親会社が有する子会社株式の会計及び税務処理 ~合併、清算等の局面において慎重な対応が必要~

2011年11月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

平常時の会計・税務処理

親会社が有する子会社株式の会計処理は、平常時においては特に問題となることはないと思われます。「金融商品に関する会計基準」に従い、取得原価により計上し、資産状態が著しく悪化したときに減損の処理を適切に行うことになります。

会計上減損処理をした場合であっても、税務上は損金算入要件を満たさない場合も少なくないので、その場合は申告書別表4において加算調整を行うことになります。この加算調整については、通常は税効果会計における将来減算一時差異に該当するので、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると判断されるときは繰延税金資産を計上することになります。通常は、スケジューリングが不能の場合が多いと思われます。

解散が見込まれる場合(清算中である場合を含む)

子会社の解散が見込まれる場合、別途慎重な配慮が必要になります。親会社と子会社との間に完全支配関係(定義については法法2条12の7の6号、以下同様)がある場合と完全支配関係がない場合で処理が異なる点に留意する必要があります。次のように、二つのケースに分けて整理する必要があります。

完全支配関係がある場合

親会社と子会社との間に完全支配関係がある場合、税務上、平成23年度税制改正により、①その子会社が解散をすることが見込まれる内国法人である場合、又は②その子会社が清算中の内国法人である場合には、その親会社において子会社株式の評価損を計上できないものとされました(法法33条5項、法令68条の3第1号、2号)。子会社において残余財産の確定に至った場合に、子会社の未処理欠損金額(=7年内の繰越欠損金のうち未使用のもの)を親会社に引き継ぐため、親会社において評価損の損金算入と未処理欠損金額の引き継ぎを両方とも認めてしまうと、損金の二重取りと同じ実態になるからです。

会計上は、解散が見込まれる(又は清算中の)子会社の株式については、親会社において減損処理をする場面が多いと考えられるため、申告書別表4において加算調整をします。ただし、永久に認容されない(損金算入されない)差異になるため、繰延税金資産を計上することはできないと考えられます。また、解散が見込まれる前段階において、すでに有税扱いで減損処理をしていて、繰延税金資産を計上していた場合には、解散が見込まれる段階において繰延税金資産の取り崩しが必要になります。

一方、子会社の残余財産が確定したとき、子会社の未処理欠損金額を親会社に引き継ぐことになります。子会社から引き継ぐ予定の未処理欠損金額については、親会社の一時差異等ではないため、子会社から未処理欠損金額を引き継ぐまで、繰延税金資産を計上することはできないものと解されます。

 税務上、評価損として損金算入することができないだけでなく、清算結了時においても消却損として損金算入することもできません。

完全支配関係がない場合

親会社と子会社との間に完全支配関係がない場合には、先の処理と異なります。完全支配関係がない場合には、親会社において、解散が見込まれる(又は清算中の)子会社の株式について減損処理をしたときに、税務上は評価損又は清算結了に至った時点での消却損という形で損金算入されることが想定されます。税務上、子会社の資産状態が著しく悪化していて、かつ、清算結了までの残された期間内に価額の回復が見込まれないケースも十分想定されるので、子会社株式の評価損についても、会計上の減損処理の時点で損金算入要件を満たしている場合もあり得ます。その場合は、会計上の簿価と税務上の簿価が一致しており、税効果会計の対象にならないと考えられます。

一方、会計上の減損処理の時点においては損金算入要件を満たしておらず、有税処理になった場合であっても、その後において評価損又は消却損という形で損金算入されるため、会計上の簿価と税務上の簿価との差額が、税効果会計における将来減算一時差異になると考えられます。この場合は、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるときは、繰延税金資産を計上することになると考えられます。

合併が見込まれる場合

子会社が他の法人との間で合併を行うことが見込まれる場合の親会社における子会社株式の処理には慎重な配慮が必要です。

その子会社との間に完全支配関係がある他の内国法人との間で適格合併を行うことが見込まれる場合、平成23年度税制改正により、親会社における子会社株式の評価損の計上は認められないものとされました(法法33条5項、法令68条の3第3号)。趣旨は、先の解散の場合と同じで、子会社の未処理欠損金額が合併法人に引き継がれるため、評価損の損金算入を認めると、損金の二重取りと同じ結果になるからです。

これは、会計上、子会社株式の減損処理をしても有税処理になることを意味します。また、子会社が、完全支配関係がある他の内国法人との間で適格合併をした場合であっても、親会社における子会社株式の消却損の損金算入は認められず、子会社株式の帳簿価額相当額について資本金等の額を減算することになります(法令8条1項18号)。従って、先の有税処理によって発生した会計上の簿価と税務上の簿価との差額は、税効果会計の一時差異に該当しないことになります。

また、その子会社との間に完全支配関係がない他の内国法人との間で合併を行うことが見込まれる場合については、子会社株式の評価損の計上について禁止する先の規定(法法33条5項)の適用はありません。税務上、損金算入要件を満たしているかどうかについて原則通りの判定を行うことになります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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