親会社が子会社から自己株式を取得する場合の法務・会計・税務

公認会計士 太田 達也

子会社による親会社株式の取得禁止

子会社による親会社株式の取得は、原則として禁止されています(会社法135条1項、976条10号)。子会社は株式の保有を通じて親会社からの支配を受けているため、取得を自由に認めてしまうと、自己株式の取得と同様の弊害(会社財産の流出による債権者を害する恐れ、株主間の売却機会の不平等、反対派株主からの取得による取締役の会社支配の維持、相場操縦等の市場に与える影響など)、が生じ得るからです。自己株式の取得については、剰余金の分配可能額の範囲内で行うという量的規制がかけられているのに対して、子会社による親会社株式の取得については、(親会社や兄弟会社と合算した規制が必要になるという点で)量的規制が複雑になるという理由により、取得自体が原則禁止とされています(注)。

(注)江頭憲治郎「株式会社法(第4版)」有斐閣(2011年12月)、P.263。

ただし、(1) 他の会社(外国会社を含む)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合、(2) 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合、(3) 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合、(4) 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合、(5) (1) から(4) に掲げるほか、法務省令で定める場合については、例外事由として、子会社による親会社株式の取得が認められています(会社法135条2項、会社法施行規則23条)。

例外事由に基づいて、子会社が親会社株式を取得した場合であっても、その親会社株式を相当の時期に処分しなければならないと定められています(会社法135条3項)。

なお、子会社による親会社株式の取得に係る規制は、親会社が外国会社である場合の日本子会社には及ばず、逆に日本の会社の海外子会社には及ぶとする見解が見られます(注)。

(注)江頭憲治郎「株式会社法第4版」商事法務(2011年12月)、P.263~ P.264。

 

子会社による親会社株式の処分の方法

子会社は、例外的に取得した親会社株式を相当の時期に処分する必要がありますが、その処分の方法としては、(1) 親会社が自己株式として取得する、(2) 取引先等に対して相対取引で売却する、(3) 市場で売却する、(4) 市場価格への影響を考慮し証券取引所のTOSNET を利用して売却する、(5) 組織再編に際して処分するなど、いくつかの方法が考えられます。

この点、子会社は親会社に買い取ってもらうという方法もあります。実務上は、親会社が、子会社が保有する親会社株式を(自己株式として)取得する方法が採られる場合も少なくありません。この方法だと親会社が子会社から自己株式を取得することについては、株主総会の決議は必要なく、取締役会の決議で行うことができるので(会社法163条)、手続面の負担はそれほどないからです。

 

親会社が子会社から自己株式を取得する場合の会計・税務処理

1. 会計処理

親会社が子会社から自己株式を取得する場合の会計処理ですが、次のとおりであり、他の取得事由による取得の場合と何ら異なる点はありません。すなわち、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除し、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します(自己株式等会計基準7項、8項)。

仕訳表1

2. 税務処理

(1) 親会社の税務処理

自己株式を取得した場合、(1) 金融商品取引所の開設する市場における購入、(2) 店頭売買登録銘柄として登録された株式のその店頭売買による購入、その他法人税法施行令23条3項に規定されている事由による取得の場合は、みなし配当が生じませんが、親会社による子会社からの自己株式の取得は、そのいずれの事由にも該当しないので、みなし配当が生じます(法法24条1項4号)。

具体的には、親会社の取得直前の資本金等の額を発行済株式総数で除し、これに自己株式の取得に係る株式の数を乗じて計算した額について資本金等の額を減算し、その金額(資本金等の額の減算額)を自己株式の取得に係る交付金銭の額(払戻額)が超えるときは、その超える額について利益積立金額を減算します(法令8条1項17号、9条1項12号)。親会社において利益積立金額の減算が生じるときは、子会社においてそれが配当とみなされます(みなし配当)。

計算式1
仕訳表2

(2) 子会社の処理

親会社に対して親会社株式を譲渡した子会社においては、みなし配当は受取配当金、交付金銭の額(払戻額)からみなし配当の額を控除した差額(=資本金等の額に対応する金額)が株式の譲渡対価として取り扱われ、株式の譲渡対価の額と譲渡原価の額(=譲渡した親会社株式の帳簿価額)との差額が株式の譲渡益又は譲渡損として益金の額又は損金の額に算入されます。

ただし、親会社と子会社との間の関係が完全支配関係であるときは、譲渡損益は計上せず、譲渡益に相当する額は資本金等の額の加算、譲渡損に相当する額は資本金等の額の減算として処理することになります(法法61条の2第16項、法令8条1項19号)。また、みなし配当についても、みなし配当の効力発生日の前日において両法人が完全支配関係があるときは全額益金不算入となります(法法23条4項、法令22条の2第1項)。従って、完全支配関係がある場合は、子会社において所得には影響が生じません。

なお、自己株式を取得した法人は、それに応じた株主に対して、(1) 自己株式の取得である旨、(2) その事由の生じた日、(3) 1株当たりのみなし配当額を通知しなければならないとされています(法令23条4項)。通知を受けた子会社は、交付金銭の額(払戻額)からみなし配当の額を差し引いて株式の譲渡対価の額を認識し、譲渡した親会社株式の帳簿価額を譲渡原価として譲渡損益(又は完全支配関係がある場合は資本金等の額の加減算すべき額)を算出することができます。

子会社の処理 図1
子会社の処理 仕訳表1
子会社の処理 図2
子会社の処理 仕訳表2
  1. 「有価証券」勘定の貸方は、株式の譲渡原価相当額を株式の帳簿価額から減額するという意味である。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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