役員報酬の開示分析 第1回:役員報酬の種類

2017年12月13日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 鈴木 真策

Question 

会社が導入している役員報酬の種類(スキーム)が知りたい。

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:平成29年9月
  • 調査対象期間:平成29年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:平成29年4月1日現在の日経株価指数300に採用されている会社及び東証マザーズに上場している会社のうち、以下の条件に該当する266社
    ① 3月31日決算
    ② 日本基準を採用

分析に際して母集団を日経株価指数300に採用されている会社と、東証マザーズに上場している会社の2つの上場区分に分類している。
その理由は、会社の規模、成長度及び株主数、株主構成により、適切な役員報酬の在り方が異なり得るためである。このように、特徴の異なる2つの区分で分析を行うことで、役員報酬の状況を、より適切に分析することを意図している。

なお、上記区分における分析対象会社は、日経株価指数300に採用されている会社(以下、「日経300採用会社」という)が186社、東証マザーズ上場会社(以下、「マザーズ上場会社」という)が80社、合計で266社となった。

【調査結果】

<日経300採用会社が導入している役員報酬スキーム>

報酬の種類
報酬の分類
報酬等の種類 会社数(※1)
金銭報酬
固定報酬
基本報酬(※2)、(※3) 184
賞与(※4) 77
退職慰労金 11
株式取得型報酬(※5) 2
業績連動報酬 業績連動報酬(※3) 19
短期業績連動報酬(※4) 56
株価連動型報酬 株価連動型ポイント制役員退職慰労金 1
株価連動報酬 2
株式報酬 株価上昇益還元型 ストック・オプション 17
フルバリュー型 株式報酬型ストック・オプション(※6) 55
株式報酬(役員向け株式交付信託) 1
業績連動型
(フルバリュー型)
業績連動型株式報酬
(役員向け株式交付信託)(※7)
21
短期業績連動型株式報酬 1
その他 その他 役員持株会(※8) 20
合計 467

(※1) 複数の報酬制度を採用している会社はそれぞれ1社とカウントしている。

(※2) 会社の業績を反映して基本報酬を決定している旨の記載をしている場合も、業績に連動して支給していると記載していない限り「基本報酬」に分類している。なお、報酬の全額を業績連動報酬としている会社は2社であった。

(※3) 基本報酬に業績連動の変動報酬が含まれている旨を記載している会社は、基本報酬と業績連動報酬にカウントしている。

(※4) 賞与のうち、業績に連動して支給するとされ、その指標も記載されているものは、短期業績連動報酬に集計している。ただし、指標が役員ごとの個別評価指標とされているものは除いている。

(※5) 報酬の一定額を自社株式の取得に充てることとする旨の記載がある会社をカウントしている。

(※6) 役員報酬等に「ストック・オプション」と記載してある会社でも、「新株予約権の状況」の記載から、権利行使価格が1円となっているものは、株式報酬型ストック・オプションとして集計している。

(※7) 役員向け株式交付信託のうち、業績に連動してポイントを付与する旨が記載してある場合は、業績連動型株式報酬に分類している。

(※8) 長期インセンティブ報酬として役員持株会に報酬の一部を拠出することを記載している会社も報酬等の種類に分類している。

<マザーズ上場会社が導入している役員報酬スキーム>

報酬の種類
報酬の分類
報酬等の種類 会社数(※1)
金銭報酬
固定報酬 基本報酬
80
賞与 6
退職慰労金 3
業績連動報酬 業績連動報酬 1
株式報酬 上昇益還元型 ストック・オプション 3
フルバリュー型 株式報酬型ストック・オプション(※2) 1
業績連動型
(フルバリュー型)
業績連動型株式報酬
(役員向け株式交付信託)(※3)
1
その他 その他 役員持株会(※4) 1
その他(※5) 2
合計
98

(※1) 複数の報酬制度を採用している会社はそれぞれ1社とカウントしている。

(※2) 役員報酬等に「ストック・オプション」と記載してある会社でも、「新株予約権の状況」の記載から、権利行使価格が1円となっているものは、株式報酬型ストック・オプションとして集計している。

(※3) 役員株式交付信託のうち、業績に連動してポイントを付与する旨が記載してある場合は、業績連動型株式報酬に分類している。

(※4) 長期インセンティブ報酬として役員持株会に報酬の一部を拠出することを記載している会社も報酬等の種類に分類している。

(※5) その他は社宅の提供を行ったものである。

(※6) マザーズ上場会社80社中、役員に有償新株予約権を付与している会社は23社であった(適時開示書類より集計)。また、ストック・オプションの付与時において未公開企業であったことから、公正な評価単価を本源的価値により見積ったため、期末における本源的価値の注記をしている会社は46社であった。

日経300採用会社では、基本報酬に加え、短期業績連動報酬や株式報酬型ストック・オプション、役員向け株式交付信託等のインセンティブ型報酬を組み合わせている会社が多数見受けられた。

一方、従来型の役員報酬である役員賞与を採用している会社も77社と多い。また、年功的な要素が強く、業績や株価との連動性が薄いことから機関投資家からの批判が大きい退職慰労金制度を採用している会社も、11社と少数ではあるが依然見受けられる。

これに対して、マザーズ上場会社では業績連動報酬、株式報酬型ストック・オプション、役員向け株式交付信託を採用していると読み取れる会社がそれぞれ1社であった。他方、株式報酬については、(※6) で示しているとおり、有償新株予約権を付与している会社は23社、ストック・オプションの付与時に未公開企業であり、付与時の校正な評価単価として付与時における本源的価値による見積りを行った会社は46社であり、マザーズ上場会社80社中ストック・オプション(有償新株予約権を含む。)を導入している会社は58社となり、導入割合は約73%と非常に高いことが分かった。

新興企業においては、付与する企業にとって現金支出を伴わない報酬としてストック・オプションが広く利用されていること、また、付与された役員にとっても上場して株価が上がれば多額のキャピタルゲインを得ることができるため、株式公開等に向けてのインセンティブとなることが要因と考えられる。

(旬刊経理情報(中央経済社) 平成29年11月1日増大号 No.1494「役員報酬の開示分析」を一部修正)

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