項目の注記が求められています。
なお、重要性が乏しいものは注記を省略することができます。企業は、注記の対象となる金融商品について、貸借対照表日現在の残高のほか、時価の見積りの不確実性の大きさを勘案した上で、当期純利益、総資産及び金融商品の残高等に照らして、注記の必要性を判断することになるものと考えられます(時価開示適用指針39-4項)。
また、連結財務諸表に注記している場合には、個別財務諸表では記載不要です(時価開示適用指針5-2項)。
時価算定会計基準の適用初年度においては、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記について、比較情報の開示は不要とされています(時価開示適用指針7-4項)。
2020年3月31日に公布された「会社計算規則の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第27号)により、会社計算規則が改正され、会社法計算書類における金融商品に関する注記について「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」等(以下の計規109条の下線部)が追加されています。
会社計算規則
(金融商品に関する注記)
第109条金融商品に関する注記は、次に掲げるもの(重要性の乏しいものを除く。)とする。ただし、法第444条第3項に規定する株式会社以外の株式会社にあっては、第3号に規定する事項を省略することができる。
一 金融商品の状況に関する事項
二 金融商品の時価等に関する事項
三 金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項
2 連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における前項の注記を要しない。
なお、会社法444条3項に規定する大会社であって有価証券報告書を提出する株式会社以外の株式会社にあっては、計規109条1項3号に規定する金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項は省略することができるとされています(計規109条1項ただし書き)。
ASBJは、2019年7月に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みとして、時価算定会計基準及び改正前の時価算定適用指針を公表しました。
改正前の時価算定適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていました。また、投資信託の時価の算定を検討するにあたっては、現状では多様な取扱いがなされている市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託の貸借対照表価額を時価に統一するか否かについても検討が行われました。
そして、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースが従来みられていましたが、一定の検討を要するため、投資信託に関する取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとされていました。
上記の経緯を踏まえ、ASBJにおいて審議が行われていましたが、2021年6月に時価算定適用指針が公表されました。
適用時期については、図表5のとおりです。
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投資信託財産が金融商品である投資信託については、市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます。
一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が金融商品である投資信託については、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-2項から24-7項、49-2項から49-8項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、図表6のとおりです。
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なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、貸借対照表計上額の合計額や期首残高から期末残高への調整表などの注記に関する定めが設けられています。
投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながるものと考えられました。これらを踏まえ、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理が統一されています。
一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が不動産である投資信託についても、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-8項から24-12項、49-9項から49-14項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、図表7のとおりです。
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なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、貸借対照表計上額の合計額や期首残高から期末残高への調整表などの注記に関する定めが設けられています。
組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では従来から時価の注記を求めているものの、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めておらず、どのようなケースで時価の注記を求めるかについては、どのようなケースで時価をもって貸借対照表価額とすることが必要であるかと併せて検討する必要があるとされました。したがって、改正後の時価算定適用指針では、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記を要しないこととされました(改正時価算定適用指針24-16項、49-17項から49-18項)。
時価算定適用指針の適用初年度においては、時価算定適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用することとなります。この場合、その変更の内容について注記します(改正時価算定適用指針27-2項)。また、適用初年度の注記について、以下の経過措置が定められています。
改正前の時価算定適用指針26項の経過措置を適用し、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(時価開示適用指針5-2項)の注記をしていなかった投資信託に関する「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記については、時価算定適用指針の適用初年度においては、比較情報の記載を要しないとされています(改正時価算定適用指針27-3項)。
改正時価算定適用指針を年度末から適用する場合には、改正時価算定適用指針の適用初年度における調整表①(※1)の注記を省略することができます。また、改正前の時価算定適用指針26項の経過措置を適用し、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」を注記していなかった投資信託で、基準価額を時価とみなす取扱いを適用しないものに関する調整表②(※2)の注記を省略することができます。
また、この場合、適用初年度の翌年度においては、調整表①及び調整表②の比較情報は要しないとされています(改正時価算定適用指針27-4項)。
※1改正時価算定適用指針24-7項(3)及び24-12項(3)の注記(基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合の調整表)
