100%子会社から親会社に対する無対価分割の会計・税務

2018年11月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

完全支配関係がある法人間の資産の移転

完全支配関係がある法人間で資産を移転する方法としては、①譲渡、②会社分割、③現物分配など幾つかの方法が考えられますが、税務上は、平成22年度税制改正により創設されたグループ法人税制その他の改正により、①については譲渡損益の繰延の適用、また②については無対価分割の規定の適用により一定の要件を満たす場合に適格分割となることが明確化され、さらに③については適格現物分配の活用などが考えられます。これらの改正により、課税関係なしに資産の移転を行うことが容易になったと考えられます。

本稿では、100%子会社から親会社への無対価分割の会計及び税務処理について、設例を交えながら解説します。なお、「親会社から100%子会社に対する無対価分割に係る会計と税務」及び「100%子会社間の無対価分割に係る会計と税務」については、本コラムの過去の掲載分で取り上げていますので、そちらをご参照ください。

100%子会社から親会社に対する無対価分割の会計処理

共通支配下の取引に該当しますので、個別財務諸表上、子会社から親会社に移転する諸資産及び諸負債は、移転元である子会社における適正な帳簿価額により親会社に移転させることになります。なお、連結財務諸表上は、内部取引として相殺消去により取り消されます(企業結合会計基準44項)。

以下、個別財務諸表上の会計処理を説明します。移転する事業に係る諸資産の帳簿価額が100、諸負債の帳簿価額が30、子会社の簿価純資産額が200親会社の保有する子会社株式の帳簿価額が120とします。

1. 子会社の会計処理

親会社から100%子会社への無対価分割と同様の会計処理になります(企業結合・分離等適用指針203-2項(2)③、221項)。親会社株式を受け取り、これを直ちに現物配当として分配したとみなして処理します。減少する株主資本の内訳は、取締役会等の企業の意思決定機関において定められた結果に従います。実務上は、その他利益剰余金を減少させる場合が多いと思われます。

子会社の会計処理

2. 親会社の会計処理

子会社から移転を受けた事業に対する投資について回収されたと考えられますので、子会社株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額を算定したうえで、抱合せ株式消滅差損益を計上します(企業結合・事業分離等適用指針203-2項(2)③、218項から220項)。以下の仕訳では、抱合せ株式消滅差益が生じています。

親会社の会計処理

ここで移転事業と引き換えられたものとみなされる額の算定方法については、保有している子会社株式の貸借対照表価額に対して、子会社の純資産の帳簿価額に占める移転事業の帳簿価額の割合を乗ずる方法などが考えられます。上記は、この計算方法によっています。

100%子会社から親会社に対する無対価分割の税務処理

移転する事業に係る諸資産の帳簿価額、諸負債の帳簿価額、子会社の簿価純資産額、親会社の保有する子会社株式の帳簿価額は、税務上も会計上の数値と一致していたものとします。また、子会社の分割直前の資本金等の額が110であったとします。

親会社が子会社の株式を直接保有のみで全部保有している場合に、その完全支配関係がある子会社から当該親会社への無対価分割は、適格分割になると考えられます(法法2条12号の11イ、法令4条の3第6項1号イ)。

1. 子会社の税務処理

適格分割型分割の処理になるため、子会社においては資本金等の額の減少と利益積立金額の減少(または増加)を行います。

子会社における資本金等の額の減少額は、子会社の(分割直前の)資本金等の額に対して分割移転割合(子会社の前事業年度終了時の簿価純資産額に占める移転事業に係る諸資産・諸負債の帳簿価額の割合)を乗じた額になります(法令8条1項15号)。

また、利益積立金額の減算すべき額は、移転した資産の帳簿価額から移転した負債の帳簿価額と資本金等の額の減少額の合計額を減算した額になります(法令8条1項10号)。この計算結果がマイナスとなるときは、その絶対値について増加させることになります。

子会社の税務処理

2. 親会社の税務処理

親会社においては、諸資産及び諸負債を帳簿価額で引き継ぎます。

親会社が保有する子会社株式の帳簿価額に分割移転割合を乗じた額について、譲渡があったとみなして帳簿価額から落とします(法令119条の3第11項、119条の8)。このとき、所得には影響させませんので、会計上計上した抱合せ株式消滅差損益は、別表四の加算(留保)または減算(留保)の調整対象になります(本ケースは減算)。

親会社における資本金等の額の増加額は、子会社における資本金等の額の減少額から親会社が保有する子会社株式の帳簿価額に分割移転割合を乗じた額を減算した額となります(法令8条1項6号)。計算結果がマイナスとなる場合は、その絶対値について減少させることになります。

利益積立金額については、移転した諸資産の帳簿価額から移転した諸負債の帳簿価額、資本金等の額の減少額(本ケースの場合は、マイナス)及び抱合せ株式の帳簿価額の減少額の合計額を減算した額について増加させることになります(法令9条1項3号)。

親会社の会計処理

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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