会社法(平成26年改正) 第2回:平成26年会社法改正の概要(2)

2016年4月13日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 武澤 玲子

4. 改正の概要②(親子会社に関する規律等の整備及びその他)

親子会社に関する規律等の整備を図るために、改正された主なポイントは以下のとおりです。

(1) 多重代表訴訟制度

完全親会社株主は、完全子会社の取締役等に対して責任追及の訴えを提起することができるようになりました(会847条の3第1項、第7項)。従来は、株主の会社に対する訴えの提起は、自社の株主が会社に対して訴えを提起する株主代表訴訟(会847条第1項)があるだけでしたが、改正後は、親会社の株主が子会社の取締役等に対して訴えを提起することができるようになります。

(2) 組織再編の差止請求の拡充

従来は、株主による組織再編の差止請求は、略式組織再編についてのみ定められていましたが、略式組織再編以外の組織再編については、差止請求の定めはありませんでした。しかし、改正により、略式組織再編以外の組織再編についても、株主による事前の差止請求ができるようになりました(会784条の2、796条の2、805条の2)。差止請求するためには、組織再編が法令若しくは定款に違反し、かつ、株主が不利益を受けるおそれがあることが要件とされています。

(3) 詐害的会社分割における債権者保護

分割会社が、承継会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるようになりました(会759条第4項、761条第4項)。これは、承継会社に債務の履行を請求できる債権者と請求できない債権者を恣意的に選別した上で、承継会社に優良事業や資産を承継させるといった会社分割が行われた場合に、残存債権者を保護するための規定です。

詐害的会社分割における債権者保護

(4) 親会社による子会社の株式等の譲渡

子会社株式等の全部または一部を譲渡した結果、①譲渡対象となる株式等の帳簿価額が譲渡会社の5分の1を超え、②譲渡の効力発生日において、子会社の過半数の議決権を失うこととなる場合には、株主総会の特別決議による承認が必要となりました(会467条2の2)。親会社が、子会社株式等を譲渡することにより、当該子会社の事業に対する支配を失う場合には、事業譲渡と実質的に変わらない影響があることから、事業譲渡に関する定め(467条)と同様に株主総会の決議を求めたものです。

(5) 特別支配株主による株式売渡請求(キャッシュ・アウト)

株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を直接又は間接に保有する株主(特別支配株主)が、当該株式会社の株主の全員に対し、その有する株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求(キャッシュ・アウト)できるようになりました(会179条第1項)。

特別支配株主による株式売渡請求(キャッシュ・アウト)

従来も、全部取得条項付株式の取得や端株の買取請求等を利用して、キャッシュ・アウトを行うことができましたが、手続きとして株主総会の特別決議が求められているため、キャッシュ・アウトを完了するまで長期間を要し、時間的・手続的コストがかかっていました。そこで、このような時間的・手続的コストを軽減するため、改正により新たに特別支配株主による株式売渡請求の制度が設けられました。

一方で、非支配株主保護の観点から、全部取得条項付株式の取得差止請求(会171条の3)、株式の併合により端数となる株式について公正な価格での買取請求(会182条の4)や株式併合の差止請求(会182条の3)、そして、これらの事前や事後の開示(会171条の2、173条の2、会182条の2、会182条の6)等の改正が行われています。

(6) 内部統制システムに関する改正

「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正」を確保するための体制の整備を、従来は会社法施行規則で定めていましたが、改正により会社法においても規定されています(会362条第4項6号)。
一方で、会社法施行規則では、グループ内部統制に関して、追加で子会社に関する事項を具体的に定めています。また、監査役監査の実効性確保の点から、監査役の監査体制に関する事項も追加で定めています。
その上で、内部統制システムの運用状況の概要を事業報告へ記載することが求められています。すなわち、内部統制システムの基本方針の決議の内容の概要に加え、「当該体制の運用状況の概要」を事業報告の内容として開示することが求められています(施規118条2号)。

(7) その他の主な改正

①web開示の拡大
株主総会参考書類、事業報告の一定事項や連結計算書類等の株主総会の招集に際して提供すべき書類について、書面による提供の代わりにインターネット上のホームページに掲載するWeb開示(施規94条、133条第3項等)を行っている場合、そのみなし提供の対象となる計算書類に株主資本等変動計算書が追加されました(計規133条第4項)。

②責任限定契約の見直し
責任限定契約が締結できる役員の範囲は、従来は社外取締役、会計参与、社外監査役、会計監査人でしたが、社外の要件がなくなり、業務執行取締役以外の取締役、会計参与、監査役、会計監査人となりました(会427条)。

③支配株主の異動を伴う募集株式の発行
公開会社(株式に譲渡制限を定めていない会社)において、支配株主の異動を伴う募集株式の発行等について、通知または公告を行い、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対する旨の通知を会社にしたときは、株主総会の普通決議を経なければならないとされました(会206条の2)。

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