※2時価開示適用指針5-2項(4)②の注記(基準価額を時価とみなす取扱い以外の取扱いを適用した場合でレベル3の時価に分類される投資信託に関する調整表)
収益認識会計基準等が、2021年4月1日以後開始年度から原則適用となりました。四半期決算においては収益の分解情報といった一部の注記が行われていますが、2022年3月期の年度決算においては、収益認識会計基準に基づくすべての開示が行われることになります。これらの開示に関して概要をまとめると以下のとおりとなります。
なお、収益認識会計基準の表示・開示に関して、会計基準の定めについては当法人発行の「情報センサー」2020年7月号、実務上の論点については2020年8月・9月合併号及び2022年2月号で解説していますので、併せてご参照ください。
① 損益計算書
損益計算書における顧客との契約から生じる収益に関する定めをまとめると図表8のとおりです。
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② 貸借対照表
貸借対照表における顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債に関する定めをまとめると図表9のとおりです。
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(2)注記事項
収益認識会計基準で定められている注記事項をまとめると図表10のとおりです。
① 収益を理解するための基礎となる情報
収益認識に関する注記のうち、収益を理解するための基礎となる情報に関して、図表11のとおり例が示されていますので、これらの例示を参考にしながら記載していくことが考えられます。なお、記載方法に関しては、必ずしも項目別に記載する必要はなく、例えば、事業別に記載する方法も考えられます。なお、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができます。また、収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することもできますので、ご留意ください。
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② 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、注記が求められている事項をまとめると図表12のとおりです。
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連結財務諸表作成会社を前提として、連結財務諸表及び個別財務諸表における「収益認識に関する注記」の取扱いは図表13のとおりです(連結財規15条の26、財規8条の32)。
計算書類における「収益認識に関する注記」について各注記表での取扱いをまとめると図表14のとおりです(計規115条の2)。
財務諸表を作成する上では、さまざまな会計上の見積りを行うことが必要となりますが、過年度遡及会計基準4項(3)において、会計上の見積りは「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義されています。新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)については、さまざまな会計上の見積りに影響を及ぼすと考えられます。
ASBJは、2021年2月10日にASBJ議事概要(2021年2月)を公表しました。ASBJ議事概要(2021年2月)では、本感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難な状況に変化はなく、会計上の見積りを行う上で、特にキャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況に変わりはないとして、これまでに公表した議事概要の考え方が引き続き周知されました。
2021年3月期決算においては、ASBJ議事概要(2021年2月)であらためて周知された、ASBJ議事概要(2020年4月)における考え方を踏まえて、会計上の見積りが行われていたものと考えられます。その主な内容は以下のとおりです。
ASBJ議事概要(2020年4月)
① 財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する上では、本感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる
② 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、本感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる事例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、本感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
③ 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離(かいり)が生じたとしても、「誤謬」には当たらない
わが国では、一時は感染者数の急速な減少により収束に向けた期待感も出てきていたと考えられる一方で、新たな変異株による2022年1月以降の感染再拡大の状況を鑑みると、2022年3月期決算においても、依然として、本感染症の収束時期を正確に見通すことが難しい状況が続いているものと考えられます。
このため、2022年3月期決算においても、本感染症に関連する事象について会計上の見積りを行うにあたっては、ASBJ議事概要(2020年4月)の考え方を踏まえて、本感染症の影響を慎重に検討する必要があると考えられます。
資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損適用指針14項)。このため、例えば、本感染症の影響に伴い、製・商品販売量の著しい減少が続くことが見込まれるような場合には、減損の兆候に該当する可能性があるため、本感染症が将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
将来キャッシュ・フローの見積りにあたっては、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることとされています(減損適用指針36項等)。このため、本感染症に関連して生じている企業の経営環境の変化や、企業が実施した工場の稼動や店舗の休止などにより、将来の業績にどのような影響が生じるかなど、依然として本感染症の正確な収束時期等は判明していないものの、本感染症が与える影響について、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積ることが必要となります。
本感染症が、企業の将来収益力にどのような影響(一時的か長期的かなどを含む。)を及ぼすか、主要な計画要因の将来変化の可能性に留意し、翌期以降の事業計画又は利益計画の見直しの要否について、検討することが必要になると考えられます。なお、繰延税金資産の回収可能性の検討にあたり、従来から(分類1)又は(分類2)と分類していた企業においては「当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない」との要件を満たすかどうかについてあらためて検討が必要と考えられます(回収可能性適用指針17項(2)、19項(2))。
また、従来(分類1)から(分類3)と分類していた企業において、本感染症の影響により、重要な税務上の欠損金が生じた場合、「臨時的な原因」によるものか否かを問わず、(分類4)の要件に該当することとなります。この場合に、回収可能性適用指針28項、29項のいわゆる反証規定を適用し、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積って繰延税金資産を計上する場合には、将来の課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する必要があります。したがって、本感染症の収束時期等について一定の仮定を置いた上で将来の課税所得の発生を見積ることが必要であり、慎重な判断が求められると考えられます。
