貸倒損失の計上に係る留意点 ~新型コロナ禍における対応~

2020年12月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

金融商品会計基準の取扱い

受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とします(金融商品に関する会計基準14項)。貸倒見積高の算定に当たり、債務者の財政状態および経営成績等に応じて、債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3つに区分し、その区分に応じた見積りを行うことになります。

破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とし、破産更生債権等の貸倒見積高は、原則として、貸倒引当金として処理しますが、債権金額または取得価額から直接減額することもできるとされています(金融商品に関する会計基準28項(3)、注10)。

取引先の中には、新型コロナウイルス感染症の影響により、業況等が悪化している法人も生じている可能性がありますので、債務者の状況の把握にはより一層の留意が必要であると考えられます。

法人税法上の取扱い

新型コロナウイルス感染症の影響により業況等が悪化する法人が増えることが予想されますが、法的整理手続を行うケースは全体からみれば少ないと思われます。したがって、法人税基本通達9-6-1(法律上の貸倒れ)に基づく貸倒処理をするケースは限られると思われます。ただし、債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済不能のため、債権放棄により貸倒処理するケースは少なくないと考えられます。債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済不能であることについて、調査を尽くして対応する必要があると考えられます。「相当期間」については、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいいますので、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なると考えられます(国税庁 質疑応答事例「第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ」)。

また、法律上債権が生きている場合には、法人税基本通達9-6-2(事実上の貸倒れ)を検討する場面も生じますが、本通達は全額債権の回収見込みがないことが明らかな場合に認められる取扱いであるため、要件が厳格です。一部でも回収可能性が残っている場合には基本的に認められない取扱いであるため、相当慎重に取り扱う必要があります。

その点、法人税基本通達9-6-3(形式上の貸倒れ)は形式基準による取扱いであるため、否認リスクが少ないといえます。継続的な取引先との間で発生した売掛債権が対象になります。本通達の「取引を停止した時以後1年以上経過した場合」の起算日は、①債務者との取引を停止した時、②最後の弁済期、③最後の弁済の時のうちの最も遅い時である点に留意して、貸倒処理のタイミングを検討することが考えられます。すなわち、決算日時点で、上記の3つのうち最も遅い時から1年以上経過しているかどうかについて確認する必要があります。

形式上の貸倒れに係る留意点

形式上の貸倒れは、債権金額から備忘価額を控除した残額について損金経理することが要件になっています。なぜ備忘価額を残す必要があるのかですが、この通達は形式基準による特例的な取扱いですので、貸倒処理をした後に回収される可能性がないわけではありません。回収された時に例えば次のような仕訳により益金算入しなければなりませんので、備忘価額を残し(得意先台帳から抹消しないで)、後日に回収された時の処理が正しく行われる必要があるためです。

仕訳表

なお、いつ備忘価額を落とし、得意先台帳から抹消すればよいかについては、全額の回収見込みがないと判断された段階でそのように対応することは問題ないと考えられます。

復旧支援を目的とした債権の免除等の取扱い

災害を受けた取引先に対してその復旧支援を目的として災害発生後相当の期間内に債権の全部または一部の免除をしたときは、寄附金の額に該当しないものとして損金算入されるという取扱い(法基通9-4-6の2)が従来からありますが、令和2年4月13日付の法人税基本通達の改正により、新型コロナウイルス感染症により入国制限または外出自粛の要請など自己の責めに帰すことのできない事情が生じたことにより、売上の減少等に伴い資金繰りが困難となった取引先に対する支援として行う債権の免除も同様に取り扱う点が示されました。

また、同様に、同日付の法人税基本通達の改正により、新型コロナウイルス感染症により入国制限または外出自粛の要請など自己の責めに帰すことのできない事情が生じたことにより、売上の減少等に伴い資金繰りが困難となった取引先に対する支援として行う低利または無利息による融資についても、法人税基本通達9-4-6の3の適用範囲に含まれ、通常受け取るべき利率により計算した利息相当額との差額を寄附金として取り扱わず、全額損金算入が認められることが明確化されました。

この通達を適用する場合、取引先に売上の減少等の事実があるだけではなく、資金繰りが困難な状況があるかどうかがポイントになります。金融機関から融資を受けていたり、他の法人から支援を受けていたり、資金繰りが困難といえない状況があれば、寄附金として認定される可能性があります。当時支援が必要であったことを説明できるように、取引先の直近の決算書や売上の状況を示す書類等を入手し、保管しておく対応が考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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