「リースに関する会計基準(案)」における使用権モデルのポイント

公認会計士 太田 達也


会計基準案の公表

企業会計基準委員会から、本年5月2日付で企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下、「会計基準案」)および企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「適用指針案」)が公表されました。同年8月4日まで意見募集を受け付けるとされています。

今回公表された会計基準案において提案されている借手の会計処理に適用される使用権モデルのポイントを解説します。

なお、本稿は公開草案の段階の内容に基づいており、今後の確定段階で内容を再確認していただければと思います。

 

使用権モデルに基づく借手の会計処理

借手の会計処理については、IRFS第16号「リース」と同様の「使用権モデル」が採用されており、ファイナンス・リースとオペレーディング・リースの区別はありません。

借手は、短期リースまたは少額リースに該当する場合を除いて、すべてのリースについて使用権資産およびリース負債を計上することになります。

借手は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値によりリース負債を算定し、リース開始日に計上します(会計基準案32項)。

また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料および付随費用を加算した額により使用権資産を計上する(会計基準案31項)。リース開始日までに支払った借手のリース料および付随費用がない場合は、使用権資産とリース負債の計上額は同額となります。

 

利息相当額の会計処理

利息相当額については、借手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分します(会計基準案34項)。

ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができます(適用指針案37項)。


利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法
(利子込み法)

借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産およびリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する。

利息相当額の総額を定額法により配分する方法

利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法。


これらの例外的な会計処理は、IFRS第16号では設けられていない取扱いですが、実務の追加的な負担を軽減することを目的として企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」に導入されたものであり、実務において浸透していることから、本会計基準案等においても、これらの取扱いを踏襲することが提案されています。

なお、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合とされています(適用指針案38項)。現行のリース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の重要性の判断指針(企業会計基準適用指針第16号32項)と同様です。

 

使用権資産の償却

使用権資産の償却については、以下のように、基本的に現行の企業会計基準第13号および企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を踏襲することが提案されています。

契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに係る使用権資産の減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定します。この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とします(会計基準案35項)。

また、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定し、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定する必要はありません。この場合、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとします(会計基準案36項)。

契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースとは、現行の取扱いと同様に、所有権移転条項付リース、行使が合理的に確実な購入選択権付リースおよび特別仕様のリースです(適用指針案40項)。

 

企業財務への影響

不動産の賃借、事務機器・車両等の賃借、航空機の賃借等について、従来はオペレーティング・リースに該当し、賃貸借処理を適用しているものがかなりあったと思われます。

会計基準案では、借手にファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの区別はなく、すでに説明したルールに基づいてリースの識別を行うことになります。リースとして識別された場合、短期リースまたは少額リースに該当しない限り、使用権資産およびリース負債の計上が必要になる点に留意する必要があります。その結果、ROA等の財務指標に影響を与えることになる点にも留意が必要です。また、適用指針案の設例にもあるように、土地の賃貸借がリースとして識別され、使用権資産及びリース負債が計上されるケースも生じる点に留意する必要があります。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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