この点、例えば、前期末においては、当期を含む3年間について一時差異等加減算前課税所得が生じるとして、回収可能性適用指針29項に従い(分類4)から(分類3)としていたところ、当期の実績では一時差異等加減算前所得がマイナスとなった場合には、一時差異等加減算前課税所得が生じることを合理的な根拠をもって説明することが困難な状況であると推察されます。したがって、このような状況で、当期にあらためて翌期以降3年間について一時差異等加減算前課税所得が生じるとして回収可能性適用指針29項の反証規定が認められるか否かについては、より慎重な検討が求められると考えられます。
2020年4月10日に公表されたASBJ議事概要(2020年4月)においては、本感染症の影響に関する一定の仮定について、重要性がある場合には追加情報としての開示が求められるとの考え方が示されていましたが、2021年2月10日に公表されたASBJ議事概要(2021年2月)において、議事概要における考え方と見積開示会計基準との関係が整理されました。その主な内容は以下のとおりです。
ASBJ議事概要(2021年2月)
2021年3月期決算においては、ASBJ議事概要(2021年2月)において示された考え方を踏まえて、本感染症の影響に関する開示が検討されていたものと考えられます。
2022年3月期決算においても、依然として、本感染症の収束時期を正確に見通すことが難しい状況が続いており、本感染症が与える影響については、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積ることが必要である点は前年度と変わらないと考えられることから、本感染症の影響に関する開示について、ASBJ議事概要(2021年2月)の考え方が引き続き参考になるものと考えられます。
なお、本感染症の影響が長期化していることから、今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、会計上の見積りについて財務諸表利用者の理解に資する情報を開示するという見積開示会計基準の開示目的に照らして、当期の見積開示会計基準に基づく開示において、当該変更の内容も含めて記載することが考えられます。
改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式を発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に株式報酬等取扱いを公表しました。
会社法202条の2に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とすることとされています。
また、現行実務において行われているいわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引については、株式を報酬として交付するという実態が類似していますが、適用されません。この点、株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行であるのに対して、いわゆる現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、いわゆる現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています(株式報酬等取扱い3項、26項)。
株式報酬等取扱いの適用対象としている取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引については、自社の株式を報酬として用いる点で、ストック・オプションと類似性があるものと考えられます。
両者は、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、ストック・オプション会計基準の定めに準じることとされています。
一方、株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されており、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点について、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています。
取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い、権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引を事前交付型と定義しています。
新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ図表15のとおりの会計処理が定められています。
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取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引を事後交付型と定義しています。
新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合をそれぞれ図表16のとおり定めています。また、株式報酬等取扱いにおける図表16の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準及び改正純資産適用指針において、「株式引受権」という科目が追加されています。
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取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、株式報酬等取扱いの開発段階においては改正会社法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることし、株式報酬等取扱いに定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準やストック・オプション適用指針に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うとすることとされています。
株式報酬等取扱いでは、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準等における注記事項を基礎とし、ストック・オプションと事前交付型、事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、次の注記項目が定められています。また、以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととされています。
ⅰ 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る。)
ⅱ 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く。)
ⅲ 付与日における公正な評価単価の見積方法
ⅳ 権利確定数の見積方法
ⅴ 条件変更の状況
1株当たり情報については、図表17のとおり定められています(株式報酬等取扱い22項)。
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改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています(株式報酬等取扱い23項)。
完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新設されました。
現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない点、また、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストが掛かるという点が指摘されていました。当該制度はこれらの指摘に対応するために新設されたものです。当該制度のイメージは図表18をご参照ください。
