自己株式の取得における株主の会計および税務処理 ~完全支配関係がない場合とある場合~

2021年11月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

自己株式の取得における発行法人の会計・税務

自己株式の取得における発行法人(自己の株式を取得する法人)の会計および税務処理については、会計上、自己株式を借方に計上し、貸借対照表の純資産の部の株主資本において控除する形式で表示するのに対して、税務上は、資本金等の額および利益積立金額の減少(上場会社等が市場取引により取得した場合は、資本金等の額のみの減少)を認識します。詳しくは、拙稿「自己株式の取得に係る会計・税務処理」(太田達也の視点 2017.12.1掲載分)をご参照いただければと思います。

この発行法人の処理は、発行法人と株主との間に完全支配関係がない場合とある場合で相違はないと考えられます。

自己株式の取得における株主の会計処理

自己株式の取得において、発行法人に株式を譲渡した株主の会計処理は、次のように考えられます。すなわち、株式をその発行法人に譲渡した株主においては、株式の譲渡として取り扱うものと考えられ、会計には税務上のみなし配当という考え方・取扱いはないため、譲渡対価の額と譲渡した株式の帳簿価額との差額について、株式の売却損益を認識することになると考えられます。

売却益の例

(注)売却益の例ですが、売却損が生じるケースもあり得ます。

なお、税務上のみなし配当が生じる場合は、所得税の源泉徴収(税率20.42%)が必要になり、その額について借方に法人税等または仮払税金などの科目を計上し、その分借方の現預金が少なくなります。

自己株式の取得における株主の税務処理(完全支配関係がない場合)

税務処理については、発行法人と株主との間に完全支配関係がある内国法人同士の関係の有無により、異なった取扱いになります。以下は、完全支配関係がない場合の処理です。

1. 譲渡損益と受取配当金の認識

税務上、自己株式の取得は株主に対する資本の払い戻しとして規定されています。株主に対する資本の払い戻しは、みなし配当事由(注)として、法人税法24条1項5号の規定の適用を受けます。

すなわち、自己株式を取得した発行法人は①資本金等の額の減算を認識しますが、これは払戻しを受ける株主の側からみると「出資の返還」とみるため、株主において株式の譲渡対価として取り扱います。

また、②交付金銭の額(払戻額)が①の額を上回る場合には、自己株式を取得した発行法人はその超過額について利益積立金額の減算として処理するとされています。この額はみなし配当であり、株主の側においては受取配当金として取り扱います。この受取配当金については、受取配当等の益金不算入規定の適用を受けることができます。

要すれば、株主においては、株式の譲渡対価と譲渡原価(譲渡した株式の帳簿価額)との差額を株式の譲渡損益として認識し、みなし配当の額については受取配当金として認識します。株式の譲渡損益と受取配当金を両方認識することが重要なポイントとなります。

(注)みなし配当事由とは、自己株式の取得、資本剰余金の減少に伴う剰余金の配当、残余財産の分配など、株主が発行法人から金銭等の交付を受ける場合に、みなし配当(配当とみなされる額)が生じる事由です。

2. 株主における数字のとらえ方

株主側においては、みなし配当の額等を直接計算することはできません。自己株式を取得した発行法人から通知を受ける支払通知書(正式名称「配当等とみなす金額に関する支払調書(支払通知書)」)の内容により処理することになります。すなわち、みなし配当については、源泉徴収の対象であることから、支払通知書により受取配当金の数値をとらえることができます。

また、交付金銭の額(払戻額)から受取配当金の額を控除した残額が、株式の譲渡対価となります。一方、発行法人に譲渡した株式の帳簿価額が株式の譲渡原価の額ですが、譲渡原価の額は、1単位当たり帳簿価額に譲渡株式数を乗じて計算され、通常の株式の譲渡と同様に、1単位当たり帳簿価額の算出方法は移動平均法と総平均法のいずれかによります。移動平均法または総平均法の選定については納税地の所轄税務署長に届出を行う必要があり、届出を行わなかった場合には法定の計算方法である移動平均法により1単位当たりの帳簿価額を算出します。

株式の譲渡対価の額と譲渡原価の額との差額を株式譲渡益または株式譲渡損とします。

各金額のとらえ方

  • みなし配当  
    → 支払通知書から把握
  • 株式の譲渡対価  
    → 払戻額全体から源泉徴収の対象である受取配当金(みなし配当)の額を差し引いて把握
  • 株式の譲渡原価  
    → 発行法人に譲渡した株式の帳簿価額

3. 株式譲渡損が生じるケースと株式譲渡益が生じるケース

下記の図表のように、株主においては、株式譲渡損が生じる場合と、株式譲渡益が生じる場合と両方あり得ます。

法人株主の場合、株式譲渡損は損金の額に算入され、株式譲渡益は益金の額に算入されます。一方、受取配当金(みなし配当)については益金の額に算入されますが、受取配当等の益金不算入規定の適用を受けることができます。

譲渡損が発生するケース 図表

(注)「有価証券」勘定の貸方は、株式の譲渡原価相当額を株式の帳簿価額から減額するという意味です(以下同様)。

譲渡益が発生するケース 図表

自己株式の取得における株主の税務処理(完全支配関係がある場合)

法人税法24条1項各号に掲げる事由(みなし配当事由)により当該法人との間に完全支配関係がある他の内国法人から金銭その他の資産の交付を受けた場合、株式の譲渡対価の額を譲渡原価の額とすると規定され、株式の譲渡損益は計上しません(法法61条の2第17項)。先の譲渡損益に相当する額は、資本金等の額の加減算処理となります(法令8条1項22号)。

完全支配関係がない場合は譲渡損が発生するケース 図表
完全支配関係がない場合は譲渡益が発生するケース 図表

なお、申告調整の方法などの詳しい内容については、拙著『「自己株式の実務」完全解説 ~法律・会計・税務のすべて~』(税務研究会出版局)をご参照していただければ幸いです。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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