EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保慎悟
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格(いわゆる出口価格)をいいます(時価算定会計基準第5項)。
なお、時価の算定にあたって用いる主要な市場または最も有利な市場における価格は、取得または売却に要する付随費用について調整しませんが、所在地が資産の特性である場合には、当該資産を現在の所在地から当該市場に移動させるために生じる輸送費用について調整します(時価算定適用指針第4項(5))。
「市場参加者」とは、資産または負債に関する主要な市場または最も有利な市場において、以下の要件のすべてを満たす買手および売手をいいます。
「秩序ある取引」とは、資産または負債の取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように、時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいいます。例えば、強制された清算取引や投売りなど他から強制された取引は、秩序ある取引には該当しません。
「主要な市場」とは、資産または負債についての取引の数量および頻度が最も大きい市場をいいます。「最も有利な市場」とは、取得または売却に要する付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化または負債の移転に対する支払額を最小化できる市場をいいます。
資産を売却するまたは負債を移転する取引は、企業が算定日において利用できる主要な市場で行われるものと仮定します。ただし、主要な市場が存在しない場合には、企業が算定日において利用できる最も有利な市場で行われるものと仮定します。なお、反証できる場合を除き、企業が取引を通常行っている市場が、主要な市場または最も有利な市場と推定されます。
卸売業を営む甲商社は、保有する鉱石(トレーディング目的で保有する棚卸資産)について、市場Xと市場Y(いずれも活発な市場)においてそれぞれ売却している(当該鉱石の決算日における価格は各市場において入手可能)。
<前提条件>
市場X
売却価格:50百万円
付随費用:5百万円
市場Y
売却価格:48百万円
付随費用:2百万円
市場Xが主要な市場(取引の数量および頻度が最も大きい市場)であると判断された場合、保有する鉱石の時価は、市場Xでの売却により受け取ることになる価格である50百万円(付随費用は調整しない)となります。一方で、市場Yが主要な市場であると判断された場合には、48百万円となります。
仮に、いずれの市場も主要な市場でないと判断された場合には、企業にとって最も有利な市場、すなわち、受け取ることができる代金(付随費用を考慮)が46百万円(=売却価格48百万円-付随費用2百万円)となり、市場Xでの受け取ることができる代金45百万円(=売却価格50百万円-付随費用5百万円)より大きくなる市場Yにおける時価48百万円となります。
時価算定会計基準は、定義する時価について以下のとおり基本的な考え方を示しています(時価算定会計基準第31項)。
<前提条件>
<X社にとって当初認識時の時価>
X社にとっては、金利スワップを締結したリテール市場が当該金利スワップの主要な市場となる。したがって、X社における当該金利スワップの当初認識時の時価は、X社がリテール市場で金融機関を取引相手先として当該金利スワップの移転により受け取るかまたは支払う価格(出口価格)となる。したがって、X社にとっての当初認識時の時価は、取引価格のゼロである。
<Y社にとっての当初認識時の時価>
Y社にとっては、ディーラー市場が金利スワップの主要な市場となると判断した。したがって、Y社にとっての当初認識時の時価は、Y社がディーラー市場で金融機関を取引相手先として当該金利スワップの移転により受け取るかまたは支払う価格(出口価格)となる。このため、リテール市場で行われた当該金利スワップの取引価格はゼロであるが、これは必ずしもY社にとっての当初認識時の時価を表しているとは限らず、当初認識時の時価は取引価格と異なる可能性がある。
資産または負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産または負債に適用される会計処理または開示によりますが、金融商品については、通常、個々の金融商品が時価の算定の対象となります。
ただし、以下の要件のすべてを満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)または特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産および金融負債を相殺した後の正味の資産または負債を基礎として、当該金融資産および金融負債のグループを単位とした時価を算定することができます。なお、この取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する必要があります(時価算定会計基準第6項、第7項、第32項)。
取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断した場合には、当該価格を時価の算定に用いることができます。当該判断にあたっては、例えば、以下のような手続を実施することが考えられます。なお、これらの手続はあくまでも例示であり、状況に応じて選択して実施することになります。また、これら以外の手続によることも考えられます(時価算定適用指針第18項、第43項)。
時価の算定に関する会計基準