なお、2021年3月1日施行であり、株主総会の決議が必要となるため、2022年3月期より影響すると考えられます。
上記のとおり株式交付制度が新設されましたが、企業結合会計基準の改正はされておらず、当該制度に関する会計処理は、現行の会計基準に従って整理していくことが考えられます。この点、株式交付は、株式交換と同じ組織法上の行為として位置付けられており、現物出資ではなく、株式交換に準じて処理されるものと考えられます。
したがって、株式交付が取得とされる場合、株式交付親会社が取得する株式交付子会社株式の取得の対価は、結合分離適用指針38項に基づいて、時価により算定することが考えられます。
なお、株式交付制度は子会社化を目的とするものであり、基本的に取得に該当するものと考えられます。ただし、株式交付制度では、その範囲を客観的かつ形式的な基準により判断するために、子会社化の要件として、議決権の50%超を保有することにより子会社化する場合に限られています。このことから、議決権の40%以上を保有しており、施規3条3項2号イからホまでのいずれかの要件に該当することとしてすでに子会社としているケースで、株式交付制度を用いて50%超を保有することとなる場合には、共通支配下の取引に該当することとなります。その他、逆取得になる場合や共同支配企業の形成になる場合も想定されます。
ここで、株式交換と同様に、株式交付制度においても、支配取得の場合、共通支配下関係にある場合及びそれ以外の場合(逆取得や共同支配企業の形成等が該当)といった企業結合の類型に応じて、株主資本変動額を算定することになります(計規39条の2)。具体的には、株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ図表19の方法に従い定まる額となるとされています(同条1項)。また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています(同条2項、3項)。
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現行法上、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要でしたが、改正会社法では、株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる制度が新設されました。なお、書面での資料提供を希望する株主は、書面の交付を請求することができるものとされました。当該制度のイメージは図表20をご参照ください。
なお、当該規定は、改正会社法の公布の日(2019年12月11日)から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされていましたが、今般、会社法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令により改正の施行日が2022年9月1日と規定されました。
2021年12月13日に「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(以下「本省令」という。)が公布されました。いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度は、事業報告及び計算書類に表示すべき事項の一部については、当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3カ月が経過する日までの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し、当該ウェブサイトのURL等を株主に対して通知することにより、当該事項が株主に提供されたものとみなす制度であり、ウェブ開示をする旨の定款の定めが必要とされています。このウェブ開示によるみなし提供制度について、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、本省令の施行の日(2021年12月13日)から2023年2月28日までに招集の手続が開始される定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に限り、同制度の対象となる事項の範囲に以下の事項を加え、拡大することとされています。
なお、本省令は、2021年9月30日に失効した令和3年法務省令第1号「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」による同様の規定を延長するものです。
2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められる中、LIBORの公表が2021年12月末をもって恒久的に停止されるということになり(※)、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まりました。LIBORを参照する取引は、各企業において広範に行われており、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性が高いとされています(LIBOR取扱い1項、26項)。
このため、ASBJより、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにするために、LIBOR取扱いが公表されました(LIBOR取扱い2項)。
※米ドル建LIBORの一部のターム物ついては、公表停止時期が2023年6月末に延期されています。
LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更又は契約の切替のみが行われる金融商品を適用範囲とすることとされています(LIBOR取扱い3項)。契約条件の変更又は契約の切替の内容について、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当するか否かのそれぞれの例は、図表21のとおりです(LIBOR取扱い30項、31項)。
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また、LIBOR取扱いについては、公表日(2020年9月29日)以後適用することができるとされています。さらに、適用にあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるとされています(LIBOR取扱い23項)。
金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める金融商品会計基準等の開発時には想定していなかったと考えられます。このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、一定の条件の下で、直ちにヘッジ会計の終了又は中止をせずにヘッジ会計の継続を適用することができる等の特例的な取扱いを定めることとしたとされています(LIBOR取扱い34項)。金利指標改革に起因するLIBORの置換のイメージは、図表22のとおりです。
LIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品について、当該取扱いを適用した場合における具体的な会計処理は、図表23のとおりとなります。
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また、報告日時点においてLIBOR取扱いを適用することを選択した企業は、LIBOR取扱いを適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記するとされています(LIBOR取扱い20項)。
なお、LIBOR取扱いを一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記するとされています。また、連結財務諸表において前述の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(LIBOR取扱い20項)。
2020年公表のLIBOR取扱いでは、その公表時には金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとされていました。これを踏まえ、改正LIBOR取扱いが2022年3月17日にASBJより公表されました。
