税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報

2018年5月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

「税効果会計に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準委員会より公表された「税効果会計に係る会計基準」の一部改正(以下、「税効果会計基準」といいます)では、①繰延税金資産および繰延税金負債を一律固定区分に表示する改正および②注記事項の追加(評価性引当額の内訳に関する情報、税務上の繰越欠損金に係る情報)に係る改正が行われました。平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されますが、一方で平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から早期適用することができるとされています。

前回のコラムでは、注記事項の追加のうちの評価性引当額の内訳に関する数値情報について解説しました。本コラムでは、税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報について取り上げます。

税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報

税効果会計基準においては、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、税務上の繰越欠損金に関する数値情報として、繰越期限別の税務上の繰越欠損金に係る次の金額を記載するものとされています(税効果会計基準5項、注解(注9)(1))。

① 税務上の繰越欠損金の額に法人税等の税率(注)を乗じた額
② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)
③ 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額

(注)法人税等の税率とは、法定実効税率です。

この重要性の判断については、前回のコラムで解説した評価性引当額の内訳に関する数値情報と同様に、税効果会計基準30項に示されている考え方を目安として判断することが考えられます。

税効果会計基準の末尾に参考として掲載されている開示例のように、繰越期限別に、「税務上の繰越欠損金」、「評価性引当額」および「繰延税金資産」の各金額を表形式で記載することが考えられます。

具体例

以下、具体例に基づき、税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報をどのように開示するのかを解説します。

企業は、分類3に該当し、翌期以降5年間(X1期からX5期)の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断したものとします。当期をX0期とし、当期末に将来加算一時差異が100、将来減算一時差異が1,200、税務上の繰越欠損金が1,000あったものとします。税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値は、次のとおりであったものとします。表の上段は、繰越期限の到来までの期間を表しています。

税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の数値
  1年以内 1年超
2年以内
2年超
3年以内
3年超
4年以内
4年超
5年以内
5年超

合計

税務上の繰越欠損金 150 150 200 300 200 1,000


(注)法定実効税率を乗じる前の数値です。

翌期であるX1期以降の一時差異等加減算前課税所得、ならびに将来加算一時差異および将来減算一時差異のスケジューリングに基づく解消見込額が、次のように見積もられたものと仮定します。なお、将来加算一時差異が重要でなく、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって、事業年度ごとに一時差異等加減算前課税所得の見積額および将来加算一時差異の解消見込額を合計して、将来減算一時差異の事業年度ごとの解消見込額と比較し、判断する取扱い(企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」12項)によったものとします。

表1

6年目以降に解消する見込みの将来減算一時差異が、180あります(以下同じ)。

一時差異等加減算前課税所得に将来加算一時差異の解消見込額を加算し、将来減算一時差異の解消見込額を減算した額が、税務上の繰越欠損金の繰越控除前の所得の金額ということになります。次のように、各期において、税務上の繰越欠損金の控除見込額が見積もられます。なお、中小法人等を除いて、繰越欠損金の控除制限が課せられ、平成30年4月1日以後開始する事業年度については、繰越控除前の所得の金額の一律50%を限度に控除できると見積もられます。

表2

税務上の繰越欠損金は、古いもの(繰越期限の到来が近いもの)から順次控除に充てるという税務上のルールに従います。したがって、上記の控除見込額の合計額480(55+95+110×3)は、繰越期限が1年超2年以内の150、繰越期限が2年超3年以内の150のうちの110、繰越期限が3年超4年以内の200のうちの110および繰越期限が4年超5年以内の300のうちの110が控除に充当されると考えます。したがって、評価性引当額を計上する対象は、繰越期限が2年超3年以内の150のうちの40、繰越期限が3年超4年以内の200のうちの90、繰越期限が4年超5年以内の300のうちの190および繰越期限が5年超の200になります。結果的に、法定実効税率を30%としますと、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、480×30%=144計上されます。評価性引当額は、520×30%=156となります。

税務上の繰越欠損金およびその繰延税金資産の繰越期限別の金額は、次のようになります。なお、下記の金額は、法定実効税率を乗じた額であり、法定実効税率を30%としています。

税務上の繰越欠損金およびその繰延税金資産の繰越期限別の金額
  1年以内 1年超
2年以内
2年超
3年以内
3年超
4年以内
4年超
5年以内
5年超 合計
税務上の繰越欠損金※1 45 45 60 90 60 300
評価性引当額 △12 △27 △57 △60 △156
繰延税金資産 45 33 33 33 144


※1 税務上の繰越欠損金は、法定実効税率を乗じた額です。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

この記事に関連するテーマ別一覧

税金・税効果 その他

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