東日本大震災による災害損失の会計処理上の論点 ~税効果、翌期における見積り誤差の処理、法人税の繰戻し還付~

公認会計士 太田 達也

災害損失の見積り

東日本大地震の決算に与える影響について解説します。今3月期決算では、すでに発生した滅失損、除却損または減損について損失計上を行うことになります。また、修繕費用、資産の取壊しや除去に係る費用等についても、決算日までに発生しているものについては未払金等により費用計上を行うことになります。

ただし、修繕費用、資産の取壊しや除去に係る費用等については、決算日までに発生していないものであっても、今回の災害を起因としており、将来発生する可能性が高い費用(修繕費用等の原状回復費用、取壊し費用、除去費用等)で、金額を合理的に見積ることができるものについては、引当金の計上による費用計上を行わなければなりません。「それぞれの会計事象に係る会計基準が想定する事実確認や見積りの合理性要件と比較し、ある程度の概算による会計処理も合理的な見積りの範囲内にあるものと判断できる場合もあると考えられる。」(会長通牒)とされており、今3月期においては今後発生する費用等について、一定の方法で見積りがされています。

 

税務との関係と税効果会計

本年4月18日付で、国税庁から「災害損失特別勘定」に係る個別通達が公表されました。これにより、災害があった日から1年以内に支出が見込まれる一定の費用(被災資産の取壊しまたは除去のために要する費用、被災資産の原状回復のために要する費用、土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用、被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用)についての見積額を、今3月期決算において災害損失特別勘定の繰入として損金の額に算入することができることが明確になりました。

会計上、災害損失引当金として計上したものについて、基本的に損金算入が認められることになるため、この扱いに従うと税効果会計の一時差異は発生しないものと考えられます。したがって、繰延税金資産を計上することはないものと考えられます。ただし、4月18日の個別通達の公表前に決算を確定した企業については、税務上損金不算入とし、回収可能性を検討したうえで繰延税金資産を計上している企業もあります。

 

翌事業年度の処理(見積りの誤差)

今3月期の決算では、データ収集上の制約、時間的制約など多くの制約条件の中での見積りがされています。翌事業年度に実績が確定したときの見積金額との差額についてどのように会計処理を行うのかが論点になります。

第1に、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」における過去の誤謬に該当するのかどうかという論点ですが、今3月期決算において入手可能な情報に基づいて最善の見積りを行っている限り、実績と見積りの間に一定の誤差が生じたとしても、過去の誤謬には該当せず、遡及適用を行う必要はないと考えられます。

第2に、実績と見積りとの間の差額をどのように処理するかについてですが、重要性が乏しいのであれば、実績が確定した期に、その性質により営業損益または営業外損益として計上することが考えられます。しかし、今回の災害損失については、多くの制約条件の中での見積りであり、イレギュラーな事象が背景にあるため、実績と見積りとの間の差額の金額的重要性がある場合も想定されますが、今3月決算において入手可能な情報に基づいて最善の見積りがなされている前提のもとで、実績が確定した期の特別損益として計上することは例外的に認められるものと考えられます。

 

法人税の繰戻し還付を受ける場合

今回の災害に対して特例的な税制を定めた「震災特例法」が本年4月27日に施行されています。同法によれば、「平成23年3月11日から平成24年3月10日の間に終了する各事業年度」(または平成23年3月11日から同年9月10日の間に終了する中間期間)に繰戻対象震災損失金額がある場合は、「その事業年度開始日前2年以内に開始したいずれかの事業年度」の法人税額のうち繰戻対象震災損失金額に対応する部分の金額について、繰戻し還付を請求できます。通常の取扱いでは、中小法人に限り、前事業年度の法人税額を対象として繰戻し還付を受けることができますが、今回は東日本大地震による震災損失金額について、前事業年度と前々事業年度の2年分の法人税額を対象に繰戻し還付が受けられます。中小法人に限定されているわけでももちろんありません。

この法人税の繰戻し還付を受ける企業については、その会計処理に留意が必要です。本年4月27日に施行されたということから、3月末の決算日まで遡って効力を生じさせるのかどうか、すなわち修正後発事象として扱うのか開示後発事象として扱うのかという論点も含めて留意が必要です。それは、会社法の決算が確定している場合には、震災特例法の影響を会計上反映できない場合も考えられるからです。

仮に修正後発事象として取り扱われる場合には、未払法人税等が減額されることになり、損益に一定の影響が生じうることになります。ただし、震災特例法の成立・施行がなかったと仮定したときに、災害のあった事業年度における損失の額は繰越欠損金になっていたはずであり、当該繰越欠損金について繰延税金資産の回収可能性があると判断されていたのであれば未払法人税等の減額ではなく繰延税金資産の計上になる点が異なるだけであり、損益への重要な影響はないことになります。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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