公表日以後適用することができるとされています。
2020年公表のLIBOR取扱いにおいて、例えば、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関するLIBOR取扱いの特例的な取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができるとされていました(Q14及びQ15参照)。
しかし、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が 2023年6月末に延期され、これにより、LIBOR取扱いにおける金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建LIBORの公表停止時期より先に終了することとなりました。
また、米ドル以外の通貨建てのLIBOR に関する不確実性が完全になくなったということでもないと考えられることから、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に 2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されています。
この適用期間の延長は、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)の場合のほか、包括ヘッジ、金利スワップの特例処理、及び為替予約等の振当処理の適用を金利指標置換時以後も継続することができるとされている取扱いにおいても同様となります。
金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針178項の⑤(※)以外の要件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることを明確化しています。
なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における振当処理にも同様に適用することができるとされています。
※金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること)
金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されても、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、金利指標置換以後の期間において金融商品実務指針178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が改正LIBOR取扱い19項の適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理が適用できなくなる場合が想定されます。
このため、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024年3月31 日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができるとされています。
また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が改正LIBOR取扱い19項の適用期間内に行われることが必要となります。
なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができるとされています。
税効果適用指針44項では、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています。 このため、税効果適用指針44項の定めに基づけば、2022年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業は、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要があります。しかし、グループ通算制度を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことについて、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたため、ASBJでは、必要と考えられる取扱いを検討し、実務対応報告第39号を公表したとされています(実務対応報告第39号7項)。ここで、Q17にも記載のとおり、ASBJより、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを明らかにする実務対応報告第42号が2021年8月12日に公表されており、実務対応報告第42号については、2022年3月31日以後早期適用することができます。このため、2021年3月期において実務対応報告第39号を適用しており、実務対応報告第42号を早期適用しない場合には、2022年3月期においても実務対応報告39号を適用することになります。
現行の連結納税制度は、企業グループ全体を一つの納税主体とする制度であり、各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されています。しかし、連結納税制度については、損益通算等により、単体納税に比べて連結グループ全体の法人税額が減少するというメリットがある一方、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットが生じていました。
この点、グループ通算制度は、損益通算等のメリットを残しつつ、親法人及び各子法人が法人税の申告を行う個別申告方式となっています。また、原則として修更正による他の法人への影響が遮断される措置がとられています。グループ通算制度の概要は図表24のとおりです。
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連結納税制度とグループ通算制度では、個別申告方式か否かといった申告手続は異なるものの、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、実務対応報告第42号は、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示(例えば、投資簿価修正の算定方法が改正され、連結納税制度とグループ通算制度における投資簿価修正額が異なることで繰延税金資産又は繰越税金負債の金額に影響がある場合等)を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲するという基本的な方針により開発されています(実務対応報告第42号40項)。
したがって、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる税務上の影響であると考えられます。
また、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられ、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を一つに束ねた単位」に対して税効果会計を適用することとされています(実務対応報告第42号46項、47項)。
適用時期については、図表25のとおりです。
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なお、2022年4月1日から単体納税制度からグループ通算制度に移行する会社では、直前の事業年度である2022年3月期の税金計算上、一定の要件を満たす場合、グループ通算制度開始に伴う時価評価損益に課税が行われます。したがって、当該時価評価に伴う一時差異は2022年3月期に生じており、実務対応報告第42号を早期適用するかどうかにかかわらず、当該一時差異に対して税効果会計を適用することになります。ただし、実務対応報告第42号を早期適用しない場合、当該時価評価に伴い計上された繰延税金資産について、2022年3月期においては、単体納税制度を前提として回収可能性の判断を行うものと考えられます。
