自己株式の消却と株式交換時の留意点

2021年1月5日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

自己株式の消却

自己株式の消却は、株主から取得し保有している自己株式を消滅させることをいいます。自己株式の処分とよく比較されますが、自己株式の処分は新株発行と同様の性格であり、保有している自己株式を外部に放出して、金銭の払込みを受ける行為です。それに対して、自己株式の消却は、外部に放出しないで、会社の内部で消滅させる行為になります。

自己株式の処分は、増資と同様に、処分する価額いかんによっては1株当たりの持分の希薄化を生じさせる可能性があるのに対して、自己株式の消却にはそのような懸念はなく、発行済株式総数の適正化という観点から、既存株主の不安を払拭しやすい面があります。

株式交換に際しての自己株式の消却

株式交換の直前に自己株式の消却が行われることがよくあります。株式交換とは、完全子会社(100%子会社)となる会社の発行済株式のすべてを完全親会社(100%親会社)となる会社に取得させる組織再編手法です。完全親会社となる会社は、完全子会社となる会社の株主に、対価として自己の株式を交付します。要するに、完全親会社の株式と完全子会社となる会社の株主が保有する株式を交換する形をとります。株式交換後には、100%の親子会社関係が生じることになります。

下記の図表では、完全子会社となる会社の株主(B社の各株主)が、完全親会社となる会社に株式を提供し、代わりに完全親会社の株式の交付を受けることにより、A社とB社との間に100%の親子会社関係が形成されます。

図 株式交換に際しての自己株式の消却

株式交換の対価として、完全親会社となる会社が新株発行により交付する方法のほか、もともと保有していた自己株式を交付する方法、または、新株発行と自己株式の両方を組み合わせる方法が用いられます。

完全子会社となる会社が自己株式を保有していた場合

完全子会社が株式交換直前に保有している自己株式については、実務上注意が必要です。もともと保有していなくても、株式交換に反対する株主が反対株主の株式買取請求権を行使してきた場合、自己株式として取得せざるを得ないケースも生じます。

完全子会社が株式交換直前に自己株式を保有していた場合、その自己株式にも完全親会社となる会社の株式が交付されます。その結果、完全子会社となる会社が完全親会社株式を保有することになります。会社法上、子会社が親会社株式を取得することは禁じられていますが(会社法135条1項)、株式交換により取得することは例外事由として認められています(会社法135条2項5号、会社法施行規則23条2号)。ただし、相当の時期に処分しなければならないという規制が課されます(会社法135条3項)。

自己株式の税務上の帳簿価額はなく、対価として交付される完全親会社株式の税務上の帳簿価額もゼロになります。結果として、その親会社株式を株式交換後に関係会社等に譲渡する場合は、譲渡価額の全額が益金の額に算入され、課税対象になってしまう点に留意しなければなりません。そのため、株式交換の直前に完全子会社となる会社が、自己株式の消却を行う方法が多く用いられています。

自己株式の消却の手続

自己株式を消却する場合、消却する自己株式の数(種類株式発行会社の場合、自己株式の種類および種類ごとの数)を定めなければなりません(会社法178条1項)。取締役会設置会社においては、株主総会の決議は必要なく、取締役会の決議によります(同条2項)。

自己株式の消却を決議した場合は、会社は、遅滞なく株式の失効手続をとる必要があります。失効手続とは、株主名簿からの抹消と株券発行会社の場合は株券を破棄するなど、消却する株式を特定する意思表示を行うことと解されています (※1)。また、発行済株式総数の減少に係る変更登記も必要です。

図 自己株式の消却に係る手続の流れ

自己株式の消却に係る会計・税務処理

自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(自己株式等会計基準11項)。また、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額した結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(同基準12項)。

一方、自己株式を消却したときの税務上の取扱いですが、税務上は、何もなかったものとして取り扱います。利益積立金額も変動せず、資本金等の額も変動しません。もちろん所得にも影響はありません。

会計上、自己株式を消却した場合、消却した自己株式の帳簿価額について、その他資本剰余金の減少を認識しますが、税務上の数字には何も影響しません。申告調整が必要になりますが、詳しい内容については、拙著『「自己株式の実務」完全解説』(税務研究会出版局)をご参照いただければ幸いです。

※1 東京地判・平成2年3月29日金判857号、P27。
※2 効力発生日は、自己株式の消却決議をし、株主名簿の記載・記録を抹消したときである。株券発行会社の場合、株券の廃棄まで終了していることが必要である。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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