旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第70回 「鈍才」としての生き方。

宇井 吉美
株式会社aba 代表取締役CEO


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2023年2月10日増大号に掲載された記事をご紹介します。



中学生の頃の記憶は、モノクロ写真のようにしか残っていない。いつ行ってもまるで夜のように暗いリビングで、祖母が座っている。息を吸って吐くように「生まれてこなきゃよかった」と言っている。肝っ玉かあさんを絵に描いたような彼女の姿が一変し、人間の脆さを受け入れるしかなかった。

祖母は私にとってのロールモデルであり、私に愛情をかけてくれた、かけがえのない人だ。その祖母が、一番辛かった時に、優しい言葉の一つもかけられなかったことを、私は一生、悔やもうと決めている。私の人生は、自分のこの”罪”を、許さないことが基盤となっている。

女性という性について考える際に着目したいのは、女性は男性以上に、豊かに感情的になれるということだ。一見悪いようにも読めるが、感情は理屈では説明がつかない原動力を、時として発揮する。

中学生の時の自分の不甲斐なさを一生償おうなんて、正直気狂いだと、自分でも思う。だけれどこの狂気が、日本の介護業界を、もとい介護ロボット業界を牽引する際に、強みになっていると私は信じている。

"人生のキャリアを考えよう"なんていうと、キラキラしたものを想像しがちだが、私は許せないことを見つける方が早いと思っている。ドロっとした感情は、ガソリンのように起爆剤になる。人生の道標が見えなくなったら、黒い感情になった瞬間を、ハジから書き出そう。

出会い頭から強烈なパンチを皆さんにお見舞いしてしまったが、このままもう一つ投げ込もうと思う。私は、自信がないから挑戦しない、というのは、矛盾していると最近気づいた。自信がないほど、自分を信じられないほど、本当に自分のことを大した人間だと思ってないなら、捨て身でなんだってやればいいんだ。それを、失敗したら恥ずかしいとか、周りにどう思われるんだろうとか思うのは、結局のところ、自分のことが可愛いのだと思う。これは、初めて1000万超えの借入をした時に思ったこと。連帯保証人の欄に、自分の名前を、書く。後は捺印すれば、融資実行だ。と同時に、そろそろ個人で返済できなそうだな、とも考える。需要があるかわからないけど、吉原で働くとか、考えなきゃいけないのかな、とよぎった。怖い、という感情の奥底に、勇気にも似た感情が芽生えた。「大したことない20代女子の人生をかけて失敗しても、世界は何も変わらない。でもそれでもしうまくいけば、こんな面白いことはないじゃないか。」

勇気を持とう、明るい人生を描こうなんて、私はさらさら皆さんに伝える気はない。ドロっとした感情と共に、捨て身になれることを見つけよう。それがきっと、等身大で生きることに繋がるはずだから。



宇井吉美

宇井 吉美(うい・よしみ)
株式会社aba 代表取締役CEO

略歴
2011年、千葉工業大学在学中に株式会社aba(
www.aba-lab.com)を設立。中学時代に家族介護者となった経験から「介護者を支える」と誓う。学生時代に「排泄ケアシステム『Helppad(ヘルプパッド)』」の開発を開始、その後製品化。2021年、「日本ケアテック協会」理事就任。MITテクノロジーレビュー主催「Innovators Under 35 Japan 2021」選出。2022年、「EY Winning Women 2022」ファイナリスト。



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