旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第55回 大志を抱き、言葉にする。

髙橋夕佳
株式会社ヒカリッチアソシエイツ 代表取締役

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2021年10月1日号に掲載された記事をご紹介します。

入学式を終えたばかりの親子のお客様。幸せそうな晴れ着姿。「ご入学、おめでとうございます!」そういったとたん、涙があふれ、目を背けました。その日は長男も入学式。母親として行ってあげられない悔しさで胸が詰まる。でも、お店を一日休めば、明日の材料費、そして滞納している家賃も支払うことができません。

私は結婚が早く、20代の大半を専業主婦として3児の出産と育児に励んでいました。同世代が希望に満ちて社会経験を積んでいる時期に、私は社会から孤立した感覚に居たのです。


そんなとき、地元新潟で人気のある「焼きあご(飛魚)」のラーメンが、東京にはないことを知りました。これは東京でも喜んでいただけるはず。


若き情熱と揺るぎない信念を抱き、3児を育てながら夫婦で起業。しかし現実は遥かに厳しいものでした。銀行融資が降りず、消費者金融で資金繰りを繋ぐ、不安で胃が引きちぎられるような毎日。無給が1年続きました。


ただ、悲観したことは一瞬たりともありませんでした。必ず会社を成長させる。今は素晴らしい未来への通り道なんだ! と、仕事に対してすっかり熱病にかかっていました。


商品や運営の改良を重ねるうちに、新宿への移転という転機が訪れました。集客、人財採用、メディア露出、大都市の利点を存分に享受し、大行列店になると、翌年から激戦区に次々と挑み続ける攻めの出店攻勢にシフト。5年ほど急成長の波に乗った結果、新型コロナでまたもや大打撃を受けました(笑)。


ですが、今でも弊社は未来を見据えた攻めのスタンス。会社のカルチャーはトップが発する言葉、姿勢で培われるものです。


冒頭のような厳しい創業期から一貫して、私は大きな理想を抱き、言葉にしてきました。できるか、できないかではなく、どうしたいか? トップは、高い理想を掲げるべきだと思うのです。売上とか店舗数だけではなく、理念とか、社会的大義も含め、大きすぎるくらいの理想を掲げたほうがよい。大事なのは、その理想を達成させることに執着すること。恐れず、言葉で伝えること。組織を最適化させること。決して優秀な社長でないことは自分で理解していますが、根拠のない壮大なビジョンを語る度胸だけは、人並み以上に持ち合わせていると自負しています(笑)。


今後弊社は、高級だし「焼きあご」をもっと身近な食材にすることで、感動や喜び溢れた食体験を提案して参ります。世界を舞台に、食の総合企業になることを目指して。


最後に。夫婦で創業した会社ですが、現在は、私が代表を継続。家事と育児は主に夫が担ってくれています。互いの存在を尊重し、支えあうパートナーとして、夫には心から感謝をしています。

髙橋夕佳


髙橋夕佳(たかはし・ゆうか)
株式会社ヒカリッチアソシエイツ 代表取締役

略歴
2005年新潟大学卒。新卒で大手不動産会社に就職するも、結婚出産を機に退職。3児を育てる傍ら、同年代の華々しい活躍に一念発起し、起業を決意。2012年「らー麺たかぎ」(東京都文京区)開業。2015年2月「焼きあご塩らー麺たかはし」に改名し新宿に移転すると、早期に行列店となる。2021年4月にミシュランガイド掲載店「らぁ麺やまぐち」他を運営する株式会社Raイノベーションの全株式を取得。直営12店舗運営中(2021年10月)。