移転価格における無形資産:新たなOECDの指針と日本の規則の検討

移転価格における無形資産:新たなOECDの指針と日本の規則の検討

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EY 税理士法人

2016年4月4日
カテゴリー BEPS

Japan tax alert 2016年4月4日号

本稿は、2016年1月18日号の「Tax Notes International」、257頁に掲載されたものです。

本稿は、日本の移転価格に関する規則との関連でOECDの新たな指針を検討し、実務において無形資産の所有権をどのように管理すべきかについて考察しています。

経済協力開発機構(OECD)では2010年以来、無形資産の移転価格に関する指針の改定作業を行ってきました。その結果としてOECDは、2015年10月5日、税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)に関するプロジェクトの行動8-10に基づく移転価格に関する最終報告書を公表しました。「AligningTransfer Pricing Outcomes With Value Creation(移転価格の結果と価値の創造の一致)」と題されたこの報告書には、OECD移転価格ガイドラインの第6章「Special Considerations for Intangibles(無形資産に対する特別な配慮)」が含まれており、完全に改定されています。

新たなOECDの指針では、無形資産の所有及び「開発、改良、維持、保護及び活用」(DEMPE)に関連する取引が対象となっています。この指針では、無形資産の法的所有権とその開発に係る資金提供が、これらDEMPE機能の実施及び統制を伴わない場合、当該の無形資産の活用から生じる利益に対する権利を確定するものではないとされています。

所有権の識別に際して、これらのDEMPE機能の実施及び統制の要素を重視するという点が、以前のOECD移転価格ガイドラインと今回の新たな指針の間の重要な違いの1つとなっています。

日本の移転価格に関する規則では、過去数年において、無形資産の所有権を識別するにあたって、一部の重要な機能の実施における重要性が認識されていました。例えば、2006年に最初に公表された「移転価格事務運営要領」(移転価格指針)では、以下のように明確に述べられています。

無形資産の使用許諾取引等について調査を行う場合には、無形資産の法的な所有関係のみならず、無形資産を形成、維持又は発展...させるための活動において法人又は国外関連者の行った貢献の程度も勘案する必要があることに留意する。

本稿では、新たなOECDによる指針の実施後の実務において、無形資産の所有権の識別に資することを目的として、EYの日本における経験に基づいて新たなOECDの指針と日本の移転価格に関する規則の比較を行います。

新たなOECDの指針におけるDEMPE機能

BEPSプロジェクト内において、無形資産が以前よりも重視されるきっかけとなった重要事項の1つとして、無形資産のリターンと当該無形資産の価値創造活動の間で非整合性があるように見られるということがありました。OECDでは、これは法的な所有権と経済的な所有権の違いが原因となっており、これによって事業と無形資産戦略の間にミスマッチが生じていると見ています。この非整合性の認識によって、近年では世界各国において以下の取引に対する移転価格の調査が厳格化しています。

  • マーケティング上の無形資産
  • 商標やブランド名及びノウハウの利用に係るロイヤルティの支払い
  • フランチャイズ
  • 委託研究開発の取り決め
  • 無形資産の改良
  • 事業再編の一環としての無形資産の譲渡

新たなOECDの指針では、これらの問題を解決するために、無形資産の活用から得られるリターンに対する権利を有する者の識別にあたって、当該無形資産に係るDEMPE機能を重視しています。

新しい指針では、単に無形資産の法的な所有権のみを理由として、自動的にリターンが認められることはないと明確に述べられています。企業が無形資産からの利益に対する権利を確保するためには、当該無形資産に係るDEMPE機能を直接実施するか、又はその実施を統制し、係るDEMPE機能に関連するリスクを引き受け、当該リスクに係る統制を行う必要があります。さらに、多国籍グループ内においてある企業が得る利益は、当該無形資産の価値に対して、他のグループ企業との比較でその企業がDEMPE機能を通じて行った貢献に依存するとされています。

新たなOECDの指針によると、独立企業間での対価を算定するための機能分析の実施にあたって、特に重要であると判断される機能には、以下のものが含まれます。

  • 研究及びマーケティング・プログラムの立案と統制
  • 予算の管理及び統制
  • 無形資産の開発プログラムに係る戦略的な意思決定の統制
  • 無形資産の防御と保護に係る重要な意思決定
  • 独立企業又は関連企業によって実施される、無形資産の価値に重要な影響を与える可能性のある機能に対する継続的な品質管理

DEMPE機能の実施における重要性とは対照的に、無形資産の開発に対する資金提供だけの場合には、利益はリスク調整後の将来の予想資本利益率に限定される可能性があります。上述したとおり、新たな指針の下での無形資産の移転価格分析の実施においては、所有権の概念から離れ、「実体」に明確な重点を置いた「取引アプローチ」の採用に向かう動きが示されています。

日本における無形資産の所有権

日本の規制では、「無形資産」は「著作権、工業所有権...等のほか、顧客リスト、販売網等の重要な価値のあるもの」と定義されており、さらに工業所有権には業務又は生産の効率を改善するための創作及び生産方式、秘訣、関連するノウハウ等も含まれると規定されています。

さらに日本の税務当局は、移転価格事務運営指針(移転価格事務運営要領)の第2章2-11(調査において検討すべき無形資産)において、無形資産が法人又は国外関連者の所得にどの程度寄与しているかを検討するにあたっては、次に掲げるものを勘案すべきであると明確化しています。

  • 技術革新を要因として形成される特許権、営業秘密等
  • 従業員等が経営、営業、生産、研究開発、販売促進等の企業活動における経験等を通じて形成したノウハウ等
  • 生産工程、交渉手順及び開発、販売、資金調達等に係る取引網等

※本アラートの全文は、PDFでご覧いただけます。

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