
欧州委員会がBEPSに関する指令(directive)を発表
Japan tax alert 2016年2月4日号
エグゼクティブ・サマリー
2016年1月28日に欧州委員会は、租税回避防止のための次の4つの提言を発表しました。
- EU租税回避防止指令(the ATA Directive)
- CbCレポート自動交換指令(CbCR Directive)
- 効果的な課税のためのEU外部への戦略的フレームワークについてのコミュニケーション(the external strategy communication)
- 租税条約濫用防止のための提言
EU加盟国が、租税回避防止のためのミニマムスタンダードを統一的に実行する目的でこれらの提言が行われています。本アラートでは、これらの提言のうち、欧州で事業を行う日系企業に影響が大きいと考えられるEU租税回避防止指令とCbCレポートについて取り上げています。
詳細な議論
EU租税回避防止指令
EU租税回避防止指令は、2015年12月8日にEU経済・財務相理事会(ECOFIN)が行った、BEPS対応についての発表を踏襲しており、具体的には、租税回避防止規定として6つの個別規定(利子損金算入制限規定、一般的租税回避防止規定、CFCルール、ハイブリッドミスマッチ規定、出国税及びスイッチオーバールール)についてのミニマムスタンダードを提言しています。
- 利子損金算入制限規定
利子損金算入制限規定においては、支払利子の損金の上限は調整所得金額(利子、税金、償却費控除前の課税所得)の30%とすることが確認されました。 - 一般的租税回避防止規定
EU租税回避防止指令は、租税回避目的で行われた取引について制限を行う一般的租税回避防止規定の導入について提言しています。 - CFCルール
CFCルールにおいては、子会社であるCFCの実効税率が親会社の実効税率の40%未満であり、かつ、CFCの主な所得が一定の受動所得である場合には、その未分配の利益剰余金に課税することとしています。 - ハイブリッドミスマッチ規定
金融商品や事業体に対する二カ国間における税務上の取り扱いの差異(ハイブリッドミスマッチ)により、単一の所得に対する二重損金、受領者国での益金算入を伴わない支払者国での損金算入などが発生する場合には、受領者国は、その金融商品や事業体についての税務上の性格について、支払者国の扱いに準ずることとしています。 - 出国税
企業がその本店や恒久的施設が存する国から他の国へ資産を移した場合、税務上の居住地国を移した場合などに出国税を課すことを提言しています。 - スイッチオーバールール
スイッチオーバールールについては、EU加盟国内の法人が受け取る外国配当等において、いわゆる資本参加免税に関する制限について定めています。具体的には、EU加盟国内の法人が、外国企業からの利益配当、外国企業株式の譲渡による収入、また恒久的施設からの収入などの所得を受領する場合において、配当等を支払う法人の居住地国又は恒久的施設が存する国における法人税率が、配当等を受領する法人が存するEU加盟国の法定法人税率の40%未満のときには、その配当等については免税の規定は適用されないこととされています。
スイッチオーバールールが適用される場合には、配当受領法人等で配当等について課税されることとなりますが、配当等を支払う法人の居住地国又は恒久的施設が存する国において法人税課税がされる場合には、その外国法人税については外国税額控除が適用できることとされています。ただし、外国税額控除額はその課された外国法人税の額を超えないこととされています。
CbCレポート
CbCレポート自動交換指令においては、EU加盟国は、連結総収入金額が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業グループにCbCレポートを提出の提出義務を課すように必要な措置をとるとしています。CbCレポートの提出期限は、多国籍企業グループの事業年度終了の日から一年以内とされています。
CbCレポートにおいては、収益、税引前損益、法人税等納税額と発生額、従業員数、資本金、利益剰余金、現金及び現金同等物以外の有形資産について各国における金額を記載することとされています。また、グループの構成事業体、各構成事業体の税務上の居住地国及び事業活動についても記載することとされています。
CbCレポートの提出義務は、EU加盟国の多国籍企業グループのみならず、EU加盟国に1社もしくは複数のグループ会社があるEU加盟国外の多国籍企業も提出義務があります。具体的には、EU加盟国において税務上の本店が存在する法人をもつ多国籍企業グループ及びEU加盟国において恒久的施設を通じて事業を行う法人について、CbCレポートの提出義務が課せられることとなります。
CbCレポートの提出は、2016年1月1日以降に始まる事業年度から適用されることとなっております。各国間におけるCbCレポートの交換は、多国籍企業の事業年度最終日から15カ月以内に税務当局間で国別報告書の交換をすることとされています。
おわりに
スイッチオーバールールを含むEU租税回避防止指令及びCbCレポート自動交換指令は、現時点では共に草案の段階であり、今後EU諸国による全員一致による賛同が必要となります。現在の草案に対してEU加盟国から強い政治的支持があると考えられていますが、一方で、2016年7月に予定されている最終的な指令は、現時点の草案と異なる可能性も考えられます。
上述の通り、CbCレポート自動交換指令は、欧州で事業展開をしている日本企業にも適用の可能性があります。本邦では、2016年の税制改正により、CbCレポートの提出義務は2016年4月1日以後に開始する事業年度から課せられることが予想される一方で、EUのCbCレポート自動交換指令においては、2016年1月1日以降に始まる事業年度から適用されることとなっております。そのため、3月決算法人においては影響がないと考えられるものの、12月決算法人、1月決算法人または2月決算法人については、CbCレポート自動交換指令により、CbCレポートの提出が一年前倒しになる可能性があります。この場合において、2016年1月1日から2016年3月31日までに開始する事業年度に係るCbCレポートは、本邦税務上提出の義務がないため、EU加盟国の国内法の規定に従ってCbCレポートを提出することになると考えられます。