また、連結納税制度からグループ通算制度へ移行する場合には、承認申請や届出は不要とされており、自動的に2022年4月1日以後開始事業年度からグループ通算制度に移行することになり、その場合には、経過措置により、グループ通算制度の開始に伴う取扱い(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入、損益通算の制限)は適用されないことから、時価評価等に関する移行時の影響はないと考えられます。
実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとされています(実務対応報告第42号3項本文)。
なお、実務対応報告第42号は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含めて取り扱わないこととされています(実務対応報告第42号3項なお書き)。
このため、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示について、具体的な定めは存在しないことから、過年度遡及会計基準4-3項に定める「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当することになると考えられるとされています(実務対応報告第42号38項)。したがって、企業として適切な会計処理を検討した上で、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すという開示目的に沿って、当該事項を注記する必要があるか検討することになります(過年度遡及会計基準4-2項)。
個別財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断については、実務対応報告第42号に定めのあるものを除き、回収可能性適用指針6項から34項の定めに従うことになります(実務対応報告第42号10項)。
グループ通算制度を適用する場合の個別財務諸表上の繰延税金資産の回収可能性に関しては、連結納税制度における取扱いが踏襲されており、回収可能性の判断にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
グループ通算制度の対象となるのは法人税及び地方法人税であり、住民税及び事業税はグループ通算制度の対象ではありません。このため、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税とでは、税効果会計における取扱いが異なるため、これらを区別して税効果会計を適用する必要があります(実務対応報告第42号8項)。すなわち、税金の種類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があり、また、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率についても、税金の種類ごとに算定する必要があります(実務対応報告第42号9項)。
繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順は、基本的には単体納税制度における手順(回収可能性適用指針11項)と同様ですが、通算税効果額の影響を考慮する必要があります。すなわち、将来加算一時差異の解消見込額と相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、まず、通算会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得の見積額と解消見込年度ごとに相殺し、その後に、損益通算による益金算入見積額(当該年度の一時差異等加減算前通算前所得の見積額がマイナスの場合には、マイナスの見積額に充当後)と解消見込年度ごとに相殺することになります(実務対応報告第42号11項(1))。
以下の設例において、S1社については、一時差異等加減算前通算前所得の見積額が△350であり、S1社単独の一時差異等加減算前通算前所得では将来減算一時差異100と相殺することができません。しかし、S1社の通算前所得△450が損益通算によりP社及びS2社に配分されるとともに、S1社では損益通算による益金算入450が見込まれます。損益通算による益金算入見積額450について、S1社の一時差異等加減算前通算前所得の見積額△350に充当した後の残高100により、将来減算一時差異と相殺することが可能であるため、S1社の個別財務諸表において、将来減算一時差異100は回収可能であると判断されることになります。
設例
回収可能性を判断する際の企業の分類については、単体納税制度における考え方(回収可能性適用指針15項から32項)が基礎となりますが、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を 一つに束ねた単位(通算グループ全体)の分類」と「通算会社の分類」をそれぞれ判定し、「いずれか上位の分類」に応じて将来減算一時差異に係る回収可能性の判断を行うことになります(実務対応報告第42号13項(1)、(2))。 「通算会社の分類」の判定は、従来の単体納税制度における分類の判定と同様ですが、損益通算や欠損金の通算を考慮せず、自社の通算前所得又は通算前欠損金に基づいて判定する点に留意が必要です(実務対応報告第42号13項(1))。一方、「通算グループ全体の分類」の判定においては、「一時差異等」や「課税所得」、「税務上の欠損金」、「一時差異等加減算前課税所得」等の通算会社ごとに生じる項目は、その合計が通算グループ全体で生じるものとして取り扱い、企業の分類の判定を行うことになります(実務対応報告第42号17項)。 なお、「通算グループ全体の分類」と「通算会社の分類」のいずれか上位の分類に応じて回収可能性を判断する取扱いは、あくまで、グループ通算制度の対象となる法人税及び地方法人税に係る部分についてのみである点に留意が必要です。 以上をまとめると、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類は、図表26のとおりとなります。
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グループ通算制度には、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」の2種類の繰越欠損金があります。
「特定繰越欠損金」は、単体納税時に発生した繰越欠損金のうち、グループ通算制度の開始時や新規加入時において、一定の要件を満たす場合にグループ通算制度に持ち込むことが認められたものをいい、自社の所得に対してのみ控除可能です。一方、「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」は、グループ通算制度開始後に生じた繰越欠損金であり、通算グループ内の他の法人の所得金額から控除可能です。なお、経過措置として、連結納税制度からグループ通算制度に移行する法人における非特定連結欠損金は、グループ通算制度において「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」として、通算グループ内で控除することができます。
これらの繰越欠損金は以下の順序で控除されます。
① 発生年度の古い順に控除
② 同じ発生年度の「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」がある場合は、特定繰越欠損金を先に控除
税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断に関しても、連結納税制度における取扱いが踏襲されており(実務対応報告第42号51項)、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」ごとに、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づき、税務上の繰越欠損金の控除見込年度ごとに損金算入限度額計算及び翌期繰越欠損金額の算定手続に従って損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上することとされています(実務対応報告第42号12項)。
