2021年3月期 有報開示事例分析 第10回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(事業等のリスク)

2022年2月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 須賀 勇介

Question

2021年3月決算会社の「事業等のリスク」における新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)に関連するリスクの開示状況は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年8月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

調査対象会社(203社)を対象に、「事業等のリスク」において、本感染症に関連するリスクをどのように記載しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表>のとおりである。

<図表>本感染症に関連するリスクの記載内容
記載内容(※1) 2020年3月期 2021年3月期 増減
操業の中止等の事業の停止リスク(※2) 125 133 8
受注の減少等を含む市場環境等に及ぼすリスク 102 118 16
サプライチェーンの中断リスク 39 38 -1
取引先の信用リスク 19 17 -2
資金調達リスク 9 9 0
資産価値の毀損リスク 9 9 0
追加的な債務負担リスク 4 3 -1
在宅勤務の拡大に伴う情報流出リスク 3 2 -1
その他 10 10 0
小計 186 187 1
記載なし 10 16 6
合計 196 203 7

(※1)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(※2)自然災害に関するリスクに本感染症の内容を含めて記載している場合には、「操業の中止等の事業の停止リスク」としてカウントしている。

<図表>のとおり、「事業等のリスク」に本感染症に関するリスクを記載している会社が大半の187社(92.1%)であった。このうち、当該リスクに対する対応策を「事業等のリスク」に記載している会社は154社(75.9%)であった。これらの開示状況は、2020年3月期における同様の調査結果において、当該リスクを記載している会社が186社(94.9%)であり、当該リスクに対する対応策を記載している会社が150社(76.5%)であったことと、概ね近い傾向であった。なお、2020年3月期から当該リスクを追加又は削除した会社は41社(20.2%)であり、一定程度の会社においてリスクの記載内容が更新されていた。

本感染症に関するリスクを「その他」として記載している会社のなかには、たとえば海外への渡航制限の長期化が事業展開を遅らせるリスクを記載している会社もあった。なお、業種別にみると、取引先の信用リスク、資金調達リスク、資産価値の毀損リスクについては、銀行業において記載されているケースが多く、また、追加的な債務負担リスクを記載している会社については、すべて保険業の会社であった。

一方で、当該リスクに対する対応策としては、対策本部の設置、事業継続計画(BCP)の見直し、在宅勤務体制の整備等による感染予防や拡大防止策などについて触れている事例が多かった。

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年9月20日号 No.1622「2021年3月期 「有報」分析」を一部修正)