「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」及び「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」について 第4回:本論点整理で取り上げている収益認識のモデル

2011年6月24日
カテゴリー 解説シリーズ

ナレッジセンター 公認会計士 井澤依子

V. 提案モデルの概要

1. 現行実務への影響

「I. はじめに」で記載したとおり、ASBJでは、平成22年6月にIASB及びFASBから公表されたEDについて包括的に検討を行い、今後のわが国の収益認識に関する会計基準の方向性を示した上で、広く関係者からの意見を募集することを目的として、平成23年1月に本論点整理を公表しました。

本論点整理(8項)においては、現行実務に影響を与えると考えられる点として、以下①~⑪の11項目が例示列挙されています。このうち、IASB及びFASBのED(IN25項)においても現行実務と異なる点として取り上げられているのは、①、②、⑥、⑧~⑪の7項目であり、本稿ではそのうち、一般的に重要な論点と考えられる①財又はサービスの移転からのみ収益を認識する、②複数要素契約(別個の履行義務の識別)、⑧回収可能性(信用リスク)の収益への反映、⑨取引価格の算定に当たっての見積りの使用の4項目について解説を行います。

なお、本論点整理においてのみ列挙されている項目(③~⑤、⑦)のほとんどは、現行IFRSと提案モデルに基づく取扱いにさほど大きな相違はなく、わが国の会計基準と現行IFRSとの相違による影響が大きい項目と考えられます。③総額表示と純額表示、⑤カスタマー・ロイヤルティー・プログラム、⑦返品権付きの製品の販売については、本稿第2回~第4回の解説で日本公認会計士協会の研究報告を紹介していますのでご覧ください(なお、研究報告は現行IAS18号に係る解説のため、提案モデルとは必ずしも同一ではない点についてご留意ください)。

【現行実務に影響を与える論点】

論点
内容
ED(IN25項) 研究報告の解説
①財又はサービスの移転からのみ収益を認識する
資産の製造に関する契約(例えば、建設、製造及び特別仕様のソフトウェア(工事契約))は、顧客が資産の製造に応じて当該資産を支配する場合にのみ、連続的な収益認識となる。
 
②複数要素契約(別個の履行義務の識別)
企業は、区別できる財又はサービスについて、契約を別個の履行義務に分割するよう求められるため、現行実務で識別されている会計単位とは異なる会計単位に契約を分ける場合があり得る。
 
③総額表示と純額表示(本人か代理人か) 企業は、本人として負った履行義務として識別した場合には、財又はサービスについて受け取る金額を収益認識し、代理人として負った履行義務として識別した場合には、手数料部分を収益認識することが求められる。  
④製品保証 現行実務では、製品の販売に製品保証の条件が付されている場合、販売時点で売上計上し、保証の履行による費用負担見込額を引当計上しているが、提案モデルにおいては、製品保証の目的に応じて、販売価格の一部を製品保証部分に配分するか、あるいは保証の可能性のある販売分の売上計上を繰り延べる処理が求められる。    
⑤カスタマー・ロイヤルティー・プログラム カスタマー・ロイヤルティー・プログラム(顧客に対するインセンティブを与えるためのポイントプログラムなど)を、将来の値引きを受ける権利の販売として別個の履行義務として識別し、取引価格を配分することが求められる。  
⑥ライセンス及び使用権 顧客が、ライセンスを供与された知的財産に関連するほとんど全ての権利に対する支配を獲得する場合は、実質的な売却と見なされ、ライセンス供与時に収益を認識する。実質的な売却と見なされない場合は、顧客に供与されたライセンスが独占的であれば、ライセンス期間にわたって収益を認識し、非独占的であればライセンスから便益を得ることができる時点で収益を認識する。  
⑦返品権付きの製品の販売 現行実務では、返品権付きの製品販売については、販売時に収益を計上するとともに、返品が見込まれる部分の売上総利益相当額を引当計上する処理が採られているが、提案モデルでは、返品が見込まれる部分について収益を計上せず、返金負債と返品された製品を受け取る権利を計上する処理が求められる。  
⑧回収可能性(信用リスク)の収益への反映 回収可能性(顧客の信用リスク)の影響は、取引価格に反映(収益を減額)し、企業が対価に対する無条件の権利(受取債権)を取得した後の評価の変動による影響は、収益以外の損益として認識する。  
⑨取引価格の算定に当たっての見積りの使用 取引価格の算定(例えば、変動する対価の見積り)及び独立販売価格に基づく当該取引価格の配分において、より広範に見積りの使用が求められる。  
⑩コストの会計処理 一定の要件を満たす契約の履行コストを資産として認識する一方で、契約の獲得コストを発生時の費用として認識することが求められる。  
⑪注記 財務諸表の利用者が、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を理解するのに資するため、収益認識に関する会計方針の他、契約資産(負債)に関する調整表、期末に残存する履行義務の満期分析、見積りや判断に関する情報などを含む開示の拡充が求められる。  

※ 太文字(①②⑧⑨)は、本稿において取り上げる四つの論点です。

2. 提案モデルの概要

提案モデルにおいては、収益認識は以下のとおり五つのステップで検討されるとしています。本稿において取り上げる四つの論点については、「①財又はサービスの移転からのみ収益を認識する」はStep5に、「②複数要素契約(別個の履行義務の識別)」はStep2に、「⑧回収可能性(信用リスク)の収益への反映」及び「⑨取引価格の算定に当たっての見積りの使用」はStep3に関連しています。

Step
内容

Step1:
契約の識別

  • ほとんどの場合、提案モデルを顧客との単一の契約に適用するが、契約の結合及び分割を検討すべき場合があり得る。
  • 同一の顧客との複数の契約は、契約価格が相互依存的であれば結合し、契約に含まれる一部の財又はサービスの価格が他と独立である場合は単一の契約を分割する。
Step2:
契約に含まれる別個の履行義務の識別
  • 履行義務とは、財又はサービスを顧客に移転するという当該顧客との契約における強制可能な約束である。
  • 企業が複数の財又はサービスの提供を約束する場合、当該財又はサービスが区別できる場合には、約束したそれぞれの財又はサービスを別個の履行義務として会計処理する。
  • 企業が、複数の約束した財又はサービスを同時に顧客に移転する場合において、これらの履行義務を一緒に会計処理しても、収益認識の金額と時期がこれらの履行義務を別個に会計処理したときと同じ結果になる場合は、履行義務を区別する必要はない。
Step3:
取引価格の算定
  • 取引価格とは、財又はサービスの移転と引き換えに、企業が顧客から受け取る、又は受け取ると見込まれる対価の金額であり、第三者のために回収する金額(税金など)を除く。
  • 対価の金額が変動する場合(リベート、ボーナス、ペナルティー又は顧客の信用リスクなど)、企業は、取引価格を合理的に見積ることができる場合にのみ、履行義務の充足時に収益を認識する。
  • 取引価格の算定に際して、企業は回収可能性、貨幣の時間価値、現金以外の対価及び顧客に支払われる対価の影響を考慮する。
Step4:
別個の履行義務に対する取引価格の配分
  • 企業は、契約開始時に、個々の履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格に比例して、全ての別個の履行義務に取引価格を配分する。
  • 独立販売価格が直接観察可能でない場合、企業はそれを見積る。
Step5:
履行義務の充足時に収益認識
  • 企業が顧客に約束した財又はサービスを移転することによって、顧客が財又はサービスを支配したときに、識別された履行義務を充足し、収益を認識する。

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