KAMに対する定時株主総会での対応 ~KAMに関連した質問が提起された場合の対応~

2021年6月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

KAMに係る定時株主総会での質問提起の可能性

令和3年3月期の年度決算は、KAM(監査上の主要な検討事項)の強制適用初年度にあたります。令和3年3月期に係る定時株主総会でのKAMの取扱いが問題になります。

有価証券報告書の監査報告書へのKAMの記載は強制されますが、会社法に基づく会計監査人の監査報告書へのKAMの記載は任意とされています。現状、スケジュールの関係等から会社法に基づく会計監査人の監査報告書にKAMを記載しない会社がほとんどであるため、定時株主総会後に有価証券報告書を提出する場合は、定時株主総会の段階では当事業年度のKAMの内容が株主には明らかになっていないことになります。株主からKAMに関連した質問が提起されたときに、会社としてどのように回答するかが問題となります。

KAMは株主総会における説明義務の対象か

この問題については、次のような見解が有力です。すなわち、会社法上の会計監査人の監査報告にKAMが記載されていなくても、株主総会において、監査役等に対して、会計監査人からコミュニケーションされた事項について、株主が説明を求めることは可能であると考えられます※1。金商法監査と会社法監査は実質的に一体として行われており、有価証券報告書の監査報告書にKAMが記載された場合、会社法監査においてもKAMと同様の事項が監査の重点事項として取り扱われて監査が行われるはずです。監査役等が会計監査人の監査の重点事項を、KAMと同様の事項も含めて理解した上で、会計監査人の監査の方法および結果の相当性を判断していると考えられるため、KAMは会社法上も説明義務の対象であると解されます※2

また、フェア・ディスクロージャー・ルール(FDルール)の存在が説明を要しない正当な理由に当たるという見解も存在していますが※3、取締役、監査役等による株主総会において行ったKAMについての言及が、フェア・ディスクロージャー・ルールにいう重要情報の伝達に当たると解される場合であっても、意図して行うときは同時に、そうでないときには速やかにその内容を公表すれば十分であるとの見解がみられます※4。定時株主総会の翌日に有価証券報告書を提出する会社が多く、その場合は「速やかに」に該当すると考えられます。

※1 弥永真生「KAM開示の法的検討-取締役・執行役、監査人の責任」企業会計、Vol.72、No.11、P38
※2 遠藤元一『「監査上の主要な検討事項」の法的研究(下)』旬刊商事法務No.2217、P52
※3 根本敏光他「フェア・ディスクロージャー・ルールへの実務対応の動向」旬刊商事法務No.2185、P14
※4 弥永真生、前掲(脚注1)、P38からP39

KAMに関する質問の回答をすべき者

KAMの選定を行う会計監査人が株主総会で意見を述べることができるのは、会計監査人の出席を求める株主総会の決議がある場合に限られます(会社法398条2項)。株主総会の決議が得られない場合も考えられますので、監査役等はそういった事態に備えて対応を想定しておく必要があります。

例えば会社のビジネスモデルや将来の事業計画に関する事項であれば執行側が対応することになり、監査役等と監査人のコミュニケーションや監査役等の見解に関する事項であれば、監査役等が対応すべきこととなります。また、会社法に基づく会計監査人の監査報告書にKAMの記載がある場合は、監査役等が行ったKAMの内容の相当性の判断について監査役等に説明が求められることが考えられます。

監査役等はKAMを選定する主体ではないので、監査人とのコミュニケーションの状況についての説明と監査役等としての見解を示すことが基本となります。

想定問答例

以下に、監査役等が回答すべき場合の株主総会におけるKAMに係る質疑応答の一例を示します。

Q. KAMに対する監査役としての対応

当社の監査上の主要な検討事項(KAM)は、どのような手続を経てどのような内容が決定されたのでしょうか。その過程で、監査役は監査人とどのようなコミュニケーションを図ったのでしょうか。

A.

監査人は、財務諸表の監査の過程で監査役とコミュニケーションを行った事項の中から監査上特に注意を払った事項を選定し、その中から職業的専門家として特に重要であると判断した事項をKAMとして決定します。監査人は、期初の監査計画策定の段階でKAMの候補を選定し、期中の監査活動の進捗状況を反映して適宜見直し(追加、絞り込み、入替え)を検討してきました。そのような監査人によるKAMの選定作業の中で、監査役としても監査人の意見を聴取し、情報の共有を図ってきました。

監査人によるKAM候補の見直しは、監査の過程で随時行われるものであり、監査人が監査計画の前提として把握した事象や状況が変化した場合、あるいは監査の実施過程で新たな事実が発見された場合が見直しの契機となることが多いと思われます。監査役が監査人の監査に影響を及ぼすと判断した事象を監査人に伝達した場合も見直しの契機となることが考えられますので、監査役としては受け身の対応にならないように監査人と対応を図ってまいりました。

なお、当事業年度の金商法監査においてKAMとして選定された内容は、税効果会計における繰延税金資産の回収可能性の判断の妥当性です。会計監査人による繰延税金資産の評価に係る監査手続の詳しい説明は省きますが、会計監査人は、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、専門家としての十分な注意義務を払って、その妥当性について厳密な検証を行っています。監査役としては、会社法監査においても金商法監査におけるKAMと同様の事項が監査の重点事項として取り扱われて監査が行われていることを踏まえ、KAMに係る監査対応を含めた会計監査人の監査の方法および結果を相当であると判断いたしました。

なお、KAMに関するその他の質疑応答例については、拙著「2021年 株主総会質疑応答集 財務政策」(ロギカ書房)をご参考にしていただければ幸いです。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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