アパレル業界 第3回:棚卸資産

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 田代隆志/柳本高志

1. アパレル業界における棚卸資産の特徴

アパレル業界においては、アパレル品(衣料品)の他にもシューズ、バッグ、アクセサリーやジュエリーといった小物類、生活雑貨、コスメ等が棚卸資産に含まれます。また、自社工場や委託先で製造するために仕入れた、製造前の生地等の材料もあります。ここでは、主にアパレル品を想定して記載します。

アパレル業界は、基本的にはトレンドの移り変わりが早い業界だといわれています。トレンドにあまり左右されない、ベーシックな紳士用スーツに代表されるシンプルな製品や定番品等では、長期間にわたり販売するモデルもありますが、基本的には、店頭で定価販売される期間は長くても1シーズン程度のものが多い業界です。実際に製品が店頭に並ぶのは対象シーズンより早いタイミングとなるため(夏物は春先に店頭に並ぶ等)、トレンドの移り変わりがある中でも次の期の流行色やデザインを予測し、比較的早いタイミングで企画及び製造を行う必要があります。この予測を誤ると大量の売れ残り在庫を抱えるリスクがあるため、全ての製品を早いタイミングで製造してしまうわけではなく、シーズン中の売れ筋等の状況を見ながら増産調整していく場合もあります。早いタイミングで製造する場合は工場の閑散期等に合わせて製造を行うことも可能であり、加工賃等を安く抑えられることがある一方で、シーズン中は時間が限られ、生産量も少なくなるため、原価が高くなってしまう傾向があります。従って、先行して製造する分と、シーズン中に増産する分のバランスも非常に重要になり、企業ごとの戦略の巧拙が出る部分となります。

店頭での定価販売が終わった後の売れ残り在庫の処分方法も、企業によって戦略が異なります。定価販売が終わった後に店頭でのセール(クリアランスセール)が行われるのは、概ね共通ですが、その後はアウトレット、ファミリーセール、催事、福袋等の方法によって在庫処分を行うとともに、ブランドの価値が低下しないように廃棄することもあり、企業ごとに戦略の違いが出る部分です。

以上のように、一概にアパレル品といっても取り扱う商品のライフサイクルや販売方法により、投下資本の回収方法が異なるので、棚卸資産の評価を行う上でも、そのような実態を適切に表す方法を選択する必要があります。
 

2. 棚卸資産の評価方法及び評価基準

棚卸資産は、原則的には購入代価もしくは製造原価に付随費用を加算して取得原価とし、個別法・先入先出法(FIFO)・平均原価法・売価還元法のいずれかの評価方法により、売上原価等の払出原価と期末棚卸資産の価額を算出します(棚卸資産の評価に関する会計基準第6-2項)。

① 個別法

取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法であり、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法です。

② 先入先出法(FIFO)

最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして、期末棚卸資産の価額を算定する方法です。

③ 平均原価法

取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法であり、総平均法又は移動平均法によって算出します。

④ 売価還元法

値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法であり、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用されます。


棚卸資産の評価方法においては、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及び、その使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければならないとされています(棚卸資産の評価に関する会計基準第6-3項)。アパレル業界においても、1で記載した棚卸資産の特徴や、企業ごとの特徴を踏まえた上で決定する必要があります。

決算時の正味売却価額が取得価額を下回る場合には、取得価額に代わり正味売却価額をもって貸借対照表価額とします(棚卸資産の評価に関する会計基準第7項)。

正味売却価額について原則的には売却市場における市場価格とされていますが、市場価格が観察できない場合は、期末前後での販売実績に基づく価額等、合理的に算定された価額を用いることとされています(棚卸資産の評価に関する会計基準第8項)。

アパレル品には客観的に観察可能な市場価格というものはありませんが、店頭で販売中の製品については直近の売上実績があるため、期末前後での販売実績に基づく価額を用いることが考えられます。

一方で、すでに店頭での販売期間を終えている製品もあり、それらについては直近の販売実績がなく、販売実績を基礎とした合理的な価額を算定することは難しいといえます。従って、営業循環過程から外れた滞留品等について合理的に算定された価額によることが困難な場合は、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)まで切り下げる方法、もしくは一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法を採用することが考えられます(棚卸資産の評価に関する会計基準第9項)。

この規則的に帳簿価額を切り下げる方法の場合は、企業の実態を表すように過去の実績を分析してルールを策定する等、合理的に策定された方法によることが重要な点です。

アパレル業界では、店頭で定価販売している時点では、販売実績に基づく価額>取得価額となることが一般的なので、定価販売が終わった後のセール以降のものについて、営業循環過程から外れたものとして、規則的に帳簿価額を切り下げる方法が一般的だと考えられます。

評価は原則的に個別品目ごとに行うこととされていますが、複数の棚卸資産をひとくくりとした単位で行うことが適切と考えられる場合には、継続適用を条件として、その採用が認められています(棚卸資産の評価に関する会計基準第12項)。アパレル業界においては、多種多様なアイテムを取り扱うため、個別品目ごとに評価を行うことは極めて煩雑です。紳士服と婦人服といったターゲット別、ジャケットやパンツといったアイテム別等の区分を、単独もしくは複合的に用いて細分化していくことが、実務的には多いと考えられます。さらに、アパレル品は一般的に期別で管理されることが多く、その単位は企業ごとに異なりますが、その期別をベースとしたグループ単位に細分化されることが多いと考えられます。次の表は、紳士服と婦人服、ジャケットとパンツに分けた後に、期別に細分化して評価減率を設定している一例です。

