実務対応報告公開草案第68号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」等のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 森 さやか

<企業会計基準委員会が2024年1月24日に公表>

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2024年1月24日に、実務対応報告公開草案第68号(実務対応報告第44号の改正案)「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」(以下「本公開草案」という。)を公表しました。




本公開草案のポイント

2021年10月に経済協力開発機構(OECD)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において合意が行われたグローバル・ミニマム課税のルールには、所得合算ルール(Income Inclusion Rule(IIR))、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule(UTPR))及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax(QDMTT))があります。令和5年度税制改正において、このうちの所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが2023年3月28日に成立した改正法人税法において定められたことに対応して、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いについて2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「2023年実務対応報告」という)が公表されています。

我が国ではグローバル・ミニマム課税制度を導入するための法人税法の改正は数年にわたって行われる予定であり、令和6年度の税制改正において所得合算ルール(IIR)に係る取扱いの見直しが予定されています。また、軽課税所得ルール(UTPR)に係る取扱い及び国内ミニマム課税(QDMTT)に係る取扱いについては今後の税制改正での法制化が予定されているものの、国際会計基準審議会(IASB)が2023年5月に公表した「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(修正IAS第12号)」では、所得合算ルール(IIR)のみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)も含めて、税効果を認識しないこととされています。

このため、所得合算ルール(IIR)のみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、ASBJにおいて実務対応報告第44号の改正の検討が行われ、本公開草案が公表されました。

本公開草案等に対しては、2024年2月26日(月)までコメントが募集されています。

Ⅰ. 本公開草案の概要

1. 会計処理(本公開草案第3項、第3-2項、第9~13項)


ASBJが本公開草案の適用を終了するまでの間、連結会計年度及び事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないものとし、この取扱いは四半期連結決算及び四半期決算並びに中間連結決算及び中間決算においても適用することが提案されています。

また、ここに至った次の考え方を結論の背景において示すことが提案されています。

① 2023年実務対応報告では、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の会計処理について、明らかではないと考えられる点があること、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いについては、実務上の負担も想定されるとしていた。軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)もグローバル・ミニマム課税を構成するルールであることから、こうした状況は変わらないものと考えられる。

② IASBが2023年5月に公表した修正IAS第12号では、IAS第12号の要求事項からの一時的な例外として、第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債について、企業は認識することもそれらに関する情報を開示することもしてはならないとしており、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いのみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)も含めて、第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しないこととしている。さらに、IASBは、修正IAS第12号における一時的な例外をどれだけ長く残すのかは定めないことを決定している。このため、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことで、当該取扱いが現時点の国際的な会計基準における取扱いと整合することになる。


2. 開示(本公開草案第16項)

企業がグローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるとの意見に配慮し、2023年実務対応報告における取扱いと同様、グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業において本公開草案を適用した旨の注記を求めないこととすることが提案されています。
 

3. 適用時期等(本公開草案第4項、第4-2項)

2024年に改正される本公開草案の定めは、公表日以後適用するとされています。
(なお、令和6年度の税制改正において所得合算ルール(IIR)に係る取扱いの見直しが行われる予定であることを踏まえて、2024年3月31日までに実務対応報告を改正することが想定されています。)




Ⅱ. 本公開草案に対するコメント

本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。

[質問1]
本公開草案は、所得合算ルール(IIR)のみならず、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用に当たっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマル課税制度の影響を反映しないこととする当面の取扱いを継続することを提案している。この提案に同意するか否か。同意しない場合はその理由。

    [質問2]
    その他




    なお、本稿は本改正案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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