EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
井上佳央里
Radiotalk株式会社 代表取締役
Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2021年11月1日号に掲載された記事をご紹介します。
「Radiotalk(ラジオトーク)」という音声配信プラットフォームを作っています。IT企業に入社後、ラジオ好きが昂じて新規事業として立ち上げ、法人としてカーブアウトして代表取締役を務め、現在は4億円ほど出資いただき事業を伸ばしています。
突然ですが、ビジネスの現場で「センスがない」と言われたことはありますか? 私は会社員の頃、未知の領域のさまざまな新規事業案を出しては指摘され、傷ついてしまっていました。
今となって、たしかにセンスはなかったかもしれない、でも「傷つくこと」は間違っていたと思うようになりました。今日はわずかながらの経営経験を経て、考え改めたことを書き留めてみます。
まず、「センス」は何に表れるでしょう。
これは、問いへの答えを指す速さおよび確度の高さに表れるものだと思っています。
たとえば議論の中で、成果の出そうな打ち手を直感で出せたら「センスがいい」。いつまでも出なかったり、確度の高さに共感されないと「センスがない」と言われてしまったりします。
そして、その確度の高さへの共感とは、インプットの母数から分類された「傾向」によって見出されるものだと私は捉えています。すなわちセンスとは、インプットしている「母数の大小」によって成り立つもの、と言い換えられるのではないでしょうか。
つまり仮に「センスがない」と言われたとしても、それはインプットの母数を増やすことでまだまだ解決できる話だよね、と受け取って良いと思えるようになりました。当人への否定の意味は含まれず、目を向けるべくは「母数」です。
一方、センスが良い人の言う「直感」というものは、その裏の膨大な経験やケーススタディ、知識から裏付けされたものと言えるでしょう。先天的な能力によって無根拠なあてずっぽうが当たる、という意味にはなりません。
こう考えると、経営者は社内の誰よりも多くのインプットをして、センスの標準値を上げにいかなければなりません。議論の都度、皆が調査して、収集して……とイチからインプットしていたら、時間がかかりすぎてしまいます。難航する場面こそ、直感を裏付ける積み重なりが重要となり、落とし所を作るには、メンバーのセンスを合わせにいくことまでも大切になります。
ビジネス以外に例えるなら、新宿で打合せ場を探そうとしたとき、新宿に10年勤務した人と、東京に足を踏み入れたことがない人とでは、その時の混み具合、Wi-Fi強度、静かさ、雰囲気なども含めて最適解にたどりやすい確度が前者のほうが上がる。そんな「土地勘」に近いインプットが、勝つためには必要ではないかと思っています。
私はRadiotalkを立ち上げるまで、ラジオは生きがいでした。ラジオ局に週30通のメールを送るほどでした。生きがいを仕事にすると、事業を閉じたら生きがいをなくすのではないか? と心配されることがあります。しかし、やっぱり自分の生きた道の近くには土地勘があり、愛によるインプットは衝動的に行ってしまうものです。これは好きを仕事にした起業家の1エピソードですが、事業を創るきっかけや刺激がどなたかに届けばと願いをこめて。
井上佳央里(いのうえかおり)
Radiotalk株式会社 代表取締役
略歴
1990年東京都生まれ。大学在学中にラジオ制作を経験、新卒でエキサイトに⼊社。ユーザー投稿型のBtoC、CtoCでの課金事業、広告事業に従事したのち、2017年にRadiotalkを社内ベンチャー制度でリリース。2019年3⽉、Radiotalk株式会社設立と同時に代表取締役に就任。2019年5月に毎日放送グループのMBSイノベーションドライブから約1億円の出資を受け、資本業務提携を開始。2020年10月、VCから約3億円の資金調達を実行。