インボイス制度下における自動販売機・自動サービス機特例のポイント・留意点

2022年10月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引

現行の制度では、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合に帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる特例が置かれています(消法30条7項、消令49条1項)。適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)の下では、この3万円特例は廃止され、「支払対価の額の合計額が少額である場合」に代えて「請求書等の交付を受けることが困難である場合」に一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められるものとされます(新消法30条7項)。

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引は、具体的には次の9つです(新消令49条1項、新消規15条の4)。限定列挙であると解されます。

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引

① 公共交通機関である船舶、バスまたは鉄道による旅客の運送として行われるもの(3万円未満のものに限る)(公共交通機関特例)
② 適格簡易請求書の要件を満たす入場券等が使用の際に回収されるもの(入場券等回収特例)
③ 古物営業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
④ 質屋を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
⑤ 宅地建物取引業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
⑥ 適格請求書発行事業者でない者から再生資源または再生部品を買い受けるもの
⑦ 自動販売機または自動サービス機からのもの(3万円未満のものに限る)(自動販売機・自動サービス機特例)
⑧ 郵便切手類のみを対価とする郵便の役務および貨物の運送(郵便ポストに差し出された郵便物および貨物に係るものに限る)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)1(出張旅費特例)

※上記の③から⑥については、買い受ける者の棚卸資産に該当する場合に限ります。

1. 出張旅費、宿泊費、日当については、所得税法基本通達9-3により所得税が非課税となる範囲内で認められ、通勤手当については通勤に通常必要と認められるものであればよく、所得税法施行令20条の2に規定される非課税とされる通勤手当の金額を超えているかどうかは問いません(インボイス通達4-9、4-10、適格請求書Q&A・問85、86)。

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる場合、帳簿に上記の課税仕入れのいずれかに該当する旨および当該課税仕入れの相手方の住所または所在地(一定の者を除く)を記載することが必要となります(新消令49条1項1号かっこ書き)。すなわち、帳簿の記載事項について、通常必要な記載事項に加え、次の事項の記載が必要となる点に留意する必要があります。

  • 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
    例:
    ①に該当する場合、「3万円未満の鉄道料金」または「公共交通機関特例」
    ②に該当する場合、「入場券等」または「入場券等回収特例」
  • 仕入れの相手方の住所または所在地(一定の者を除く)

帳簿に仕入れの相手方の住所または所在地の記載が不要とされる一定の者は、次のとおりです(インボイス通達4-7)。

イ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者

ロ 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者

ハ 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等

ニ 先の③から⑥の課税仕入れ(③から⑤に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法または宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名および住所を記載することとされているもの以外のものに限り、⑥に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る)を行った場合の当該課税仕入れの相手方

自動販売機・自動サービス機特例のポイント・留意点

自動販売機・自動サービス機特例の対象となる「自動販売機または自動サービス機からのもの(3万円未満のものに限る)」とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで、代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいいます(インボイス通達3-11)。

したがって、例えば自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービス等のように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当します。

なお、ネットバンキングによる振込は、自動販売機・自動サービス機特例の対象外です。ネットバンキングの場合、機械装置のみで代金の受領と資産の譲渡等が完結しないからです(適格請求書Q&A・問38)。したがって、ネットバンキングで振込を行う場合の振込手数料は、原則通り、一定の事項が記載された帳簿および適格請求書等の保存がなければ仕入税額控除の適用が認められません。

また、コインパーキングや自動券売機のように代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなものは対象外となります。

帳簿に記載すべき所在地

帳簿に記載する課税仕入れの相手方の所在地ですが、本来は課税仕入れの相手方である資産の譲渡等を行った事業者の所在地を記載することになりますが、自動販売機・自動サービス機特例の対象となる場合は、その設置場所を記載する対応でも問題ないと考えられます。すなわち、課税仕入れの相手方である資産の譲渡等を行った事業者の所在地または自動販売機・自動サービス機の設置場所のいずれかを記載すれば問題ないと考えられます。

なお、自動販売機・自動サービス機の設置場所を記載する場合は、番地まで記載する必要はなく、「東京都〇〇区〇〇町 自動販売機」「〇〇銀行〇〇支店 ATM」のように記載する対応で問題ないと考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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