特定繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、税務上認められる繰戻・繰越期間内における当該通算会社の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)と通算グループ全体の課税所得の見積額の合計(税務上の繰越欠損金控除前)のうち、いずれか小さい額を限度に、当該各事業年度における特定繰越欠損金の繰越控除額を見積ることにより判断します(実務対応報告第42号[設例3]2(*1)参照)。
回収可能性の判断において、「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」については通算グループ全体の分類に応じた判断を行うこととされており、「特定繰越欠損金」については、損金算入限度額計算における課税所得ごとに、通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、通算会社の課税所得は通算会社の分類に応じた判断を行うこととされています(実務対応報告第42号13項(3))。
グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行いますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。このため、連結納税制度における取扱いを踏襲し、連結財務諸表においては、通算グループ全体(通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を一つに束ねた単位)に対して、税効果会計を適用することとされており(実務対応報告第42号47項)、連結財務諸表における繰延税金資産は、通算会社の個別財務諸表における計上額を単に合計したものではなく、通算グループ全体として、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順に基づき計上する必要があります。 通算グループ全体について、繰延税金資産の回収可能性の判断を行うにあたっては、回収可能性適用指針11項の、「将来減算一時差異」は「通算グループ全体の将来減算一時差異の合計」と、「将来加算一時差異」は「通算グループ全体の将来加算一時差異の合計」と、「一時差異等加減算前課税所得の見積額」は「通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計」と読み替えた上で、回収可能性の判断を行うこととされています(実務対応報告第42号15項)。 具体的には、Q18 設例であれば、通算グループ全体の将来減算一時差異900に対して、通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計が900のため、全額が回収可能と判断されます。
なお、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」とに分けて、損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する点は、個別財務諸表上の取扱いと同様です(実務対応報告第42号16項)。
また、通算グループ全体について回収可能性があると判断された繰延税金資産の金額と、各通算会社の個別財務諸表において計上された繰延税金資産の合計額との差額については、連結上修正することとなります(実務対応報告第42号14項)。例えば、「通算グループ全体の分類」よりも「通算会社の分類」の方が上位であるため、個別財務諸表において「通算会社の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行っている場合、連結財務諸表上は「通算グループ全体の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことから、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額が生じ、連結財務諸表上修正(個別財務諸表で計上された繰延税金資産の一部取崩し)が必要となる可能性があります。
令和4年度の税制改正の大綱が2021年12月24日に閣議決定されています。この税制改正大綱では、積極的な賃上げを促すための措置やオープンイノベーション促進税制の拡充などが織り込まれています。また、グループ通算制度における投資簿価修正についても見直しがなされており、その内容について以下のとおりです。
グループ通算制度における投資簿価修正について、一部の取引に関しては売却した際に多額の課税がなされると指摘されていた制度の改善が図られています。
連結納税制度では、連結子法人株式について譲渡を行うなどの事由が生ずることとなった場合において、その連結子法人の株式につきその連結子法人の連結納税適用期間中の連結個別利益積立金額又は利益積立金額の増加額又は減少額に相当する一定の金額の帳簿価額の修正を行うとされていました。
一方、グループ通算制度における投資簿価修正は、税務上の簿価純資産額過不足額を加算又は減算することとされており、離脱時の株式の帳簿価額は投資簿価修正により税務上の簿価純資産額となります。
ここで、従来の連結納税制度では、買収プレミアム込みで株式を取得している場合には、当該買収プレミアム相当も含めて投資簿価修正後の税務上の簿価が算定されていたのに対し、グループ通算制度において投資簿価修正が算定される税務上の簿価純資産価額には、買収プレミアムは含まれないことになります。このため、このような取引については、外部へ譲渡した際に多額の課税がなされる可能性があり、この点が制度上の課題として指摘されていました。
上記のような多額の課税が生じるようなケースに対応するために、令和4年度税制改正大綱において、以下のような見直しが図られています。
通算子法人の離脱時にその通算子法人の株式を有する各通算法人が、離脱時の子法人株式の帳簿価額とされる通算子法人の簿価純資産価額に「資産調整勘定等対応金額(非適格合併における資産調整勘定に類似するもの)」を加算できるとする措置が講じられています。なお、「資産調整勘定等対応金額」とは、その通算子法人株式の通算開始・加入前取得価額(買収対価)を合併対価としてその取得時にその通算子法人を被合併法人とする非適格合併を行うものとした場合に、資産調整勘定又は差額負債調整勘定として計算される金額に対応する金額とされています。イメージは図表27をご参照ください。
また、当該措置を適用するための要件や対象法人は図表28のとおりです。
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当該見直しが2022年4月1日から適用される場合には、グループ通算制度の適用開始時期と同時であるため、見直し前の制度は実質的に適用されなかったことになり、連結納税制度からグループ通算制度へ移行する場合で、かつ、当該措置の適用対象となる場合には、基本的に連結納税制度との相違はなくなると考えられるため、移行による税効果会計への影響はないものと考えられます。ただし、買収時期が古い場合や段階取得した場合など、資産調整勘定等対応金額の算定が困難な状況も考えられるため、適用要件を満たすかどうかは予め検討しておく必要があると考えられます。
なお、当該見直しに係る税法改正が期末日までに国会で成立しない場合で、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」を適用していない場合には、見直し前の制度に基づくことになり、「資産調整勘定等対応金額」だけ、一時差異が増減することになるため、通算子法人株式の売却等の意思決定を行った場合等には、税効果へ影響が生じることが考えられます。
令和3年度税制改正により、コロナ禍で厳しい経営環境にある企業が果敢に抜本的な企業変革に取り組むことができるよう、新規事業・新しい製品を開発し、市場に出していく、積極的な投資を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例が設けられました。
