会計上の見積りの変更と過去の誤謬の訂正の区別について ~今後の実務においては、より慎重な対応が必要になる~

公認会計士 太田 達也

会計上の見積りの変更

会計上の見積りの変更とは、監査委員会報告第77号によれば「過去に特定の会計事象等の数値・金額が会計処理を行う時点では確定できないため、見積りを基礎として会計処理していた場合において、損益への影響が発生する見積りの見直しをいう」ものとされています。また、過年度遡及会計基準においては「新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいう」(過年度遡及会計基準4項(7))と定義されています。

会計上の見積りの変更の具体例としては、有形固定資産の耐用年数について、生産性向上のための合理化や改善策が策定された結果、従来の耐用年数と使用可能予測期間との乖離(かいり)が明らかになったことに伴い、新たな耐用年数を採用した場合などが考えられます(過年度遡及会計基準40項)。耐用年数の他にも、引当金の修正、資産除去債務に係る(除去費用や除去時期に関する)見積りの変更、工事進行基準に係る工事原価総額に関する見積りの変更などが該当します。

会計上の見積りの変更については、過年度遡及会計基準において遡及処理する必要がないとされていますが、次項以降で説明する留意点については特に慎重に対応する必要があります。

 

過去の誤謬の訂正との区別

会計上の見積りの変更の重要なポイントは、「新たに入手可能となった情報に基づいて」変更するという点です。新たに入手可能となった情報の存在が前提とされているので、過去の財務諸表作成時においてすでに入手可能であった情報を使用しなかったことによる、または誤用したことによる訂正は、過去の誤謬の訂正に該当するので(過年度遡及会計基準4項(8))、原則として、過去に遡及して訂正し、訂正による修正再表示を行う対象になります。

 

貸倒引当金の修正のケース

例えば当期において債務者甲社が経営破たんしたものと認定し、金融商品会計基準に基づく債権の区分を破産更生債権等に分類変更することにより、多額の貸倒引当金を追加繰り入れしたものとします。ところが、債務者甲社は前々期において、すでに実質的に経営破たんしていたにもかかわらず、債権管理が十分に行われていなかった結果、その事実を見逃していたものとします。その場合は、前々期において債権の区分を破産更生債権等に見直し、貸倒引当金の追加繰入をしておくべきだったということになります。これは、前々期における財務諸表作成時に入手可能であった情報を使用しなかったことによる「事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り」に該当すると考えられます※。重要性がないと判断される場合を除いて、前々期に遡及して訂正したことによる累積的影響額を、表示する財務諸表のうち最も古い財務諸表の期首残高に反映することになります。

引当金の計上については、その会計期間ごとに、財務諸表作成時において入手可能な情報に基づいて最善の見積りを行うという対応を、従来以上に心がける必要があると考えられます。繰り返しになりますが、新たに入手可能となった情報に基づいて、会計上の見積りを変更する場合は、会計上の見積りの変更に該当し、遡及処理を行う必要がないという点が重要なポイントです。

※ 過年度遡及会計基準における「誤謬」の定義は、次のとおりです(過年度遡及会計基準4項(8))。「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、またはこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう。

① 財務諸表の基礎となるデータの収集または処理上の誤り
② 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
③ 会計方針の適用の誤りまたは表示方法の誤り


固定資産除却損のケース

固定資産除却損を特別損失に計上するという実務については、従来、特にあまり意識せずに行われてきたと思われます。今後は、ケースによっては慎重な対応が求められるものと考えられます。

その発生原因が過去の誤謬に起因しているときは、過去の誤謬の訂正による修正再表示の対象になるものが生じ得ると考えられます。例えば過去において減損損失を計上すべきであったものがされていなかった場合や過去において耐用年数の見直しをしておくべきであったものがされていなかった場合などは、当期に発生した固定資産除却損を機械的に特別損失に計上するのではなく、過去に遡及して訂正を行うべきなのかどうかについて検討が必要になるケースが生じ得ると考えられます。

逆に、固定資産除却損の発生が誤謬に起因するものでないときは、当期の特別損失に計上する場面はあると考えられます。例えば使用価値が残っている固定資産を事業の再編成に伴い当期に急きょ、除却することが意思決定されたような場合は、その発生原因が誤謬に起因しているわけではないので、当期の損益に計上することになると考えられます。その場合、臨時かつ多額であるときに、特別損失に計上する場面もあり得ると考えられます。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。




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