旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第42回 自分を育ててくれた社会へ恩返し

白田 佳子
博士(経営学)/東京国際大学商学部 特命教授/菱電商事(株)社外取締役/(株)ファミリーマート 社外監査役/(株)海外交通・都市開発事業支援機構
社外取締役/国立大学法人帯広畜産大学 監事


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年9月1日号に掲載された記事をご紹介します。



私は幼い頃から「行き場のない」環境で育ち、自活することを目標としていました。御三家と呼ばれる進学校に通いながらも、日々自立する道を模索していました。そして、高校卒業と同時に就職し自活生活を始めました。仕事に希望やまして憧れ等抱いたことはなく、担任の先生が勧めて下さった会社に就職しました。日本航空のCAでした。1970年代赤軍派によるハイジャックや飛行機事故が続いていた時代です。ただ、そのような混沌とした社会の中で初めて「仕事とは自分の存在感を実感できる場」である事を知りました。結婚退職制度により専業主婦となり4年目、突然母子家庭となりました。わずかな保険金では娘の幼稚園の学費も払えません。新聞の求人欄で見つけた企業へ勤め始めました。3歳の娘はこの時から完全なかぎっ子。家の事はすべて彼女に任せていました。

私が巡り会った会社は、その後のネットワーク社会を切り開いたアメリカ人の若者達が立ち上げた会社でした。1980年、インターネットが商用化される20年以上も前です。研修等もないまま見様見真似で技術を習得していきました。その後若者達の独立を機に私も起業。企業経営の知識も一切ないまま、会社設立から納税申告まで全ての公的手続きを一人で行ないました。経営を続けて行くうちにもっと経営の知識を身につけたいと、昼間は会社経営を続けながら、夜間に大学、大学院へ通い経営学の博士号を取得しました。そうこうしているうちに娘は高校を卒業しアメリカの大学へ進学していきました。娘の幼稚園から大学までの学費はおおよそ4000万円。教育費として最も高いコースです。よく私一人で働いてきたものと自ら感心します。一方自分はほぼ学費免除で博士号まで取得する事が出来ました。

学位取得後、当時企業会計審議会会長であった指導教授の先生の推薦もあり大学教員へ転身しました。以降大学で教鞭をとりながら上場企業の社外役員としてお手伝いしています。また内閣府に敷設されている日本学術会議で経営学委員長を務めると共に、アジア学術会議の事務局長としてアジア諸国を訪問し国家間の学術協働を推し進めました。ちなみに、アジア諸国への訪問に際しては、昔とった杵柄からツアーコンダクターのように私が内閣府の事務官を引率して各国の大臣を訪問していました。

ふと自分の人生を振り返ると、結局私は一人では何一つ成し遂げては来られなかったのです。私には帰る家はありませんでしたが、一方、そのような私に多くの方々が時に厳しく、しかし思いやりをもって指導して下さり自立できる力を与えて下さいました。それ故、今自分が出来ることは社会への恩返しです。少しでもお役に立つことがあれば、積極的にお手伝いをしていきたいと思っています。

人に求められ、必要とされることほど嬉しく、素晴らしいことはありません。どうぞ、皆さんを必要としている方々のために活躍し続けていただければと願っています。

(「旬刊経理情報」2020年9月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)



白田佳子

白田 佳子(しらた・よしこ)
博士(経営学)/東京国際大学商学部 特命教授/菱電商事(株)社外取締役/(株)ファミリーマート 社外監査役/(株)海外交通・都市開発事業支援機構 社外取締役/国立大学法人帯広畜産大学 監事

倒産予知モデルSAF2002モデルの開発者。日本航空CAから外資系企業勤務、自社起業を経て、1996年より筑波技術短期大学、日本大学、芝浦工業大学、筑波大学で教鞭を取る。また(株)アデランスホールディングス、エステー(株)ピー・シー・エー(株)、宝印刷(株)、ウィン・パートナーズ(株)、DIC(株)など上場企業の社外役員を歴任。現在、法務省法制審議会委員、東京国税局土地評価審議会会長。著書『AI技術による倒産予知モデルX企業格付け』など多数。



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