完全支配関係がある法人間の寄附金・受贈益と株式の簿価修正に係る税効果会計

公認会計士 太田 達也

完全支配関係がある法人間の寄附金・受贈益の取扱い

完全支配関係(法人による完全支配関係に限る)がある内国法人間の寄附金について、寄附金については全額損金不算入(法法37条2項)、その寄附金に対応する受贈益については全額益金不算入(法法25条の2第1項)の規定が適用されます。

また、全額損金不算入となる寄附金を支出した法人の株主法人(寄附金の支出法人と完全支配関係のある法人)において、税務上、寄附金の支出法人に係る株式の簿価修正(減額修正)を行い、同様に、全額益金不算入となる受贈益を受領した法人の株主法人(寄附金の受領法人と完全支配関係のある法人)において、税務上、寄附金の受領法人に係る株式の簿価修正(増額修正)を行うことになります(法令9条1項7号)。子法人が完全支配関係にある法人に対して寄附金を支出し(課税関係なしに資産を流出させ)、その後親法人がその子法人株式を低くなった時価で譲渡することによる譲渡損の計上などの租税回避行為を防止する趣旨があると考えられます。

 

申告調整の例

以下、具体例に基づき、100%子法人間で寄附金の支出があったときの申告調整例と税効果会計の取扱いを説明します。

次の図表のように、A社の100%子法人であるB社から100%子法人であるC社に対して、寄附金が300支出されたとします。なお、B社がC社に対して単純に金銭を寄付するケースだけではなく、C社が本来負担すべき経費をB社が負担するようなケースについても、同様に取り扱われます。

図 申告調整の例

B社における寄附金は全額損金不算入、C社における受贈益は全額益金不算入となります。また、以下のように、親法人A社において、B社株式の帳簿価額の減額修正およびC社株式の帳簿価額の増額修正を行うことになります。会計上の仕訳は起きませんので、以下の仕訳は税務上の仕訳を表しており、実務上は申告調整により簿価修正を行うことになります。

なお、下記はA社の処理を表しており、B社における寄附金、C社における受贈益に係る申告調整は捨象しています。

(A社における税務上の仕訳)

(A社における税務上の仕訳)

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

上記のB社株式の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高△300は、将来においてB社株式が譲渡されたときに、別表4に300の加算(留保)が入ることで解消する差異を表しており、税効果会計における将来加算一時差異に該当します。

また、上記のC社株式の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高300は、将来においてC社株式が譲渡されたときに、別表4に300の減算(留保)が入ることで解消する差異を表しており、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。

 

繰延税金負債の計上の要否

C社株式に係る将来減算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能であると判断されるときに繰延税金資産を計上することが考えられます。

一方、B社株式に係る将来加算一時差異について、繰延税金負債を計上すべきかどうかが論点になります。

この点について、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」)において、個別財務諸表における子会社株式および関連会社株式に係る将来加算一時差異の取扱いについて、連結財務諸表の取扱いと同様とするとされている点に留意する必要があります。

すなわち、親会社または投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合は、繰延税金負債を計上しないとされます(税効果適用指針8項(2))

 

完全支配関係がある法人間における増資の引受け

下記の図表において、P社との間に完全支配関係がある子法人(S2社)が、払込金額が時価を下回る、いわゆる有利発行による増資を行うとします。この場合、S1社は新株の引き受けをせず、P社だけが新株の引受けをしたとします。有利な価額で引き受けるP社において、受贈益課税の問題が生じるかという論点が生じます。

図 完全支配関係がある法人間における増資の引受け

新株の引受けのときに払い込む金額が、その株式の時価相当額を下回る有利な価額であるときは、その有価証券の取得価額は、その有価証券の取得時の時価であると規定されており(法令119条1項4号)、時価相当額と払込金額との差額は、受贈益として益金の額に算入されると考えられます。

例えば払込金額を600、時価相当額を1,000としますと、次のように差額の400が受贈益として益金の額に算入されます。

仕訳表1

この例では、S1社が引き受けせず、専らP社が有利な価額で引き受けているため、P社に受贈益が生じます。仮にP社がS2社の発行済株式のすべてを直接保有で有しているときは、P社には受贈益は生じません。また、すべての株主が持株割合に応じて平等に引き受ける場合も、たとえ有利発行であっても、各株主には利益も不利益も生ぜず、各株主に受贈益は生じません(法令119条1項4号括弧書き)。

 

受贈益に係る益金不算入規定の適用の有無

本事例では、法人による完全支配関係がありますので、寄附金の全額損金不算入(法法37条2項)および受贈益の全額益金不算入規定(法法25条の2第1項)が適用されるかどうかという点が問題になります。

確かに法人による完全支配関係はありますが、S2社において寄附金は認識されないという点が重要なポイントです。S2社は、新株発行していますが、P社から払い込まれた金銭の額について資本金等の額が増加するのみであり(法令8条1項1号)、時価相当額と払込金額との差額について寄附金は認識されません。

この点について、国税庁から公表されている「平成22年6月30日付課法2-1ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」における法人税基本通達4-2-4の説明によれば、「完全支配関係のある内国法人間において、例えば、一方の法人が増資を行うに当たり、他方の法人に特に有利な払込金額で募集株式の発行を行う場合(いわゆる有利発行を行う場合)、有利発行を受けた法人側ではその募集株式の時価とその払込金額との差額について受贈益の額を認識することとなるが、有利発行を行った法人側では資本等取引として払込金額による資本金の増加の処理を行うことになり、その募集株式の時価とその払込金額の差額については何らの処理も行わない(寄附金の額に該当しない)ことから、このような受贈益の額も、(中略)全額益金不算入の対象とはならない。」とする旨が記述されているとおりです。

本事例の場合、S2社における税務上の仕訳は、次のようになり、寄附金は認識されません。

仕訳表2

グループ法人税制における法人による完全支配関係があるときの受贈益の益金不算入規定は、全額損金不算入となる寄附金に対応する受贈益について適用されます。本事例の場合、寄附金は生じませんので、P社における受贈益は、原則どおり全額益金の額に算入されます。

P社において子法人株式の簿価修正は生じませんので、税効果会計の処理も不要と考えられます。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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