繰越欠損金の繰越控除限度額は、原則として、欠損金の繰越控除前の所得の50%相当額となりますが、産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けた場合には、2年間にわたって生じた欠損金額を、翌期以降、最大で5年間、適格投資の範囲内で繰越欠損金の100%繰越控除をすることができる特例が創設されました。そして、当該特例の適用に対応するために、産業競争力強化法が改正され、2021年8月2日に施行されています。したがって、それ以降、事業適応計画の認定を受けることで適用可能となりました。
なお、対象となる投資は、「単純な維持・更新投資は対象外」とあることから、新規事業・新しい製品を開発し、市場に出していく、積極的な投資に限られます。
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事業適応計画の認定を受けた企業は、投資に応じ繰越欠損金の控除限度額が増加するため、繰越欠損金の解消スケジュールが変更され、繰延税金資産の計上額に影響が生じることになります。
そして、今回の繰越欠損金の控除上限の特例は、将来の適格投資の金額により控除上限が変動することになるため、繰越欠損金の解消スケジュールを見積るに際しては、将来の適格投資の見積りが必要になる点に注意が必要となります。
なお、本特例は、企業が産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けたことによって初めて、将来の特例対象投資の範囲内で繰越欠損金の控除上限の特例を受けることが可能となることから、認定という事実が生じたことをもって見積りに織り込むものと考えられます。このため、期末日までに事業適応計画の認定がなされた場合には、その事実をもって、当該特例の影響を繰越欠損金の解消スケジュールに考慮させることができると考えられますが、期末日後に認定を受けた場合には、たとえ期末日時点で申請済であったとしても、期末日後の認定を修正後発事象として取り扱うことにはならないと考えられます。
記述情報を中心とした非財務情報の開示に関連し、2019年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が公布・施行され、有価証券報告書等の記載内容の見直しが、2020年3月期の有価証券報告書までに原則適用されています。また、2021年3月期においても、非財務情報に関連する改正として、KAMの導入による監査報告書の透明化や、見積開示会計基準が適用されています。2020年3月期までに改正された有価証券報告書の非財務情報の項目は図表29のとおりです。
この記述情報の開示充実に向けた取組みは継続しており、有価証券報告書では記述情報の開示の原則に基づき、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」や「事業等のリスク」などにおいてサステナビリティ情報に関する開示も増加しています。また、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードの改訂等も背景として「サステナビリティ情報」の開示の充実が期待されており、また、2022年3月期から監基報720の改正が適用されることから、その開示の充実がより一層期待されています。
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非財務情報の開示の重要性は高まっており、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は、経営戦略の開示にあたって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべき、また、プライム市場上場会社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく気候変動に関する開示の質と量の充実を進めるべき、と定められています。
この改訂に対応したコーポレートガバナンス報告書は2021年12月末日までを期限として提出され、また、プライム市場のみを対象とする原則については2022年4月4日から適用されるため、同日以降に開催される定時株主総会後が提出期限となっています。
さらに、金融庁では2021年6月25日に開催された金融審議会において、企業情報開示の在り方に関する検討について、審議を開始し、主な検討事項の一つとして、サステナビリティに関する開示(気候変動対応、人的資本への投資等)を取り上げています。
また、IFRS財団は、国際的なサステナビリティ開示基準の開発を目的とする「国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standard Board; ISSB)」を設置することを2021年11月に公表しました。このような状況から、2021年12月、公益財団法人財務会計基準機構は、国内のサステナビリティ開示基準の開発等を目的として、「サステナビリティ基準委員会(Sustainability Standard Board of Japan; SSBJ)」を2022年7月に設立することを決議しており、今後日本においてもサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進むことになります。
金融庁は、2019年より、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため、「記述情報の開示の好事例集」を公表しています。2020年11月に公表された「記述情報の開示の好事例集2020」(2021年3月最終更新)においては、記述情報に関する有価証券報告書等の主要項目に関する開示例に加え、個別事項として、「新型コロナウイルス感染症」及び「ESG」に関する好開示例を紹介しています。 この継続的な取組みの一環として、近年、社会的な関心が高まっている項目である「サステナビリティ情報」に関する開示についても好事例を取りまとめ、2021年12月21日に、「記述情報の開示の好事例集2021」が公表されています。この好事例集では、「サステナビリティ情報」に関連し、「気候変動関連」及び「経営・人的資本・多様性等」の開示例を、好事例として着目したポイントを示した上で紹介しています。
企業内容等に関する情報の開示について、経営者による財務諸表以外の情報の開示の充実が進んでおり、当該情報に対する監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要性が高まっていることを背景に、2021年1月14日に、監基報720の改正が公表されています。
改正後の監基報720では、「その他の記載内容」について、監査人の手続が明確化され(図表30参照)、また、監査報告書において「その他の記載内容」について記載することとなりました。「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容をいい、通常、財務諸表及びその監査報告書を除く、企業の年次報告書(計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書や、有価証券報告書等)に含まれる財務情報や非財務情報となります(監基報720第11項(1))。
改正後の監基報720は、2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る監査から原則適用されます。
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対象となる「その他の記載内容」は、有価証券報告書を例とした図表31のように、多岐の項目にわたります。特に、記述情報を中心とした非財務情報の開示の重要性は高まっており、また、「サステナビリティ情報」に対する社会的な関心の高まりから、2022年3月期の有価証券報告書の非財務情報はより充実した開示がされることが想定されます。
今回の監基報720の改正により、監査人においては、例えば、気候変動がもたらす財政状態への影響を含む記述がされる場合、開示される財務諸表又は会計上の見積りの監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討がされることになります。
非財務情報の開示がより充実されるとともに、会計上の見積りとも関連する複雑で高度な情報が開示されることも見込まれる中、非財務情報の開示を適切に行うためには、事前に監査人との密接な連携を行うことがより重要になると考えられます。