個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

公認会計士 太田 達也
 

「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の一部改正

「税効果会計に係る会計基準の適用指針」が、平成30年2月16日付で改正されました。改正前の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式および関連会社株式(以下、合わせて「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異について、一律、繰延税金負債を計上することとされていました。

改正後は、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社および関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社または投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに見直されました。

① 親会社または投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合

繰延税金負債を計上しない

② 上記以外の場合

繰延税金負債を計上する

本改正は、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています。

 

子会社株式等に係る将来加算一時差異が生じるケース

子会社株式等について将来加算一時差異が生じる取引として、具体的にどのようなものがあるのかが問題となります。次のような取引が考えられます。

  • グループ法人税制の適用により、法人による完全支配関係がある場合の子会社において、完全支配関係がある法人に対する寄附金が生じたことにより、親会社において子会社株式の簿価修正が行われた場合(注)
    (注)税務上は子会社株式の簿価の減額修正が行われますが、会計上の簿価は変わりません。
  • 子会社においてその他資本剰余金を原資とした剰余金の配当が行われた場合(注)
    (注)どのような仕組みで将来加算一時差異が生じるかについて、後で設例により解説します。
  • 株式交換により子会社株式を取得したとき(会計上の取得価額が税務上の取得価額を上回る場合(注))
    (注)本コラムの2015年7月掲載分に示されている設例は、このケースに該当します。

具体例

設例:子会社からその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合

<前提条件>

当社は、子会社であるS社の株式3,000株(帳簿価額50,000千円)を保有しています。S社は、資本金の減少を行い、それによって発生したその他資本剰余金を原資とした剰余金の配当を行うこととなりました。当社は、15,000千円の金銭の交付を受けました。

次の前提条件の下で、当社の会計処理および税務処理を示してください。また、税効果会計の取扱いも併せて示してください。

  • 払戻割合 0.4
    (注)前期末の簿価純資産価額に占める資本の払戻し(配当)により減少した資本剰余金の額の割合であり、配当をした会社から株主への通知事項となります(後で解説)。
  • 1株当たりの配当額(1株当たりみなし配当の額) 1,000円
    (注)この数字も配当をした会社から株主への通知事項となります。

なお、税務上のみなし配当に係る源泉所得税等の徴収については、捨象します。

解答:

1. 会計処理

株主がその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合、配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券である場合を除き、原則として配当受領額を配当の対象である有価証券の帳簿価額から減額するとされています(「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」3項)。その他資本剰余金は、株主からの払込資本であるため、その他資本剰余金の処分による配当は、基本的には投資の払戻しの性格を持つことから、このような処理が原則とされています。

仕訳表1
2. 税務処理

税務上は、資本剰余金を原資とした剰余金の配当を受けた場合、資本の払戻しとして取り扱われます。株式の譲渡対価として交付を受ける部分と、受取配当金(みなし配当)として交付を受ける部分に区分して処理することになります。具体的には、払戻額(交付金銭等の額)のうち資本金等の額に対応する金額は株式の譲渡対価の額とされ、払戻額(交付金銭等の額)から譲渡対価の額を控除した額が受取配当金として認識されます。

ただし、剰余金の配当を受けた株主は、剰余金の配当をした法人からの通知書により、税務処理を行います。通知すべき事項は、次のとおりです(法令23条4項、119条の9第2項)。

資本の払戻しを行ったときの株主への通知事項


  • 資本の払戻しによる金銭の交付である旨

  • 資本の払戻しの日

  • 資本の払戻しに係る基準日における発行済株式総数

  • 1株当たりのみなし配当額

  • 払戻割合

以下、次のように数字を捉えることになります。

(1) 譲渡原価の計算

株式の譲渡原価の額は、株式の帳簿価額に対して払戻割合を乗じた額です(法令119条の9第1項)。払戻割合とは、前期末の簿価純資産価額に占める資本の払戻し(配当)により減少した資本剰余金の額の割合ですが(法令119条の9第1項、23条1項3号)、剰余金の配当を行った法人から各株主に対して通知すべき事項ですので(法令119条の9第2項)、親会社は子会社株式の帳簿価額に通知を受けた払戻割合を乗じて譲渡原価の額を計算します。

株式の譲渡原価の額
=50,000千円×0.4=20,000千円

この株式の譲渡原価に相当する額については、子会社株式の帳簿価額から切り下げることになります。

(2) みなし配当の額

払戻額(交付金銭等の額)が資本金等の額に対応する額を超える部分の金額がみなし配当になります。保有する子会社株式の数に、通知を受けた1株当たりの配当額を乗じて計算します。

みなし配当の額
=3,000株×1,000円=3,000千円

以上の内容から、税務上の仕訳は次のとおりとなります。

仕訳表2

(3) 申告調整

会計処理と税務処理との差異については、次のように申告調整を行います。

別表4 所得の金額の計算に関する明細書

別表4 所得の金額の計算に関する明細書
(注)XXXは、受取配当等の益金不算入額を表しています。

別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
3. 税効果会計の取扱い

先の別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」における5,000千円の減額調整は、子会社株式に係る会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差額を表しています。この調整項目は、翌期以降において、子会社株式を売却等したときに、別表4に加算(留保)の調整が入ることにより消えます。すなわち、税効果会計における将来加算一時差異であることを表しています。

この子会社株式に係る将来加算一時差異については、すでに説明しましたように、親会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上することになります。繰延税金負債を計上しない場合が生じ得る点に留意する必要があります。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。




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