「引当金に関する論点の整理」について 第3回

ナレッジセンター 公認会計士 福山伊吹

今回は、「引当金に関する論点の整理」における個別の引当金の検討状況を解説します。

1.検討対象となっている引当金


本論点整理では、注解18で例示されている引当金のうち貸倒引当金を除く10項目について、IAS第37号およびIAS第37号改訂案と同様の定義を採用するとした場合に負債に該当するかどうかを個別に検討しています。また、注解18では例示されていない引当金のうち、わが国の実務慣行や国際的な会計基準とのコンバージェンス等の観点から、検討の範囲に含めるべきと考えられるその他の引当金についても負債に該当するかどうかについて検討しています。これらは、以下のように区分されると考えられます。

注解18に例示されている引当金

注解18に例示されていないその他の引当金


負債に該当すると考えられる引当金

製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給付引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金

有給休暇引当金、ポイント引当金、株主優待引当金

負債に該当しないと考えられる引当金

修繕引当金、特別修繕引当金

役員退職慰労引当金(株主総会で承認が得られてないもの)

上記以外に、負債に該当する場合と負債に該当しない場合のある引当金として以下のものがあります。

  • リストラクチャリングに係る引当金
  • 訴訟損失引当金
  • 環境修復引当金
  • 「不利な契約」に係る引当金
  • 特別法上の引当金または準備金
     

2.個別の引当金についての検討


実務上影響が大きいもので今後検討が必要となる引当金や、わが国の実務では計上されてこなかった引当金について、ここでは取り上げたいと思います。

(1) 修繕引当金・特別修繕引当金

修繕引当金および特別修繕引当金はIAS第37号およびIAS第37号改訂案によると、固定資産の大規模修繕が法律上の要請に基づくか否かにかかわらず、操業停止や対象設備の廃棄をした場合には不要となることから、負債に該当しないとされています。このため、IAS第37号やIAS第37号改訂案と同様の負債の定義を用いる場合、負債に該当しないこととなり、わが国において、引当金として計上が認められなくなることと考えられます。

ただし、IAS第16号「有形固定資産」において、固定資産の取得原価のうち大規模修繕で見込まれる支出に相当する部分については、修繕までの間に減価するものとみてその期間で減価償却し、修繕時の支出はその減価の回復とみて固定資産の取得原価に加算することとされています。

すなわち、わが国における修繕引当金および特別修繕引当金による実務においては、実際の修繕が発生するまで、事前に段階的に引当金(費用)計上されますが、IAS第16号による処理を行う場合は、固定資産の取得時に取得原価に含まれる大規模修繕費部分を見積もり、修繕以外の部分は固定資産の耐用年数にわたって減価償却を行い、修繕費相当分は当該修繕のサイクル期間に応じて別個に減価償却され、費用として計上されることになります。

(2) リストラクチャリング引当金

わが国では、「構造改革費用」等さまざまな名称でリストラクチャリング関連の引当金が実務上計上されていますが、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点からは、IAS第37号改訂案における以下のガイダンス等を参考に、企業が現在の債務を負ったと認められた時点でリストラクチャリングに係る引当金を計上していくことになるものと考えられます。

IAS第37号改訂案では、リストラクチャリング費用に関する非金融負債は負債の定義を満たしたときにのみ認識されるとされ、負債は、企業が他者に対する債務の決済をほとんど免れることができないような現在の債務を必然的に伴っているとされており、以下の点に留意することとされています。

  • リストラクチャリングを実施する経営者の決定は、リストラクチャリングの実施期間中に見込まれる費用に関する他者への現在の債務を生み出さない。
  • 契約終結費用に係る負債については、契約条項に従い企業が実際に契約を終結する時点で認識する。
  • リストラクチャリングに関するその他の費用としては、雇用を継続する従業員の再教育費用、設備の統合または閉鎖の費用、新しいシステムおよび流通組織への投資等が挙げられており、企業はこれらの負債を負ったとき(一般に財またはサービスと受け取ったとき)に認識する。

(3) 有給休暇引当金

有給休暇制度は入社してから一定期間勤務することによって、従業員に対して与えられる権利です。従業員が有給休暇を消化した期間中は、企業が従業員から労働サービスを受けていないにもかかわらず、従業員が取得した日数分の給与を支払うこととなります。これは、企業は、従業員が有給休暇を取得する権利を有している部分に対して債務を負っているために行われ、国際的な会計基準では負債に該当するとされており、有給休暇引当金を計上する実務が定着してきています。

これまで、わが国においては、未消化の有給休暇を買い取る制度が定着していないということもあり、有給休暇が労働サービスの提供に対する対価(コスト)としてあまり認識されておらず、有給休暇引当金は計上されてこなかった実態があります。本論点整理では、わが国のこうした労務制度や慣行の実態を考慮しつつ、国際的な会計基準とのコンバージェンスも勘案して取り扱いを検討する必要があるとされていますが、今後、計上が求められる可能性があるということは留意が必要と考えられます。

(4) 訴訟損失引当金

IAS第37号改訂案では、当初、訴訟が開始されていれば負債が存在しているという考え方が示されていましたが、コメントを受けてのIASBの再審議において、訴訟の開始だけでは必ずしも負債が存在しているとはいえないという考え方が合意されています。

本論点整理においても、訴訟等により損害賠償を求められている状況においては、損害補償契約が前もって結ばれている場合と異なり、一般的に負債が存在しているかどうかについて不確実性があると考えられるとされています。この場合、事実関係や訴訟の進行状況、専門家の助言等を考慮して、負債が存在しているかどうかの判断に基づき、引当金の計上の要否を決定することになると考えられます。

(5) 環境修復引当金

IAS第37号改訂案では、環境へのダメージが発生した時点では、その結果を修復する現在の債務は企業に発生していませんが、新しい法律がダメージの修復を求めた場合や、推定的債務を負うような修復責任を企業が受け入れた場合には、現在の債務が発生するとされています。このため、本会計基準においても、企業が負うべき現在の債務が発生した時点で環境修復引当金を計上することになると考えられるとしています。

なお、推定的債務とは、確立されている過去の実務慣行、公表されている方針または極めて明確な最近の文書によって、企業が他者に対しある責務を受託することを表明しており、かつ、その結果、企業はこれらの責務を果たすであろうという妥当な期待を他者の側に引き起こしているような企業の行動から発生した債務をいうとされています。

【資産除去債務との違い】

資産除去債務に関する会計基準による資産除去債務の計上が求められる場合と、環境修復引当金が計上される場合の区別が問題となります。

まず、資産除去債務に関する会計基準では、資産除去債務を有形固定資産の除去にかかわるものと定義しているため、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕は対象とはなりません(資産除去債務に関する会計基準第24項)。

また、資産除去債務は資産の除去に関する法律上の義務のみでなく、それに準ずるものも対象としており、法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法律上の解釈、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法令または契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務がこれに該当するとされています(同会計基準第28項)。このため、社会的な要請により自発的に資産を除去する場合は、同会計基準の適用対象とはならないと考えられます。

しかし、有形固定資産の使用を終了する前後において、除去費用の発生の可能性が高くなった場合には、減損会計基準の対象となるほか、引当金の対象となる場合があります。

以上から、資産除去債務の会計基準の適用対象とならない場合でも、環境修復引当金の計上が求められる場合があるため留意が必要と考えられます。

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