<図表1>

* AW(Autumn Winter):秋冬物
* SS(Spring Summer):春夏物


計上した簿価切下額については、翌期に戻し入れを行う洗替え法と、行わない切放し法を、棚卸資産の種類ごとに選択適用可能です(棚卸資産の評価に関する会計基準第14項)。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければなりません。
 

3. 実地棚卸

期末決算時には、まず、その時点の棚卸資産の数量を確定させる必要があります。そのため、棚卸資産のカウントを行い帳簿と照合しますが、この作業を実地棚卸もしくは棚卸といいます。アパレル業における棚卸は、主に店舗、倉庫及び工場で行います。棚卸の対象となる資産は、この章の冒頭に記載した通り、衣服から生活雑貨、コスメ等まで多岐にわたります。ショッピングモールや百貨店等に入っている店舗については、期末日の閉店後に棚卸を実施することが難しい場合があり、事前に営業時間内に実施することがあります。この場合は、棚卸実施後に販売されたものが適切に棚卸実施時の残高から差し引かれていることを確認する必要があります。倉庫や工場においては、動きの少ない資産については棚卸基準日より前に実施することも可能です。また、計画的に動きを止めることにより棚卸を順次行い、負担を平準化することも可能です。

また、材料を無償支給している場合のように、協力工場等に自社の棚卸資産がある場合には、実際に現地に出向いて自社で棚卸をするか、もしくは協力工場に依頼して棚卸を実施してもらい、その結果を入手する必要があります。
 

4. 棚卸資産に係る開示

棚卸資産について、収益性の低下による簿価切下額は売上原価とします。ただし、製造に関連して不可避的に発生する場合は、製造原価として処理することに留意が必要です(棚卸資産の評価に関する会計基準第17項)。

また、収益性の低下による簿価切下額は、金額的重要性が乏しい場合を除き、損益計算書の売上原価の内訳項目として独立掲記するか、注記を行う必要があります(棚卸資産の評価に関する会計基準第18項)。この際、洗替え法によっている場合は純額表示(戻し入れ額と繰入額の相殺後金額)とすることに留意が必要です。
 

5. 関連する内部統制

アパレル業の棚卸資産に関連する内部統制として重要なのは、棚卸立会及び期末評価に関連するものです。

① 棚卸立会

棚卸立会においては、事前に棚卸対象品と棚卸除外品を区別し整理することが重要です。アパレル業界は製品の入れ替わりが激しいため、棚卸実施前に適切に実施する必要があります。整理が終わった後に配置図やロケーションマップを作成し、棚卸対象品と棚卸除外品を明確にして、棚卸の漏れを防ぐ必要があります。また、製品のカウントについても、2名によるカウント(ダブルチェック)等、適切なチェック体制を構築する必要があります。カウント後に帳簿数量と照合し、棚卸差異が出た場合には、その差異内容が紛失や盗難によるものか、現物のカウント誤りによるものか、入出庫の入力誤りによるものか等を分析し、最終的な実際在庫数量を確定するとともに、再発防止策を検討する必要があります。棚卸の結果については、在庫責任者による確認及び承認を行う必要があります。また、3に記載の通り、外部倉庫や協力工場に一部の棚卸資産があり、棚卸を外部に依頼する場合には、実地棚卸の実施方法について確認し、必要に応じて社内の人間が現場の視察を行う等、棚卸が適切に行われていることを確認する必要があります。

② 期末評価

期末評価においては、簿価切下額の妥当性、及び計算の正確性を確認するために、その計算過程及び結果を文書化し、上長による確認及び承認を得る必要があります。簿価切下額は、一定の仮定に基づく見積りによることが多いため、過年度の見積りと実績を比較する等、適切な見積りとなっていることを毎期確認する必要があります。販売方法の変化等により過去の仮定が現実的でなくなっている場合には、適時に見直す必要があります。

③ 入庫・出庫

日々の入庫及び出庫作業においては、現品確認の上、入出庫処理を行うことが重要です。架空の仕入れや売上により不適切な会計処理が行われるのを防止するために、入庫もしくは出庫の指示を行った担当者(仕入れもしくは販売担当者)とは別の担当者が、現品確認を行うのが望ましいとされます。入庫・出庫業務に当たっては、通例でない相手先への出荷や、通常水準を超える大量の返品等イレギュラーな在庫の動きが生じた場合に、それが適切な取引に基づくものであるか確認することも、入出庫担当者の重要な役割です。また、期末時には入出庫の処理漏れを防ぐために、入庫予定もしくは出庫予定のものが全て処理されていること、処理されていない場合には、その理由を確認する必要があります。倉庫間移動や、倉庫から店舗の移動についても、決算日前後では一定の停止期間を設けることにより、棚卸の網羅性を確保する必要があります。



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