EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
中村 真由美
アボワールインターナショナル(株) 代表取締役
Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年3月1日号に掲載された記事をご紹介します。
私の事業は、乳がん患者用ブラジャーの開発・製造です。術後の経過や胸の状態にあわせて着用でき、気持ちが明るくなるデザインのものを開発してきました。
起業のきっかけは、私自身の乳がん経験です。29年間の会社員生活では、8週間の産後休暇明けの翌日には出社する会社人間でした。「女性には仕事を任せられない」と思われるのが悔しくて、夢中で働き、気づけば管理職として多くのプロジェクトリーダーをするまでになっていました。そんな矢先の乳がん発見。
東日本大震災のあった2011年3月11日、私は両乳房の手術を受けました。
手術後、下着を買いに行き驚きました。乳がん患者用のブラはどれもベージュ。大きな面積の布で覆い幅広の肩紐ばかり。40年前に乳がん手術した祖母の頃と同じラインナップなのです。
「どうして?」、「乳がん患者はおしゃれな下着を選ぶこともできないの?」私は片っ端からインターネットで検索しては乳がん用ブラを購入し、全国各地の販売先も訪問しましたがどこも似たようなものでした。
諦めきれず「ないなら、つくろう」と決意。社名のアボワール(avoir)は、フランス語で過去完了形の役目をする言葉です。乳がんの経験を超え、これまで以上に輝く人生になるよう、願いを込めました。
志は高かったものの、まったくゼロからの出発で、地元の下着メーカーに突撃して熱弁をふるい、賛同を得て商品のデザインや製造、開発への道はつけたものの、ビジネスのプロから次々と指摘や指導を受け、熱意さえあればなんとかなるほど甘くないことを思い知らされます。私は初心にかえり、勉強し直しました。たくさんの仲間や周囲の方が私の思いを受け取り助言してくださるなど、困ったことが起きるたび、多くの人に支えられて進んできました。
乳がんは、女性のがんのなかでも最も多いといわれ、2016年の国立がん研究センター調査によると、日本人女性11人に1人は乳がんにかかると言われています。それほど身近であるはずなのに、好きな下着を選ぶことすらできないという現状。私の試みは小さな一歩かもしれませんが、社会のなかで埋もれてしまう立場の人たちへ、少しでも何かを届けていきたいと開発を続けています。
現在は、乳房再建術後の専用ブラを開発し特許を取ったり、がん治療に関連する帽子やネイルなどのケア商品を販売したり乳がんサロンを立ち上げたりと、がん経験者同士が繋がり少しでも明るく生きていけるような総合的支援にも活動が広がっています。
ふりかえると、「どうして?」と感じた思いを持ち続け諦めない気持ちが道を拓くこと、勇気をもってアプローチし続ければ熱意が伝わりご縁が広がること、本気で困ったと打ち明ければ周りから助けの手が差し伸べられること、これらに支えられて今の私があるのだと、つくづく思います。
あらためて感謝するとともに、これから続くみなさんもまた、勇気と熱意をもって自分の経験からできることを掴んでもらえたらと思います。
(「旬刊経理情報」2020年3月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)
中村 真由美(なかむら・まゆみ)
アボワールインターナショナル(株) 代表取締役
広島県福山市から京都に嫁ぎ一般事務員として再就職。その後会社は上場し、女性初の管理職として各種さまざまなプロジェクトリーダーを兼任。2011年3月両乳房乳がん手術経験したことを機に2015年に29年間勤めた会社を退職。シングルマザーで育てた2人の娘も独立し、今は事業に日々全力投球。