旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』一 第35回 日々成長 ~TRYの精神で~

市川 香代
(株)商船三井 執行役員


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年2月1日号に掲載された記事をご紹介します。



2017年、私は広報室長を経て執行役員に就きました。現在はコーポレートコミュニケーション部、働き方改革などを担当し、社内外の会議に出席する機会も増えました。責任の重たさと同時に組織や会社を改革していく面白さ、ダイナミズムを日々感じています。

しかし今日に至るまでの36年間には、3つの大きな壁がありました。失敗もありましたが、それが良薬にもなり、周囲の協力を得て成長できたと思っています。今回は、壁に向かってTRYした日々を振り返りながら、女性が働き続けることについて考えてみたいと思います。

1つめの壁は「男性社会での営業担当」。入社から6年目、最初の配属先であるコンテナ船の輸入営業部門で、営業担当になったときです。当時の海運業界は、営業は男性、女性はデスクという役割分担がありました。このとき私が感じたプレッシャーは、男女差ではなく、知識や経験不足による焦りからくるものでした。一人前の営業担当として、お客様のニーズを的確に把握し最適なサービスを提供するためには、自ら勉強し先輩やお客様から学ぶしかないと、まさに必死の駆出し時代でした。

2つめの壁は「仕事と育児の両立」。総合職の育児休職取得に前例がなかった1990年代に2回の育児休職を取りました。試行錯誤の日々でしたが、「何とかなる」ではなく「何とかする」という気持ちで行動しました。行動を支えてくれたのは家族や職場の理解と協力でした。

3つめは「限界の壁」。マネージャーになった頃です。役割が組織やプロジェクトのマネジメントに変わり、自分1人の力ではどうにもならず自信を失い、これ以上責任ある仕事はできないと思い込みました。自分で壁を作っていたのです。克服のきっかけは社内の管理職研修でした。男女問わず誰もが同様の悩みを抱えていることがわかり、加えて上司の助言もあり前向きになれました。

「企業において女性の管理職・役員登用を阻むものは何か?」この原稿を書きながら、あらためて自分に問いかけてみました。女性が仕事を継続する環境は、制度面は30年前と比べると格段と改善されました。一方、風土や意識はどうでしょうか。残念ながら、まだアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が働いているように思います。

たとえば男性管理職は「育児中の女性に、出張は負担になるから」と配慮することがありますが、それが本人の成長の機会を奪っているかもしれません。また女性自身も私が経験したように「自分には無理だ」と挑戦を諦めているケースはないでしょうか。風土や意識改革には、継続的な働きかけと実績の積み重ねが必要と考えます。

これからの時代は男女共さらに多様な働き方が可能となり、男女の差を感じることなく活躍できる場が増えていくと思います。しかし時代が変わっても悩みは尽きず、人それぞれ立ち止まる時があると思います。そんなときは先輩や同僚、あるいは家族とのコミュニケーションを大切にして欲しいです。私が3つの壁を越えたときにも、必ず周りの助言や協力がありました。そして特に若い皆さんには失敗を恐れずTRYすることをお勧めします。きっと視界が広がり新しいことがみえてきて、必ず成長につながるはずです。

(「旬刊経理情報」2020年2月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)



市川 香代

市川 香代(いちかわ・かよ)
(株)商船三井 執行役員
(コーポレートコミュニケーション部、働き方改革、サステナビリティ推進担当)
1983年大阪商船三井船舶(株)(現(株)商船三井)に入社。コンテナ船の北米輸入営業部門でデスク業務を経て顧客営業担当に。出向したグループ会社では人事・総務関連業務を担当。
2011年に広報室へ。報道対応、危機管理広報、社内報、会社ホームページなど幅広く広報業務に携わる。2014年から3年間広報室長を務めた後、2017年より現職。



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